logoimage
HAGAZINE

SK本舗 × GraphersRock(岩屋民穂)× 熊谷クルル|テクノロジーの“民主化”が「ものつくり」を変える|3Dプリンティングのプロトタイピング②

3Dプリンターは徐々に身近な存在となりつつあるが、まだ多くの人にとっては未知の存在であることも事実。本シリーズではグラフィックデザイナー/アーティストのGraphersRockこと岩屋民穂が3Dプリンティングの世界に触れていく様子をレポートしていく。

<<SK本舗 × GraphersRock(岩屋民穂)|3Dプリンターはアーティストの「制作」を変えるか|3Dプリントのプロトタイピング①


 

3Dプリンターは徐々に身近な存在となりつつあるが、まだ多くの人にとっては未知の存在であることも事実。ならば、体験する場さえあればこの未知なるテクノロジーはもっと身近なものになるかもしれない。本シリーズではグラフィックデザイナー/アーティストのGraphersRockこと岩屋民穂が3Dプリンティングの世界に触れていく様子をレポートしていく。

新たな「ものつくり」の手段となる3Dプリンターが世界を変えるには、より多くの人々がそれを使うようにならねばならない。小規模3Dプリンタースタートアップ・SK本舗を率いる遅沢翔は、だからこそアーティストにプロトタイピングを行なうきっかけをつくり出そうと考えた。

シリーズ第2回では、岩屋が実際に今回3Dプリントしようと考えるグラフィックを見ながら、遅沢とモデラー/3Dアーティストの熊谷クルルとともにモデリングの可能性や3Dプリンティングするという作業がいかなる工程を踏んでいくものなのか見ていく。

 

(文・もてスリム/写真・東山純一)

(取材協力:SK本舗 https://3dprinteronline.shop/

 


 

 

この投稿をInstagramで見る

 

GraphersRock / Tamio Iwaya(@graphersrock)がシェアした投稿

 

グラフィックを立体物へ

HZ では、ここからはモデリングを行なってくださる3Dデザイナーの熊谷クルルさんも交えて話していけたらと思います。熊谷さんはモデリングのお仕事もされていますが、ご自身も3Dアーティストとしてさまざまな作品を発表されています。岩屋さんには今回いくつか案を考えてきていただきました。

岩屋 ちょっとハードルが高いかもしれないんですが(笑)、ぼくが以前つくったトーテムポールのグラフィックを立体化できたら面白いんじゃないかなと思っています。元は平面のグラフィックとしてつくっていた作品ですが、これを実際にトーテムポールのような形でフィギュアにできたらいいなと。

遅沢 これは結構細かい表現が多いので、熊谷さんが大変かもしれないですね(笑)。モデリングに時間がかかるかもしれない。

熊谷 いま見せていただいているグラフィックだけだと、形状を解釈するのに時間がかかってしまいそうだなと思いました。どこに穴が開いているとかどこがつながっているとかがわからないと立体化することが難しいんですよね。

岩屋 あとはぼくが以前デザインした段ボール箱をペン立てのようにできないかなと思っていて、箱に描かれたグラフィックを凹凸で表現していくのはどうかなと。

遅沢 この案は逆にすぐつくれてしまいそうですね。弊社でも段ボールは扱ったことはありますし。グラフィック部分はただ浮き上がらせたりへこませたりするだけでなくて、出力してからペンで塗るとよりはっきりしそうです。あるいは出力したものにデカールのようなステッカーを貼ってグラフィックを表現できるかなと。

岩屋 最後のひとつは、レリーフのようなものですね。以前ぼくが紙でつくった正月飾りのグラフィックを凹凸で浮き上がらせていけたらと。この場合は立体というより板のようなイメージかもしれないです。

遅沢 これも比較的簡単に出力できそうですね。板の部分をそのまま出力しながら、凹凸の部分だけはみ出ていくようなつくり方がいいかもしれません。

岩屋 最初のトーテムポールは難易度が高そうだったので、いくつか予備の案ももってきたような感じです(笑)。一番つくってみたいのはトーテムポールですね。たとえばこのデザインを前面だけに施して柱状にするようなつくり方だと難易度も変わってくるんでしょうか。

熊谷 それならかなりつくりやすい気がしますね。いただいているグラフィックをベースに奥行きをつけてあげるような考え方でつくっていけそうです。ただ一律だとつまらないので、凹凸の具合を調整するのがいいんじゃないかと。

岩屋 中を空洞にするのもよさそうですね。空洞にすれば一輪挿しのように使えますし。

遅沢 おしゃれですね。ぼくも欲しいです(笑)。

 

 

ゼロから造型していく

HZ モデリングデータをつくっていく際は、どういうふうに作業を進めていくものなんでしょうか。たとえば平面のグラフィックから3Dデータに起こしていくことが多いのか、あるいは何らかのレファレンスを指定されたりより抽象的な発注が多かったりするものなのか……。

遅沢 フィギュアの場合は三面図のようなものをもらって3Dデータに起こしていくことが多い気がします。でもイラストだけから起こすこともありますよね。

熊谷 イラストだけだと一枚絵しかないので裏側など見えていない部分を想像するのが大変なんですよね。三面図があるかどうかでかなりつくりやすさが変わってきますね。

HZ 先ほどサポート台の話が挙がりましたが、モデリングだけでなくどう出力するのが最適かもモデラーの方が考えていくものなんでしょうか。

遅沢 そこはオペレーターが判断してサポート台をつけていくことが多いですね。ただ熊谷さんはたくさん自分で出力もされているので、モデリングの段階からどうすれば出力しやすいのか考えながらモデリングできるんじゃないでしょうか。

熊谷 でも、そういうモデラーの方はわたし以外にもたくさんいます。いちいち業者に依頼して出力するとお金もかかるので、自分のもっている3Dプリンターで何度も出力していく。わたしの家にも2台あるんですが、ほぼ毎日使っていますから。

HZ いちいち出力を外注していたらお金も時間も馬鹿にならないですもんね。実際にモデリングの作業ではどういう部分に時間をかけていくんでしょうか。

熊谷 このトーテムポールを立体化する場合、流れとしては、まずグラフィックを図面として、ビルを建てるようにブロック状に立体化します。そこから元のグラフィックのイメージに合わせてパーツごとに凹凸を出していくのですが、その作業は時間がかかります。ただ、これは幾何学的な物体をつくるときの話で、人の形をつくるときは球体から削り出していくような作業になりますね。スカートなら三角形が近いかなとか、似たような形状をもってきて近づけていくんです。

岩屋 コンピューター上でゼロから造型していくんですね。すごいな。それは粘土をこねていく作業に近いようなものなんでしょうか。あるいは、絵を描いていくような作業に近いのか。

熊谷 自分の制作方法はちょっと変わっていて、ほぼすべてトラックパッドで操作してつくっています。一般的にはペンタブを使って絵を描くようにつくっていく人は多いんじゃないでしょうか。自分も繊細な作業をするときだけは使うことがあります。

 

 

加速する3Dプリンターの民主化

HZ 顔のように細かい部分はどういうふうにつくっていくんですか? 手書きで?

熊谷 そうですね。どうすれば元のイラストに似るのか考えながら手書きで起こしていきます。でも、イラストをそのまま起こせばいいわけではないんです。そのまま起こしてしまうと、正面から見たときはしっくりきても横や斜めから見たときに違和感が残るような造型になってしまうことがすごく多くて。じつは普通のイラストって必ずしも整合性がとれているわけではないので、どこから見ても自然に見えるように立体化するためには細部を調整していかなければいけません。

岩屋 熊谷さんはもともと粘土などを使ってモデリングしていた時期もあるんですか?

熊谷 いえ、自分は最初から3Dでしたね。ウェブデザインやDTPなどの仕事を行なうなかでまず3DCGにも手を出して、そもそも最初は立体作品をつくるなんて考えていませんでした。でもワンフェスなどに出かけると多くの人が自分でつくった立体作品を売っていて、こういうことが自分にもできるのではと思って3Dプリンターを使うようになったんですよね。

HZ そこからモデリングのようなお仕事もされるようになった、と。

熊谷 そうですね。とはいえ、いまはモデリングの仕事はほとんど受けていなくて、オリジナルの作品を自分でつくって売ることが多いんです。

岩屋 何年くらい前からいまのようなつくり方をされているんですか?

熊谷 一年前くらいですね。それまでは自分で業者に依頼することも多かったんですが、ひとつ出力するだけで5〜10万円かかることもザラなので、とにかくお金がかかるんです。

遅沢 この一年で3Dプリンターの民主化はかなり進んだと思いますね。プリンターが安価になったことで、クリエイターの方が気軽に出力できるようになり、その結果表現のレベルも上がってきているように感じます。

HZ 岩屋さんも将来的には3Dプリンターを買うかもしれないですしね。

岩屋 いやもう、いますぐでも欲しいですけどね(笑)。民主化が進んでいるとはいえ、まだ素人が扱うのはハードルが高いなと。Illustratorのデータを自動的にざっくりモデリングしてくれるような仕組みや、3Dの知識がなくても「はい/いいえ」のように簡単な選択肢に沿ってある程度つくれるような仕組みができあがるといいんですが……。

 

 

AIがモデリングを行なう日まで

HZ 岩屋さんがいまメインで制作に使われているのはIllustratorやPhotoshopだと伺いましたが、立体的な作品をつくらずとも3DCGのソフトを使うことはないんでしょうか。

岩屋 20年ほど前、学生だったころに学校の授業で触れたことはありましたが、それ以降ぜんぜん触っていないですね(笑)。いまはもっとわかりやすくなってそうですが。AIが進化してグラフィックを読み込ませたら自動的にある程度立体化してくれるようになると気軽に挑戦できそうです。

遅沢 AIという点では、Photoshopがだいぶ改良されていますよね。自動処理でできることがかなり増えている。あるいは、グラフィックだとざっくり色や形を指定すれば勝手に海や山など背景になるような絵を自動的に生成してくれるようなツールも登場していました。ただ、モデリングの面ではまだ先になりそうですね。

岩屋 手書きのイラストが自動で3Dデータにできるようになるとすごそうですよね。自動化の研究は3Dプリンターでも進んでいるものなんですか?

遅沢 3Dプリンティングだとモデリング面の改良は進んでいて、先ほどご説明したサポート台の制作フローは変わってきていますね。フロントサポートといって、ボタンひとつで勝手にサポート柱を生成してくれる機能は精度が上がっている。どこにどういうようなサポートを入れると効率よく出力できるのかAIが学習して計算してくれるという。日々研究・開発は進んでいますから、幾何学的な図形などであれば設計図だけで立体化してくれる日もそう遠くないかもしれません。生まれ変わったらぼくもAIの研究の方に進みたいくらいです(笑)。

岩屋 いまのレベルでさえ、ぼくのイメージよりかなり精度が上がっていて驚かされました。ここからさらに進化していけば、誰でも気軽に3Dプリンターを使うような時代がきそうですよね。たとえばぼくが子どもだったらミニ四駆のボディやパーツを3Dプリンティングでつくっていたかもしれないし。プラモデルじゃなくて3Dプリンターで遊ぶような子どもも増えるかもしれませんね。

 

 

✴︎✴︎✴︎

 

平面のグラフィックを3Dにするという作業は、言わずもがなそう単純なものではない。それはグラフィックを深く読み込むことによって表面に出てこない情報をすくい上げていくことであり、新たな情報を加えていくことによってグラフィックを文字通りべつの“次元”へ連れて行くような行為でもあるだろう。

ならば、3Dプリンターを使って作品をつくることとは、単に立体的なオブジェクトをつくることにとどまらず、次元を問わずさまざまな形の「ものつくり」に影響を与えてしまう“危険”なものでもあるのかもしれない。次回は岩屋のグラフィックを立体化することを考えながら、広がりゆく3Dプリンティングの現在形について語っていく。

 

✴︎✴︎✴︎

 

GraphersRock アートディレクター/グラフィックデザイナー岩屋民穂によるデザインプロダクション、インディーズからメジャーレーベルまでさまざまなCDジャケット、音楽まわりのデザインを手掛け、幅広い分野でアートワークを展開。さまざまな企業、ブランドとのコラボレーションを行ない、テン年代の東京ポップカルチャーのデザインを牽引、提示し続けている。

 

✴︎✴︎✴︎

 

 

(文・もてスリム/写真・東山純一)

(取材協力:SK本舗 https://3dprinteronline.shop/

 

 

〈MULTIVERSE〉

「今、戦略的に“自閉”すること」──水平的な横の関係を確保した上でちょっとだけ垂直的に立つ|精神科医・松本卓也インタビュー

フリーダムか、アナキーか──「潜在的コモンズ」の可能性──アナ・チン『マツタケ』をめぐって|赤嶺淳×辻陽介

「人間の歴史を教えるなら万物の歴史が必要だ」──全人類の起源譚としてのビッグヒストリー|デイヴィッド・クリスチャン × 孫岳 × 辻村伸雄

「Why Brexit?」──ブレグジットは失われた英国カルチャーを蘇生するか|DJ Marbo × 幌村菜生

「あいちトリエンナーレ2019」を記憶すること|参加アーティスト・村山悟郎のの視点

「かつて祖先は、歌い、踊り、叫び、纏い、そして屍肉を食らった」生命と肉食の起源をたどるビッグヒストリー|辻村伸雄インタビュー

「そこに悪意はあるのか?」いまアートに求められる戦略と狡知|小鷹拓郎インタビュー

「暮らしに浸り、暮らしから制作する」嗅覚アートが引き起こす境界革命|オルファクトリーアーティスト・MAKI UEDAインタビュー

「Floating away」精神科医・遠迫憲英と現代魔術実践家のBangi vanz Abdulのに西海岸紀行

「リアルポリアモリーとはなにか?」幌村菜生と考える“21世紀的な共同体”の可能性

「NYOTAIMORI TOKYOはオーディエンスを生命のスープへと誘う」泥人形、あるいはクリーチャーとしての女体考|ヌケメ×Myu

「僕たちは多文化主義から多自然主義へと向かわなければならない」奥野克巳に訊く“人類学の静かなる革命”

「私の子だからって私だけが面倒を見る必要ないよね?」 エチオピアの農村を支える基盤的コミュニズムと自治の精神|松村圭一郎インタビュー

「タトゥー文化の復活は、先住民族を分断、支配、一掃しようとしていた植民地支配から、身体を取り戻す手段」タトゥー人類学者ラース・クルタクが語る

「子どもではなく類縁関係をつくろう」サイボーグ、伴侶種、堆肥体、クトゥルー新世|ダナ・ハラウェイが次なる千年紀に向けて語る

「バッドテイスト生存戦略会議」ヌケメ×HOUXO QUE×村山悟郎

「世界ではなぜいま伝統的タトゥーが復興しようとしているのか」台湾、琉球、アイヌの文身をめぐって|大島托×山本芳美

logoimage