THE 100 GREATEST TATTOOISTS IN THE WORLD 2019 | EDITOR’S TALK| 川崎美穂 × 辻陽介「世界のタトゥーシーンは“ネオ”の時代を迎えている」
⽇本のタトゥーイスト10⼈が選ぶ、注目すべき世界のタトゥーイスト100。監修を務めた川崎美穂と編集人の辻陽介が全10回を振り返りながら現在のタトゥーシーンを語るエディターズトーク前編。
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選りすぐりの日本のタトゥーイスト10名が、各自の審美眼に基づいて選んだ“今リスペクトされるべきタトゥーイスト100人”。本企画の監修を務めた川崎美穂とHAGAZINE編集人の辻陽介が、全10回分の記事を振り返りつつ現在のタトゥーシーンについて語ったエディターズトーク・前編。
プロは「オリジネイター」に着目している
辻 2019年、HAGAZINE内で「THE 100 GREATEST TATOOISTS IN THE WORLD 2019」と題し、世界の注目すべきタトゥーイスト100名を紹介したのですが、今日は監修の川崎さん(元『TATTOO BURST』編集長)と共に、改めて2019年のタトゥーシーンや本企画の見どころなどを振り返ってみたいと思います。
川崎 最初は「現在の凄腕100人紹介したい」って、気が遠くなるような相談を辻くんに持ちかけられたとこからスタートしたのだけれど(笑)、タトゥーのジャンル別に10人ずつ選出しようか?とか、いやいやタトゥーをカテゴライズしたらつまらなくなるから止めよう!とか、すったもんだ思案した末に、独自の作風を確立している日本のタトゥーイスト10人に、海外のタトゥーイストを10名ずつセレクトしてもらう、という形に落ち着いたんだよね。
辻 結果として、すごくバランスが良かったように感じます。
川崎 うん、壮観だったね。サラッと流し読みしてもいいし、深掘りすることもできる、これはある意味、ウェブ上で開催されるタトゥーコンベンションみたいなものだから。
辻 僕が川崎さんにこの企画をもちかけた、そもそもの動機というのは、紙媒体でのタトゥー専門メディアが日本国内にないという現状への意識があったんです。じゃあ今日のタトゥー好きはどうやって情報を得てるのかっていったら、近年はもっぱらインスタグラムになっているわけで、実際、僕自身もタトゥー情報に関しては主にインスタ経由で得ていました。
川崎 無料だし、情報もダイレクトで早いし、それこそ無限にタトゥー画像が出てくるし、便利だよね。タトゥーイングのテクニックも動画で間近で観れて、それも面白い。
辻 ですが、インスタベースでタトゥー情報を追ってると、どうしても目に入るものが好きなジャンルに偏ってくるという問題も一方では感じていて。あるいは、すでにフォロワー数が多い人の作品ばかりが目に入りやすかったりもする。たとえば僕ならトライバルタトゥーやブラックワークの人ばかり追いかけがちで、だから僕のタイムラインは基本的に真っ黒なんです(笑)
川崎 ははは!日々膨大に更新される情報を網羅しようとなると、情報量が増えたぶん、実は以前よりも全体を見回すことが難しくなっているのは否めない。
辻 だから、そうした現在のタトゥーシーンの豊饒さであったり、今日におけるトレンドのようなものをもっと編集された形で見渡せるようなものが個人的にも欲しいというのがあったんです。それも「通」による批評的な視点を介した形がよかった。となると、自分では到底できそうもない。そこで、そんなことができそうな日本で唯一の編集者である川崎さんにお声がけさせていただいた、というわけです(笑)
川崎 押忍!
タトゥーマーケットの構造的な変化
辻 この企画を立ち上げる時にも話に上がりましたが、専門メディアが存在しないと批評的な視点というものがなかなか成立しないんですよね。そして批評的視点がないと審美眼もなかなか育ちづらいというのはあると思うんです。
川崎 目の肥えたクライアントがシーンを活性化させるっていう相乗効果は絶対にありますよね。タトゥーっていうのは、お客さんの意思と彫師の技術力、双方の美意識が融合されたところに生まれるアートだから、ファインアート(純粋芸術)とは決定的に異なる。
辻 そういう意味で今回のセレクションというのは「タトゥーのプロはこういう風にタトゥーを見ている」という、ある意味で「通」な視点そのものを提供しているとも言えると思うんです。僕自身、自分の好みとかとはまた別の角度から様々なタトゥーを見れたことで、とても刺激になりました。川崎さんは全体100人を並べてみたときにタトゥーシーン全体の傾向としてはどんなことを感じましたか?
川崎 選ぶ人の視点がそれぞれなのは当たり前だけど、今回選ばれた顔ぶれは想像してた以上に新鮮だった。タトゥーってお客さんの注文ベースで作品が作られるから、なかには「あ、このテイストはあの人っぽいな」とか「この画風はこの人っぽいな」とか、持ち込みされたものには元ネタの存在を感じることがある。それ自体は決して悪いことでも珍しいことでもないのだけれど、今回セレクトされた100人は独創性に富んでいて、やっぱりプロフェッショナルはオリジネーターを見てるんだな、と感じましたね。もちろんトレンドも追ってるのだけれど、きちんと震源地を探り当ててるというか。
辻 なるほど。オリジネーターが誰かというのは、たしかに一般の人からはわかりづらいところですよね。
川崎 たとえば、ものすごくダサくて古くさいモチーフを持ってきて「これを彫りたいです」ってオーダーをしてきたお客さんがいたとして、彫師はキレイに描きなおして下絵を提出したりするんですけれど、その人はそういうアレンジを求めてなかったりもする。良かれと思って現代風に手を加えても喜ばれるとは限らないわけ。タトゥーにおいては、ある種の相互模倣が当たり前にありますし、共有されている定番のモチーフや文様もある。そこに関しては、タトゥーが顧客満足度で成り立ってるシーンである以上は仕方がないのでしょうけれど。
辻 でも、さっき川崎さんが指摘したように、まさにそこがタトゥーアートならではの特異点であり面白さですよね。もちろん、ファインアートなんかに関しても作品内容までオーダーしてくるクライアントがいるケースもあるし、そもそもマーケットを無視したものを作れば買い手だってつきづらいと思うので、完全に自由に自律して制作しているというわけではないと思いますが、ただ売る売れないを棚にあげれば、自由に描く、創るということは、割としやすいと思うんです。その点、タトゥーは基本的にクライアントワークであって、彫る側の意志より彫られる側の意志が重視されるケースが多く、だから、相乗的に進化をしていかざるをえないところがある。いくら彫師の方に超画期的なアイディアがあっても、それを受け入れるクライアントがいなかったらその作品は世に出ないわけです。作者性に揺らぎがある。なんせメディウムが意思を持った人間なわけですからね(笑)
川崎 あるいは逆に、お客さん側のアイディアが彫師を刺激して、新しいジャンルやトレンドが誕生するというようなこともあるからね。
辻 そうですね。ところで、今回の企画でも画像はインスタからの引用が中心でしたね。ここ10年のシーンの変化としては、インスタの普及ということがやっぱり大きいように思います。インスタ以前と以後では、タトゥーシーンは何が一番変化したと言えるんでしょう?
川崎 まず参入の気軽さですよね。他のSNSと違って文字を書く必要もなく、簡単に写真だけアップできるのでインスタはポートフォリオの役割をしています。タトゥーとインスタは相性がいいんですよ。言語の壁を超えて、いいなって思ったものが世界中で同時にフォローされるから、最近ではちょっとした芸能人の何十倍ものフォロワー数がいる彫師さんもいますし。
辻 そうしたマーケットの構造変化は、少なからずタトゥー作品の趨勢にも影響しているんではないかとも思うんですけど、川崎さんはどう見てます?
川崎 情報の伝播のスピードは格段に上がりましたよね。それによってトレンドがめまぐるしくなった。それこそ『TATTOO BURST』は隔月誌だったし、撮影取材して、編集して印刷して、雑誌として発売されて、それが海外に輸出されて、それを海外の彫師たちが手にとり、作品写真にインスピレーションを受けて、っていう流れだったわけで。今はその時差が全くない。同時進行でいろんなことが進んでる。これは完全にインターネットならではのスピード感ですよね。それとは別に、全体的に基礎的な画力がものすごく高くなってるな、と実感しています。
辻 画力に関しては驚くべき人たちがたくさんいましたね。
川崎 有名美大やアートスクールを卒業した人たちが、今回紹介した100人の中にも結構いることは、とても印象的でした。アーティスト志望だった人たちが自分の絵で勝負をしていこうというときに、彫師という職業をチョイスしてる。近年アメリカなどでは優秀な人材を確保するために、アートスクール卒業見込みの人に、スタジオのオーナーが「うちで働かないか」ってスカウトをかける青田買いも行っていましたからね。とはいえ、絵が上手いだけでは彫師になれないという現実もあるのですが。
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第2回目のセレクターNaoki氏に選出されたSarah Kate(オーストラリア)も大学で視覚芸術を学びながらタトゥーアーティストの道を志した一人だ。
「インスタ映え」時代のタトゥー鑑賞
辻 ちなみにマーケットのあり方についてはどうなんでしょう? これだけ多くのタトゥーイストがインスタで作品をだしていて、それがフラットに見れるという状況になってしまうと、やっぱりインスタで作品を見て「かっこいい」と感じた人に入れてもらいたくなると思うんです。僕の若い頃は、まだ「家からスタジオが近い」とかが重要だったりしたんですけど、こうなると、結構はっきり分かれてきちゃうんじゃないかな、と。たとえば、世界的に抜きん出てる人たちっていうのがいるじゃないですか。その一方で、もうちょっとローカルに活動している人もいるわけで。
川崎 活躍の場がワールドクラスかローカルクラスかという位置付けは昔からあって、それこそ有名なコンベンションに参加できるのは基本的にワールドクラスだと言われています。だから海外のコンベンション取材は貴重な情報源だったわけで。それを見た行動力のあるタトゥーを本気で好きな人たちは、自分の望むタトゥーを求めて世界を駆け巡っていました。これだと思った彫師のもとへ行くために、新幹線に乗ったり飛行機に乗ったりっていうのは珍しいことではなく、それがインスタの登場で個人レベルで判断できるようになったのが、今なのだと思います。
辻 タトゥーツーリズムですね、まさに。
川崎 そうそう。これは私の持論ですが、タトゥーって“何を入れるか”よりも“誰に入れてもらうか”が重要だと思っています。もちろん、そこから発展して“誰に何を入れてもらうか”まで考えを巡らせることができれば最高なのですが、実際はなかなか難しい。みんな最初は絵柄の意味とかに気をとらわれてしまうから。作家や職人の個性を活かす、という選択肢は考えづらい。
辻 今回紹介した100名の中には、まだジャンルとしても固まってない、得体の知れない作品を作ってる人もいましたけど、そういうタトゥーを全身にがっつり入れているタフな人もいたし、ちゃんとお客の側も彫師の創造性についていっているなと感じました。実験的で挑戦的な作品がこんなにも多く生み出されているというのが、タトゥーが新たなフェーズに突入した何よりの証明だと思います。
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第7回目のセレクター大島托氏が選出したCy Wilson(スイス)は暴力的なアブストラクト表現によってブラックワークの辺境を突き進んでいる。
川崎 自分の身体を使ってアートを表現したい、という考え方やアイディアがすごく強まってるな、とは実感しますよね。平面に描かれた絵とタトゥーの決定的な違いは、身体は立体だということなのですが、皮膚の伸び縮みや関節の動き、見る角度を変えることで見所が変わる面白さがある。そこを理解している人も増えていて、だからこそ写真よりも動画でじっくり観たくなるのは、やはりフルボディ作品ですよね。スマホの画面だとフルボディはどうしても全体像が小さくなってしまうので。
辻 着手から完成までの何回かのセッションを定点カメラで撮影して、それを編集して繋いで早送り再生する動画なんかも、結構インスタにはあげられてますよね。あれも面白いです。
川崎 紙と違ってデジタル画像の場合、拡大して見れるのもいいよね。細かな細工までしっかりと見ることができる。ただ、私としてはやっぱり現地で本物を見るのが一番面白いんだけどね。感動の衝撃レベルが格段に高いから。
辻 ただ、いわゆる「インスタ映え」の影響もあるのかな、と。たとえば韓国などのプチプラ系ファッションの通販サイトの商品写真なんかが、最近は服のひだや質感、ブランドの世界観が伝わるようなプロの写真ではなくて、スマホとかでモデルが自撮りし加工アプリで簡素にレタッチされた写真であったりする場合も多いらしいんです。これはなんでかというと、今の買い手にとって、それこそがまさにリアルな写真であるから。実際、その購入した服を着た自分をスマホで撮影してインスタにあげるわけで、そこでいかに映えるかということが商品の選択の上でも基準になってくるし、あるいは、そうした粗雑なアプリ加工こそが衣服の本当の質感をたぐる鍵になっている、ということを、以前、きりとりめでるさんという批評家が書いていたんです(参照:『STUDIO VOICE』vol.414所収「襞じゃなくて写真を」きりとりめでる)。
川崎 外国人モデルが着るより、読モの方がリアルなのと同じこと?
辻 それと近いのかもしれませんね(笑)。つまりは、実存の置き場が現在ではインスタグラム上にあるという話でもあると思うんですけど。で、これはタトゥーにおいてはどうなんだろう、と思ったんです。これだけインスタがタトゥーメディアとしてメジャーになり、インスタ越しの鑑賞がタトゥー鑑賞の主流になっていくと、インスタ映えするかどうかということがタトゥー作品の傾向を作っていくということも、あるいはあるのかもしれないな、と。
川崎 そもそもタトゥーって、映えてなんぼの世界なんですよ。それこそ日本であれば火消しの時代から、自分の肉眼では確認できない背中が映えてるかどうかを意識してきた文化。いま辻くんが指摘してるインスタ映えというのは、インスタ登場以前から指摘されている、カメラがデジタル化したことによる弊害のことだと思うのですが。要するに、写真をフォトショップ加工ができるようになって、実際の肌の色とは違う見せ方も一般的になり、タトゥーの色を鮮やかに見せたり、見栄えを盛ることができるという。
辻 それこそインスタには完成直後の作品写真が並ぶわけですし、肌が落ち着いてからの発色とも異なる。
川崎 彫師によっては完成1ヶ月後とか、完治後の写真を投稿していたりもするのですが、いかんせん完治した写真が撮れる機会などほとんどないのが実情です。さらに言及すると、その後のケアや日焼けなどでも変色はいくらでもしますからね。タトゥーには完成という概念がないのかもしれない。ただし、本来プロフェッショナルな彫師たちは、年月を経た時にどう発色するかというところまで計算しながら仕事をされています。その視点でいうと、どうしても駆け出しの人には10年後の自分の作品の色というものがイメージしきれないところはある。デジタル写真の発色だといいけど、実際に生で観たらどうなんだろう、あるいは10年後はどうなんだろうって疑問を感じる作品もあるにはありますよね。色だけじゃなく、線にしても経年で潰れてしまうことってあるから。これ本当に5年後、10年後も識別できるのかな、みたいに感じる作品は確かにあるかな。ただ、一方でマシンの性能も上がってるから、今までの感覚だと10年後には残らないと思うような線も残ったりするかもしれないし、そこはいつの時代も未知数ですよね。
辻 マシンやインクの進歩によって生まれる柄の変化というのは見逃せないですよね。それこそブラックアウトのような広範囲のツブシが可能になったのは、マシンの進歩によるところも大きいみたいですし。
川崎 リアリスティックやポートレイト、ファインラインもしかり。マシンの性能が向上したことと、インクの色数が増えたことは、タトゥーの表現方法をグッと広げました。どこのインクを使うかは基本的に各彫師の好みです。どういう色合いを肌に残したいのかで使うメーカーも違ってくるし、サラサラ系かドロドロ系かなど、彫師さんの手癖との相性もある。マシンのセッティングや速度との兼ね合いとかも。たとえば赤という色一つをとっても真紅っぽいものからベンガラみたいなものまで、ものすごいグラデーションがあるじゃないですか。それぞれ「自分はこの赤だ」「黒はコレに限る」など、それぞれにこだわりがあったりします。だから鑑賞ポイントには、絵のタッチ以外に、色彩が好み、という見方もあります。
辻 面白いですね。そういうところも含めて、タトゥーを審美するという奥深さを、この企画では楽しんでもらいたいです。
コラボタトゥーの可能性
川崎 もうひとつ、インスタの楽しみ方には個人の変化を追えるところもあります。キャリアのまだ浅い彫師だと、それこそ超初期の頃から現在に至るまでの作品が辿れるんですよね。遡っていくと、この人はこの時期にすごい絵の練習を頑張って、新しい作風に挑戦しようとした軌跡が見えたり、新しいスタジオに所属したら急激に技術が向上したり、作品がバズった瞬間もわかる。インスタのアカウントが成長の記録にもなっているんです。そこにはドキュメンタリー的な感動もあって。
辻 下手すると彫師を志す以前の生活や旅行の思い出、家族写真なんかもアップされてるわけですしね。
川崎 そうそう、人物史になってる(笑)。人によってはこれからもどんどん作風が変わっていく彫師もいると思う。今回は、各彫師のコメントに沿った作品3点を私のほうでチョイスさせてもらったのですが、ルールとしてコラボレーティブタトゥーは掲載しなかったんですよ。でも「お!」と印象に残ったものもあって。
辻 この記事では是非紹介しましょう。川崎さんから見て面白かったコラボタトゥー作品を何点か。
川崎 第4回目のセレクター彫マンさんが選んだHandsmarkの作品の中から、Jessi Manchesterとのコラボ作品。ブラックワークのなかでも作風の違う二人が合作したことで表現が豊かになっています。この作品、個人的にはとっても好みでした。
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同じコラボでも第7回目のセレクター大島托さんが選んだElle Mana-Festinから。こちらは逆で、コラボしたことがわからないくらい自然に馴染んでいる。それも彫師の腕の見せ所であり、タトゥーの面白いところだと思います。
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ひとえにコラボといっても様々なパターンがあるのですが、複数の彫師の作品を所有しているタトゥーコレクターの身体などは、ある意味1つの身体のなかで彫師たちが日々コラボしている究極のコラボ作品とも言えます。
加え、さきほどインスタの映えに関する話しをましたが、インスタならではの表現として近年、写真の背景にタトゥー作品の世界観を補強する、エンタメ感に溢れた画像を合わせるムーブメントもあります。これも興味深かった。
第2回目のセレクターナオキさんがピックアップした、イタリアのBrando Chiesaとか、アメリカのThom Bulmanとかね。
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辻 Thom Bulmanは、マンガ家(Cartoonist)とタトゥーイスト(Tattooist)を組み合わせた〝タトゥーンイスト(Tattoonist)〟と名乗ってるあたりも、すごくコンセプチュアルですよね。
川崎 だからインスタはね、より作家性や世界観を表現するツールとして機能する方向に進んでいるのだと思うんですよ。タトゥーには彫師とクライアントの相性も関係してくるので、共感できるかどうかも重要ですし。単に完成したタトゥーを置いておく倉庫ではない、という。
タトゥーは「ネオ」の時代に突入した
辻 交わるといえば、ジャンルの交錯や相互影響もより活性化している印象をもちました。ミクスチャー感の強い作品が多かった気がします。
川崎 それは流行とは別ベクトルにある、彫師のセンスと努力の賜物ですよ。例えば、トラッドから入って、リアリスティックを手がるようになり、その後ネオトラディショナルに進化していくとか。作風の変遷が最終的に融合して、その人らしい作風へと押し上げている。何を土台にして、何を積み重ねてきたか、ということで現在の作風が出来上がってるんですね。リアリスティック~バイオメカ~ニュースクールとか、オールドスクール~ジャパニーズスタイル~ネオトラディショナルとかね。まあ、トレンドも本当にめまぐるしく変遷してるし、トラッドもネオトラディショナルの時代になって、ジャパニーズにもネオジャパニーズと呼ばれる潮流が生まれて、どんどん変化し続けてる。90年代以降は、ものすごい速度でジャンルが増えていったわけだけど、音楽とかもそうだと思うけど、ミクスチャーが生まれたあたりから爆発的に細分化してるんだよね。そこからさらにもう一回転して「ネオ」の時代に突入してきたという感じ。
辻 さらに「ネオ」の向こう側というところでいうと、今回の企画でも目立ったのが中国をはじめとする「アジア」のタトゥーですよね。
川崎 そうそう。今回アジアの勢いを私はちゃんと伝えたかったんですよ。タトゥーというとアメリカやヨーロッパのイメージも強いし、事実、ある時代においてはそこに凄腕の彫師が集中してたんだけど、その構図が今は明らかに変わってきている。アジアのタトゥーマーケットの拡大と彫師の技術の向上がめざましいんですよ。
辻 本当に、ちょっと圧倒的なくらいに。
川崎 ね! まだそこに気がついていない人が多いし、実際、ネット上の情報も不足してるんです。日本がアジアのトレンド発信地的な役割をしていた時代もありましたが、それはもう完全に過去の話。あるいは、そもそも国別って見方自体が古くなっていて。人種や何人だからどうとかじゃなく、それぞれの土地で努力してる人が目に入る、フラットな状況になってきてる。台湾や韓国もそうだけど、近年アジア圏には凄腕が本当に多い。タトゥーコンベンションのトレンドも、今は完全にアジアなんです。タイや中国、さらにネパールだったり、インドだったりとかにも伝播してて。アジア各国では今タトゥーブームを引き起こしているわけ。
辻 中国のタトゥーイストの作品は本当に見てて面白かった。中国におけるマジョリティである漢民族は文化的にもタトゥーに対しては割と保守的だったわけで、だから、これまでなかなか世界のタトゥーシーンに参加してこなかったわけですけど、今、急激に頭角を現してて、しかも最先端のトレンドに中国独自の美術的伝統が折り重ねられたりしていて、ものすごいインパクトがあります。
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第6回目のセレクター信州彫英氏が選出したXiaodong Zhou(中国)の作品。龍という定番モチーフにおいても、ジャパニーズとは明らかにセンスが異なる。
川崎 日本に触発された台湾がいい作家を生み出すようになって、同じ中国語圏の中国の人たちにそうした技術を伝えていった。中国の人たちにとっては、タトゥーは新しいビジネスでもある。実際、今日のタトゥー産業を見ると、タトゥー用品の工場は中国に集中していたりするんですよ。だから中国では道具がすぐ手に入る、いい環境にあるんです。もちろん、質の悪い道具とかを作ってる悪徳業者もいるんだけど、いい道具も簡単に手に入りやすい。そういう環境だと、やっぱり彫師が伸びるんですよね。結果、お客さんたちも満足度が高くなる。
辻 今まさにアジアのタトゥーシーンは高度成長期にあると言えそうですね。
川崎 タトゥースタジオの数も、カフェのようなおしゃれな店も、本当に増えている。それによって世界のタトゥーシーン全体がとても面白くなってきてると思う。まさに百花繚乱なんだよね。日本に住んでいるとあまり気づかないのだけれど。
辻 今回の企画ではアーティストの国籍も明示してますから、そうした視点から見てみても面白そうですよね。
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川崎美穂 かわさき・みほ/1973年、青森県弘前市⽣まれ。編集・
Twitterはこちら☞ @koumebooks
辻陽介 つじ・ようすけ/1983年、東京生まれ。編集者。大学在学中よりコアマガジンに勤務し、『ニャン2倶楽部Z』などのアダルト投稿誌やコア新書シリーズの編集に携わる。2011年に性と文化の総合研究ウェブマガジン『VOBO』を開設。2017年からはフリーの編集者、ライターとして活動。現在、HAGAZINEの編集人を務める。
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