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ケロッピー前田 『クレイジーカルチャー最前線』 #20 自分の脳をコンピュータと接続する勇気はあるか? 2030年に到来するであろう「すべてが加速する世界」

驚異のカウンターカルチャー=身体改造の最前線を追い続ける男・ケロッピー前田が案内する未来ヴィジョン。現実を凝視し、その向こう側まで覗き込め。未来はあなたの心の中にある。

ダボス・アジェンダに対抗するアナザー・リセット

 2021年1月25日から29日まで「ダボス・アジェンダ」が開催されていた。これは前回取り上げたグレート・リセットをテーマにした2021年度「国際経済フォーラム(通称ダボス会議)」のオンライン版で、菅首相をはじめ、各国首脳たちがスピーチを行ってニュースとなった。日本からは他にソフトバンクの孫正義らも参加した。

 

ダボス・アジェンダ(首相官邸HP)https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202101/29davos.html

孫氏「自動運転車、大量生産2年以内」 ダボス準備会合(日経新聞)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD29EE40Z20C21A1000000/

 

 

 

 ダボス会議の本会議は5月、シンガポールで開催される予定になっている。パンデミック以降、世界はグレート・リセットされるというのが、ダボス会議の主宰者クラウス・シュワブの主張である。

 筆者はカウンター視点の立場から、ダボス会議で世界のビリオネアたちが話し合うグレート・リセットに対して、“アナザー・リセット”とでもいうべき、もう一つ別の未来のヴィジョンを探りたい。それについては前回、「グレート・リセット」の解説とともに書いている。

 

2021年、世界は「グレート・リセット」されるとクラウス・シュワブは語る──もう元にはもどらないパンデミック以降の世界とは?(HAGAZINE) https://hagamag.com/series/s0057/8341

 

 今回取り上げる『2030年 すべてが加速する世界に備えよ』(ニューズピックス)は、グレート・リセットでシュワブが語る第4次産業革命を凌ぐ超加速化で突き抜けていくテクノロジーの未来を描いている点で、さらに先のビジョンを見せてくれると筆者は考える。

 

 

 

これから100年で2万年分の技術変化を体験する?

 まず、本書の著者2人を見ておこう。ピーター・ディアマンディスは、民間宇宙開発事業を推進するXプライズ財団CEOとして、イーロン・マスクのスペースXを支える人物である。さらに、シンギュラリティ大学創立者としては、レイ・カーツワイルのパートナーでもある。

 

ピーター・ディアマンディス(画像引用:Wikipedia)

 

 イーロン・マスクといえば、テスラ・モーターズで完全な電気自動車、さらには人間の運転手不要の自動運転車などを開発し、次世代の自動車産業を牽引しているばかりか、民間宇宙開発においては高額なロケット打ち上げコストを20分の1にまで圧縮し、有人火星飛行を数年以内に実現するとぶち上げるなど、常に世間を驚かせるイノベーションを推進してきた人物である。昨年度の長者番付ではビル・ゲイツを3位に抑え、世界第2位となっている。ちなみに、第1位はアマゾンのジェフ・ベゾスであった。また、ディアマンディスにとってのもう一人の盟友レイ・カーツワイルは、2045年に人工知能が人類を追い越すシンギュラリティが訪れると予言したことで名を馳せた未来学者である。

 

イーロン・マスク(画像引用:Wikipedia)

 

レイ・カーツワイル(画像引用:Wikipedia)

 

 もう一人の著者、スティーブン・コトラーは、ジャーナリストとして、過去にもディアマンディスと未来予測本の共著者を務めている。

 さて、この『2030年』は一冊まるごと常人の理解を超える未来のテクノロジーのオンパレードであるが、その有り様を一言で表すなら、「われわれはこれから100年で、2万年分の技術変化を体験する」(本書35ページ)というレイ・カーツワイルの言葉がしっくりくるだろう。そして、2030年までの最初の10年がトンデモない激変の時代となるであろうことは、言わずもがなである。

 パンデミックによって、激変のスピードは加速度的に速まったというグレート・リセットにおける主張は『2030年』にも通じている。

 しかし、本書がシュワブのグレート・リセットを飛び越えていると思えるのは、結論のネタバレとなるが、人間の脳とコンピュータとのインターフェイス、脳そのもののデータ化、個人の意識のアップロードなど、いわば、人間とコンピュータの融合が、加速したテクノロジーの究極の到達点に設定されていることにある。

 そんな到達点に至るためのキーワードこそが「コンバージェンス(融合)」であり、そのプロセスであらゆるものがデジタルデータ化され、様々なジャンルが指数関数的な進歩を遂げる「エクスポネンシャル・テクノロジー」となることで、想像も超える技術革新が現実のものとなっていく。

 具体的な実例として、ウーバーが紹介されている。日本でもアプリを使った便利な配車サービスとして知られ、ウーバーイーツは飲食店テイクアウトサポートサービスとして急速に普及している。しかし、本書ではウーバーが目指す到達点は「空飛ぶ車(ドローン)」であるという。そればかりか自動運転が実用化されれば、無人配達も可能だろう。

 そのために必要な「安全性」「騒音」「価格」といった問題は、複数のローター(回転翼)を持つドローン技術によって、解決済みである。あとは、膨大なデータを蓄積して自動運転の実用化を待つばかりという。そこでは、テクノロジーが実用化されるまでは人間を使ってシステム構築を進め、自動運転が可能になれば、それに置き換えていこうというわけである。

 また、もう一つの実例として、イーロン・マスクが手がけたハイパーループについて触れている。2013年、カリフォルニア州議会が新規の長距離高速鉄道計画に680億ドルの予算を提案した際、そんな時代を逆行するような事業への多額の出資に腹を立てたマスクが、磁気浮上技術を用い、筒状の真空チューブ内を乗客を乗せたポッド(車両)が最大時速1200キロで走る高速交通ネットワークのコンセプトペーパーを発表した。これがハイバーループである。

 

 

 SF映画に登場しそうな代物だが、2017年、マスクは政府からニューヨークとワシントンDCを29分で結ぶハイバーループの建設許可を得た。そして、翌年には、真空チューブ建設のために掘削が始まっている。本書で語られるテクノロジーの加速化が進めば、2030年までには完成しているかもしれない。

 

ブレイン・コンピュータ・インターフェイス

 本書で紹介されるエクスポネンシャル・テクノロジーは大きく分類すると9つになる。量子コンピュータ、人工知能、ネットワーク(5G、気球、衛星/センサー)、ロボット、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、ブロックチェーン、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーである。

 それらのテクノロジーの加速度的な進歩に伴って、大きな発達が見込まれる産業は8つになる。ショッピング、広告、エンターテインメント、教育、医療/寿命延長、保険・金融・不動産、食料である。さらに世界の激変に伴うリスクあるいは大移動として5つに注目する。移民、気候変動、バーチャル世界、宇宙への移住、個人意識のクラウドへの移行である。

 そして、前述した通り、本書のクライマックスは「あらゆるテクノロジーの究極の交錯点」としての「ブレイン・コンピュータ・インターフェイス(BCI)」である。

 ここで重要なのは、BCIはすでに実現可能なテクノロジーとして目の前に存在するということである。つまり、2015年、ハーバード大学の化学者チャールズ・リーバーがナノスケールのメタルメッシュ(金網)をネズミの脳の海馬に注射器で注入することで脳の活動をモニターリングすることに成功したことから、その技術を用いてイーロン・マスクはBCIの実用化に乗り出している。マスクのBCIプロジェクト「ニューラリンク」は「脳とクラウドを毎秒2ギガビットのワイヤレス接続で結ぶ計画で、2021年末までに人間を使った実験を開始したい」という。

 

Elon Musk says Neuralink could start implanting chips in human brains ‘later this year’(NY POST)https://nypost.com/2021/02/03/elon-musk-neuralink-could-start-implanting-brain-chips-later-this-year/

 

 

 

 もはや人間とコンピュータの融合は、絵空事でも未来予想でもなく、実現可能なテクノロジーとして、その実用化への第一歩を踏み出さんとしているのだ。もし、それが成功すれば、さらに飛躍的な技術革新が可能となるし、同時に生物学的な意味での新たな種、あるいは「メタ知能」とでもいうべきものの誕生させてしまうという。

 『2030年』が具体的に見せてくれる驚愕の未来は、人類が月を目指した頃にも似た偉大なる「冒険」への誘惑となっている。つまり、10年もすれば、人類は新たな「冒険」のために自分の脳とコンピュータを接続し、テクノロジーを身体に受け入れる選択をすることになるかもしれないのだ。

 まずは驚愕の未来が到来しつつあることに心の準備をしておいて欲しい。

 

 

 

【INFORMATION】

ケロッピー前田『縄文時代にタトゥーはあったのか』

大島托(縄文タトゥー作品)

国書刊行会 2020年3月19日発売

 

本体価格2400円(定価2640円)https://amzn.to/38OTAfb

 

漆黒でオーバーオールな古代の和彫が近現代の鎖を断ち切り日本を日本に戻す。菊地成孔氏(音楽家・文筆家)推薦!!

土器や土偶にえがかれた線、円、点、螺旋といった我々を魅了する幾何学的な文様。これらがもしも太古の人体にきざまれていたとしたら――。世界中に残る痕跡をたどり、太古に失われたタトゥーを現代人に彫り込み「モダン・プリミティブズ」へと身体のアップデートを目指す壮大な試み。

 

 

〈MULTIVERSE〉

「土へと堕落せよ」 ──育て、殺め、喰らう里山人の甘美なる背徳生活|東千茅との対話

「今、戦略的に“自閉”すること」──水平的な横の関係を確保した上でちょっとだけ垂直的に立つ|精神科医・松本卓也インタビュー

フリーダムか、アナキーか──「潜在的コモンズ」の可能性──アナ・チン『マツタケ』をめぐって|赤嶺淳×辻陽介

「人間の歴史を教えるなら万物の歴史が必要だ」──全人類の起源譚としてのビッグヒストリー|デイヴィッド・クリスチャン × 孫岳 × 辻村伸雄

「Why Brexit?」──ブレグジットは失われた英国カルチャーを蘇生するか|DJ Marbo × 幌村菜生

「あいちトリエンナーレ2019」を記憶すること|参加アーティスト・村山悟郎のの視点

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「Floating away」精神科医・遠迫憲英と現代魔術実践家のBangi vanz Abdulのに西海岸紀行

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PROFILE

ケロッピー前田 1965年、東京都生まれ。千葉大学工学部卒、白夜書房(のちにコアマガジン)を経てフリーに。世界のカウンターカルチャーを現場レポート、若者向けカルチャー誌『BURST』(白夜書房/コアマガジン)などで活躍し、海外の身体改造の最前線を日本に紹介してきた。その活動はTBS人気番組「クレイジージャーニー」で取り上げられ話題となる。著書に『CRAZY TRIP 今を生き抜くための”最果て”世界の旅』(三才ブックス)や、本名の前田亮一名義による『今を生き抜くための70年代オカルト』(光文社新書)など。新著の自叙伝的世界紀行『クレイジーカルチャー紀行』(KADOKAWA)が2019年2月22日発売! https://amzn.to/2t1lpxU