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北九州の“聖なるゴミ”が銀座に降臨|BABU展「TRASH IMPROV」2023.4.8〜

4月8日より銀座蔦屋書店内アートスペース「FOAM COMTEMPORARY」にてBABUの展示「TRASH IMPROV」が開催される。あのBABUが銀座に? それこそ、HOLY CLAP!これは本来、腹を抱えて笑うべき話なのだ。

BABUが銀座にやってくる

『BABU伝』を中座したまま、早くも一年半が経過している。もっともらしい言い訳を用意したいと思ったが、姑息な真似はするまい。これはひとえに著者である僕の怠慢が原因だ。

 

『BABU伝』とは本稿の筆者である辻陽介が本ウェブにて連載中のBABUの伝記。https://hagamag.com/uncategory/8782

 

だが、怠慢が引き起こされたことに理由が全くないわけではない。BABUに関する証言を多く集めていくうちに、僕はBABUという人物に関して、ある壮大な見立てを脳裏に描くようになっていた。そして同時に、その見立てにそってBABU伝を展開していく上では、読まなければならない資料や押さえておかねばならない知識が多くあることに気づいた。

そこでしばらくの充電期間を置こうということにしたのだが、ここに僕の怠慢さが顔を出した。怠慢、あるいは移り気といったほうがいいかもしれない。ありていに言うと、僕の関心が四方八方へと飛散しだしたのだ。

もちろん、今日に至るまでBABU伝のことを忘れたことはない。ただ、BABU伝にあらためて向き合う上では半端な態度では臨めないというのも偽らざる本音ではある。つまり、再開にあたっては自分の思考の全ての照準を再びBABUに合わせていく必要があるのだ。BABUという怪物にペンを持って挑むにあたって、「ながら」では到底太刀打ちできない。少なくとも僕にとって、BABU伝を書くということはそれだけの大事ということであり、中座以来のおよそ一年半、それを再び行うに足るだけの時間を確保することができずにいたのだ。

結局、言い訳がましくなってきたのでこの程度にしておくが、僕が執筆をサボっているこの期間にも、BABUは粛々と活動を続けていた。ありていに言えば、BABUが「ゴミ」と呼ぶところの作品をBABUは黙してこしらえ続けていた。そのおよそ2年分近くの“聖なるゴミ”たちが、まもなく大挙して東京に運び込まれる。

 

 

果たして、どんな作品群が展示されることになるのか、詳しいことは僕も知らない。連載中座からの一年半余り、僕は一度も北九州へと、つまりBABUのアトリエへと足を運んでいない。どこかうしろめたさもあった。たまに仕事で東京を訪れていたGallery Soapの宮川敬一に会うときも、一方的に気まずさを感じていた。BABU伝の完成という、いまだ果たされていない約束の存在がシコリとなって、僕の意識をこの間、北九州から遠ざけていたのだ。

だから、ちょっとヒヤヒヤしている。僕が勝手に遠ざかっていた北九州が、向こうから東京に押し寄せてくるのだ。バスケ部から遠ざかっていた頃の三井寿の気分、とはちょっと違うかもしれないが、もし東京でBABUと再会できるとして、その時、果たしてどんな顔をすればいいのか、まるで見当がつかない(三井よろしく膝から崩れ落ちて涙を流すわけにもいかない)。あるいは僕の存在そのものをすでに忘れているかも……それはそれで非常に寂しいが、などと、考えていたって仕方がないのである。とにかくBABUはまもなく東京にやってくるのだ。

BABUの展示は4月8日から、会場は銀座蔦屋書店内アートスペース「FOAM COMTEMPORARY」だという。あのBABUが銀座に? それこそ、HOLY CLAP! レオス・カラックスの『TOKYO!』におけるメルドよろしく、降臨の際のBGMにはゴジラのテーマがふさわしい。展示タイトルは「TRASH IMPROV」だという。これは本来、腹を抱えて笑うべき話なのだ。

展示に向かわれる皆さんにおかれましては、その前に是非ともBABU伝のバックナンバーを復習しておいてほしい。北九州の黒崎に生まれた“聖なるゴミ”が、いかにして「アート」の世界に接近したのか、その半生の第一部にあたる少年時代のエピソードが不完全ではあるものの纏まっている。少なくともBABUという人物が一体何者なのか、その片鱗くらいは掴めるものになっているはずである。

それでは皆さん、会場でお会いしましょう。気まずそうに隅っこで縮こまっている僕を見かけたら、どうかそっとしておいてやってください。

(文/辻陽介)

 

『BABU伝──北九州の聖なるゴミ』https://hagamag.com/uncategory/8782

『TRASH IMPROV』展の詳細情報はこちら→https://oil.bijutsutecho.com/special/211

 

 

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