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ケロッピー前田 『クレイジーカルチャー最前線』 #24 日本のトライバルタトゥーの最高峰 ── タトゥーアーティスト大島托の著書『一滴の黒』を読む

驚異のカウンターカルチャー=身体改造の最前線を追い続ける男・ケロッピー前田が案内する未来ヴィジョン。現実を凝視し、その向こう側まで覗き込め。未来はあなたの心の中にある。

日本のタトゥーファンのための“啓蒙の書”

 今年2022年も恒例となった新宿ビームスジャパンでの『JOMON TRIBE』展の第三弾が開催中(9月14日まで)である。昨年に続き、全身を覆う縄文タトゥーの新作を大判の写真作品(撮影=ケロッピー前田)として披露している。9月10日には、縄文土器修復・文化財修復技術者の石原道知氏を招いてトークイベント(同会場にて17:00から参加無料)も行われる。

 

新宿ビームスジャパンで開催中の『JOMON TRIBE』展・第三弾(2022年9月14日まで)

 

『JOMON TRIBE』展・第三弾の展示風景

 

『JOMON TRIBE』展・第三弾の展示風景

 

 今回、なんといっても嬉しいことは、縄文時代のタトゥー復興プロジェクトをともに推進してきたタトゥーアーティストの大島托の著書『一滴の黒』(ケンエレブックス)が刊行されていることである。今年6月、その本の出版記念イベントは東京駅構内にあるギャラリーショップ「VINYL TOKYO」にて盛大に行われているが、『JOMON TRIBE』展の予習&復習のためにも、ここで改めて、彼の著書『一滴の黒』を紹介しておきたい。

 

 

 『一滴の黒』で大島自身が書いてある通り、彼が世界のトライバルタトゥーについて書き始めたのは、それらを分類して紹介し、日本のタトゥーファンを啓蒙するためだった。一般的にトライバルタトゥーと呼ばれるものがボルネオおよびその現代的なアレンジだったのに対して、マオリ、サモア、ハワイ、マルケサス、タヒチ、中南米、台湾、フィリピンなど、それぞれ独自のデザインと文化的背景があることを知らせたのだ。最初は自らのホームページに書いていたものがウェブマガジンDOZiNE(旧HagaZine)での連載につながり、大幅な加筆&校正を経て、一冊にまとめられたことは大変めでたいことである。

 大島の語り口は彫師が彫りながら、お客さんとの会話を楽しむようなリラックスしたもので、一見馴染みのない異国の話を彼ならではのユーモアに富んだものにしてくれている。

 

『一滴の黒』の3つのフェーズ

 この本の全体を見渡すなら3つの異なるフェーズから読むことができる。つまり、タトゥーそのものに馴染みがない初級者にはちょっと変わった紀行文として、タトゥー愛好者や彫師を目指す人にとってはトライバルタトゥーの教科書として、さらに上級者向けには人類学的見地からのレアな情報を随所に見つけることができる専門性の高い一冊として読むことができるのだ。

 90年代、大島はバックパッカーとして世界を旅し始め、最初に訪れたインドでタトゥーと出会い、結局はインドに非常に長く滞在し、ゴアなどでヒッピーたちを相手に彫師としてのキャリアを始めることとなる。さらに現地で知りあった連中のネットワークでヨーロッパにも足を伸ばし、タトゥーカルチャーがダンスミュージックとも結びついていた熱い時代を実体験することとなる。90年代にカウンターカルチャーが元気よく花開いた時代の記憶が懐かしくも素晴らしい。

 

『JOMON TRIBE』展・第三弾より(モデルは本誌でもおなじみの現代魔女・円香)

 

 タトゥーについてもっと知りたい、あるいは将来彫師になってみたいと思っているような中級者向けには、大島が本格的なタトゥー修業を決意したゼロ年代以降の話が面白い。ポリネシアを旅して、現代の民族的なタトゥーのリバイバル運動に触れたことから世界各地の民族タトゥーのフィールドワークに発展していくのだ。実際、欧米圏のトライバルタトゥーの愛好者たちは、マニアックな感性で民族的なタトゥー情報の収集に没頭して、すべてを理解しつくそうとする。そんな流れは、近年は人類学的なタトゥー研究とリンクしてさらに大きな展開を見せている。

 

『JOMON TRIBE』展・第三弾より

 

 大島も世界のトライバルタトゥーと向き合ううちに、彼がもともと持っていた人類学的な興味がリンクしていく。その大きなきっかけは、タトゥー ハンターの異名をとる人類学者ラース・クルタクとの出会いであった。その興味はアイヌや沖縄、台湾、さらに縄文へとつながっており、タトゥー研究者を目指したいと思う上級者もよだれが出そうな貴重な情報が詰まっている。

 

『JOMON TRIBE』展・第三弾より(モデルはアーティストのヌケメ)

 

 特に本書のフィナーレとなる縄文のパートは、筆者も深く関わってきたテーマであるが、素晴らしい縄文タトゥー作品を手掛ける大島ならではの視点から日本における古代のタトゥーのあり方やそこに込められたものを感覚的に推察し、わかりやすい言葉で伝えてくれている。

 

「新しいタトゥーの時代」の到来

 タトゥーについての人類学的視点が興味深いのは、タトゥーの文様の起源や伝搬を辿っていくとホモ・サピエンスがアフリカで生まれ、そこから世界中に拡散していった道筋といろいろな符合を見せていることにある。大島はラースに加えて、タトゥー人類学者トマシュ・マデの名前を挙げ、縄文時代のタトゥーというテーマを大島に授けたのはトマシュであったと語っている。

 

『JOMON TRIBE』展・第三弾より

 

 本書の帯には、人類学者の中沢新一による推薦文が「新しいタトゥーの時代」という言葉とともに綴られている。本書にまとめたことで大島托もさらなる一歩を踏み出そうとしている。日本のタトゥーカルチャーの新たな時代の到来に相応しい貴重な資料として、本書は長く読み継がれていくものとなるだろう。

 そして、大島托の最新の縄文タトゥー作品は『JOMON TRIBE』展にて披露されている。ぜひとも会場でその迫力を体感し、新しいタトゥーの時代の到来に立ち会っていただきたい。

 

 

【身体改造ジャーナリスト・ケロッピー前田とタトゥーアーティスト・大島托による展示『JOMON TRIBE』第三弾!】

https://www.beams.co.jp/news/3182/

〈トーキョー カルチャート by ビームス〉は、『クレイジージャーニー』でお馴染みの身体改造ジャーナリスト・ケロッピー前田と、タトゥーアーティスト・大島托による展示を「ビームス ジャパン」にて開催します。縄文時代の文様を、現代人の身体に彫り込むことで蘇生する“縄文タトゥー”がテーマ。大島托が施したタトゥーをケロッピー前田が撮影した写真作品や、タトゥーデザインの手描きの図案などを展示します。

また、会期中の9月10日(土)には、石原道知氏をゲストにお招きしたトークショーを開催。縄文文化や展示作品についてお話しいただきます。

日本から発信する新たなカルチャームーブメントを、お見逃しなく。

2022年9月3日(土)~9月14日(水)

ビームス ジャパン 4F

https://www.beams.co.jp/shop/j/

 

【ケロッピー前田と大島托によるスペシャルトークイベント】2022年9月10日(土) 17:00~19:00 @ビームス ジャパン 4 F

ゲスト:石原道知(縄文土器修復・文化財修復技術者 / 武蔵野文化財修復研究所所長 / 東京藝術大学文化財保存学専攻非常勤講師)

 

【関連書籍】

 

『縄文時代にタトゥーはあったのか?』

ケロッピー前田 著 / 大島托 (縄文タトゥー作品)  (国書刊行会 刊)

https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336066541/

 

 

『一滴の黒』大島托 著(ケンエレブックス 刊)

https://books.kenelephant.co.jp/products/9784910315157

日本を代表するタトゥーアーティスト・大島托が、トライバルタトゥーをめぐるリアルな習俗と歴史、そして現在を描き出す旅の記録。

 

 

〈MULTIVERSE〉

「レオ・ベルサーニをめぐって 」──クィアが「ダーク」であること──|檜垣立哉

「死と刺青と悟りの人類学──なぜアニミズムは遠ざけられるのか」|奥野克巳 × 大島托

「聴こえざるを聴き、見えざるを見る」|清水高志×松岡正剛

「あるキタキツネの晴れやかなる死」──映画『チロンヌㇷ゚カムイ イオマンテ』が記録した幻の神送り|北村皆雄×豊川容子×コムアイ

「パンク」とは何か? ──反権威、自主管理、直接行動によって、自分の居場所を作る革命|『Punk! The Revolution of Everyday Life』展主宰・川上幸之介インタビュー

「現代魔女たちは灰色の大地で踊る」──「思想」ではなく「まじない」のアクティビズム|磐樹炙弦 × 円香

「生死観」としての有機農業 ──エチオピアで学んだ生の豊穣|松下明弘

「病とは治療するものにあらず」 ──全生を説いた体育家・野口晴哉の思想と実践

「俺たちはグレーな壁を生き返らせているんだ」──1人の日本人がまなざしたブラジルのストリート|阿部航太×松下徹

「BABU伝」 ──北九州の聖なるゴミ|辻陽介

「汝はいかにして“縄文族”になりしや」──《JOMON TRIBE》外伝

「土へと堕落せよ」 ──育て、殺め、喰らう里山人の甘美なる背徳生活|東千茅との対話

「今、戦略的に“自閉”すること」──水平的な横の関係を確保した上でちょっとだけ垂直的に立つ|精神科医・松本卓也インタビュー

フリーダムか、アナキーか──「潜在的コモンズ」の可能性──アナ・チン『マツタケ』をめぐって|赤嶺淳×辻陽介

「人間の歴史を教えるなら万物の歴史が必要だ」──全人類の起源譚としてのビッグヒストリー|デイヴィッド・クリスチャン × 孫岳 × 辻村伸雄

「Why Brexit?」──ブレグジットは失われた英国カルチャーを蘇生するか|DJ Marbo × 幌村菜生

「あいちトリエンナーレ2019」を記憶すること|参加アーティスト・村山悟郎のの視点

「かつて祖先は、歌い、踊り、叫び、纏い、そして屍肉を食らった」生命と肉食の起源をたどるビッグヒストリー|辻村伸雄インタビュー

「そこに悪意はあるのか?」いまアートに求められる戦略と狡知|小鷹拓郎インタビュー

「暮らしに浸り、暮らしから制作する」嗅覚アートが引き起こす境界革命|オルファクトリーアーティスト・MAKI UEDAインタビュー

「デモクラシーとは土民生活である」──異端のアナキスト・石川三四郎の「土」の思想|森元斎インタビュー

「Floating away」精神科医・遠迫憲英と現代魔術実践家のBangi vanz Abdulのに西海岸紀行

「リアルポリアモリーとはなにか?」幌村菜生と考える“21世紀的な共同体”の可能性

「NYOTAIMORI TOKYOはオーディエンスを生命のスープへと誘う」泥人形、あるいはクリーチャーとしての女体考|ヌケメ×Myu

「1984年、歌舞伎町のディスコを舞台に中高生たちが起こした“幻”のムーブメント」── Back To The 80’s 東亜|中村保夫

「僕たちは多文化主義から多自然主義へと向かわなければならない」奥野克巳に訊く“人類学の静かなる革命”

「私の子だからって私だけが面倒を見る必要ないよね?」 エチオピアの農村を支える基盤的コミュニズムと自治の精神|松村圭一郎インタビュー

「タトゥー文化の復活は、先住民族を分断、支配、一掃しようとしていた植民地支配から、身体を取り戻す手段」タトゥー人類学者ラース・クルタクが語る

「子どもではなく類縁関係をつくろう」サイボーグ、伴侶種、堆肥体、クトゥルー新世|ダナ・ハラウェイが次なる千年紀に向けて語る

「バッドテイスト生存戦略会議」ヌケメ×HOUXO QUE×村山悟郎

「世界ではなぜいま伝統的タトゥーが復興しようとしているのか」台湾、琉球、アイヌの文身をめぐって|大島托×山本芳美

「芦原伸『ラストカムイ』を読んで」──砂澤ビッキと「二つの風」|辻陽介

「死者数ばかりが伝えられるコロナ禍と災害の「数の暴力装置」としての《地獄の門》」現代美術家・馬嘉豪(マ・ジャホウ)に聞く

「21世紀の〈顔貌〉はマトリクスをたゆたう」 ──機械のまなざしと顔の呪術性|山川冬樹 × 村山悟郎

「ある詩人の履歴書」(火舌詩集 Ⅰ 『HARD BOILED MOON』より)|曽根賢

「新町炎上、その後」──沖縄の旧赤線地帯にアートギャラリーをつくった男|津波典泰

「蓮の糸は、此岸と彼岸を結い、新たなる神話を編む」──ハチスノイトが言葉を歌わない理由|桜美林大学ビッグヒストリー講座ゲスト講義

「巨大な夢が繁茂するシュアール族の森で──複数の世界線を生きる」|太田光海 × 清水高志

「反・衛生パスポートのための準備運動──連帯主義と生-資本に抗する」|西迫大祐×塚原東吾

『ごきげんよう、ヒドラちゃん』|逆卷しとね

 

PROFILE

ケロッピー前田 1965年、東京都生まれ。千葉大学工学部卒、白夜書房(のちにコアマガジン)を経てフリーに。世界のカウンターカルチャーを現場レポート、若者向けカルチャー誌『BURST』(白夜書房/コアマガジン)などで活躍し、海外の身体改造の最前線を日本に紹介してきた。その活動はTBS人気番組「クレイジージャーニー」で取り上げられ話題となる。著書に『CRAZY TRIP 今を生き抜くための”最果て”世界の旅』(三才ブックス)や、本名の前田亮一名義による『今を生き抜くための70年代オカルト』(光文社新書)など。新著の自叙伝的世界紀行『クレイジーカルチャー紀行』(KADOKAWA)が2019年2月22日発売! https://amzn.to/2t1lpxU