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「この前、“息子を殺してほしい”っていう依頼が来たんだよね」── ヌケメとゴスピの『Digital Scavenging 2020』前編

ヌケメとゴスピ(God Scorpion)、兼ねてより深い親交を持つ二人のアーティストが、なんとなく、あてどもなく、とりとめもなく、「最近の面白かったこと」をダラダラと語り合う。


 

ヌケメとゴスピ(God Scorpion)、兼ねてより深い親交を持つ二人のアーティストが、なんとなく、あてどもなく、とりとめもなく、「最近の面白かったこと」をダラダラと語り合う。ただそれだけの、本当にそれだけの企画── 。

Text by Yosuke Tsuji

 


 

 

「息子を殺してほしい」という依頼

ヌケメ ゴスピ(God Scorpion)とは前から友達だし、よく会って話したりしてるから、あらためて対談って言ってみても、普段とあんま変わらないよね。特にこれといってテーマはないし。だから、今日はここ最近でお互いが面白いと感じてる作品とか、アーティストとかについてなんとなく話せたらと思ってる。

一応、記事用にしゃべると、ゴスピはメディアアーティストでMR(複合現実)を使った作品を作ったりしてる人。今はPsychic VR Labのメンバーでもあって、都市空間に街案内のMRを実装したり、そういうこともしてる。

God Scorpion(以下、ゴスピ) そうだね。

ヌケメ まあさ、いきなりフリースタイルで好きなものについて話し始めるってのもなんだし、最近、ゴスピが関わった作品の話をしようよ。トーキョーアーツアンドスペースで2月の上旬までやってた「藪を暴く」展。俺は実際、トーク含めて見に行ったんだけど、あらためてゴスピの方から作品の説明してもらう感じで。

 

 

ゴスピ ん~とね、「藪を暴く」展で展示した『KILL MY SON』は俺の作品じゃなくて、この前「shiseido art egg」で入選した遠藤薫さんっていうアーティストの作品なんだよね。俺はその作品にディレクターとして関わった感じ。

ヌケメ あ、あれはゴスピのっていうか、遠藤さんの作品か。そうだよね。

ゴスピ そうそう。企画立案は遠藤さん。きっかけはさ、3ヶ月くらい前で、遠藤さんから「息子を殺してほしい」っていう依頼が来たんだよね。おお、こいつはやべえぞ、と(笑)

ヌケメ どういうこと?(笑)

ゴスピ びっくりするでしょ? まあ、とりあえずは話を聞きましょうとなり、何をしたいのか詳しいことを聞いてみたら、どうやら遠藤さんには息子を失ってしまうかもしれないという不安障害のようなものがあって、それも一年に一度とかではなく高い頻度で強烈にその不安に囚われてしまうらしいんだよね。ベトナム在住で交通事情が酷いことと、息子に暴力的な遊びを日々強要される中で、戦争への予感まで広がってしまう。遠迫先生はそれを神経症だと診断したようですが。それで、今回の展示では、その不安を逆にMRで実現化、展示室の真ん中で子供が死んでいるという映像をMRでシミュレーションしたい、と言ってきたの。そもそも、彼女にはシミュレーションすることが自己治癒に必要だったという感覚があった。

ヌケメ 展示室の中央に子供の死体か。ちょっと気分悪いね、それは。

ゴスピ そうそう、さすがにシミュレーションをするだけだと誤解を招きかねないなと思って。ちょうど俺がその前に作った作品が「INTERSUBJECTIVITY」っていう作品で、要するに間主観性をテーマにした作品だったんだけど、映像的には動物の身体をバラバラに分解するような作品だったから、その流れでそんな作品をやったらサイコ作家になっちゃうしなあとも思って(笑)

ヌケメ ああ、「ONE PIECE」のアートプロジェクトのやつだよね。間主観性ってそもそもなんなの?

ゴスピ 間主観性っていうのは、フッサールとかの現象学的な概念で、ようするに文字どおり、主観を私のみで自律したものではないと考えるわけだけど、まあここでいうと、この水だったり、テーブルだったり、あるいはヌケちゃんだったり、それぞれの主観性が独立してではなく、互いに交錯しつつ機能しているということを表す概念なんだよね。最近だと子どものプレパレーションや認知教育にも援用されてるみたい。

 

 

俺が作った「INTERSUBJECTIVITY」って作品では、そもそもが漫画「ONE PIECE」のプロジェクトだったから、登場人物の一人のトラファルガー・ローっていう周りのものを切断して再構築できるオペオペの実の能力者をモチーフにして、間主観的な主体の分割と統合をMRで視覚空間的に再現してみた感じだね。

ヌケメ へえ、面白い。動物が一旦バラバラになったり、再構成されてキメラ化したりするのはそういうことだったんだね。

ゴスピ そうそう、まあちょっと脱線しちゃったけどさ、そんな感じで動物を分解するわ子どもも殺すわなんてしてたら、なんかやばいでしょ(笑)。それで、遠藤さんに「そういう不安があるんであれば、ちゃんと治療を目指すような作品にしましょう」と提案し、そうすることになった感じ。とはいえ俺一人だと治療って言っても心配だから、ヌケちゃんの親戚で精神科医の遠迫憲英先生に顧問として入ってもらって作ったのが今回の作品だね。

 

 

 

作品の大きな構成としては、今回、ベトナム退役軍人のPDSD治療に使用されているVR映像のモデルを参考に、認知行動療法、特に暴露療法のプロセスをさらに足したって感じ。一番最初に自分が恐怖を感じるものを弱いものから強いものの順に並べてもらって、その後、恐怖に対峙した時に自身の筋肉弛緩を促して緊張を緩和させるタッピングという身体動作を教える。その上で、並べてもらった恐怖を弱い方から順番に体験させていって、最後にEMDRっていうトラウマ治療で用いられてる視線の左右運動を行なって恐怖を緩和させる。そして、展覧会自体も暴露療法として機能する。今回は遠藤さんが患者という設定だから、実際に目の前で子どもが様々な形で死んでしまうという映像をMRで作った感じだね。作品というよりあくまで治療する過程を人に見せる、という。

ヌケメ 俺も作品を体験したけど、俺は子供もいないから、遠藤さんの恐怖って1ミリも共感ができなかったんだよね。もちろん子供が死ぬことが恐ろしいのは分かるんだけど、なぜその恐怖に執拗にとらわれるのかは、映像を体験してもまるで分からないって感じだった。でも、本人にとっては、これが重要なんだろうな、と思って。ゴスピ自身はなんか特別な恐怖とかある?

ゴスピ 恐怖ねぇ。トラウマとかは分からないかな。でも、遠迫先生が話してたことで面白かったんだけどさ、最近の臨床現場ではトラウマ治療に関してもトラウマに対峙させることより、トラウマを思い出させない方向に進めるのが主流になってきてるらしいんだよね。そりゃそうだよな、とも思って。

ヌケメ 思い出さなくて済むんだったらそれでいいよね。でも、うっかり思い出した瞬間に自殺衝動が強烈に込み上げてしまうようなタイプの人だった場合、暴露療法とかで恐怖に耐性をつけておかなければってなるのかもね。

ゴスピ そうだね。遠迫先生が用意してくれたエビデンスの中で、不安と恐怖の違いについて書かれてて、すごく面白かったんだよね。恐怖というのは、蛇が怖いとか、蜘蛛が怖いとか、高所が怖いとか、対象がはっきりしてる。一方、不安はもうちょっと潜在的なもので、対象が明確じゃなかったりする。また、不安がそれほど悪いものかといえばそんなことはないって書いてて。

ヌケメ へぇ、恐怖と不安の違いか。面白いね。

ゴスピ 全米併存症研究では4人に1人は不安症の診断基準に合致するそうで、かなり多い。そもそも、不安を持っているということはそれを解決するために自分がなんらかのアクションをするための動機になってたりもするって書いててさ。

ヌケメ なるほどね。でも、これからあの作品を体験するかもしれない人の中にはさ、私も子供がいます、僕も子供がいます、みたいな人がいるわけでしょ。実際、トークショーの時も、「その作品を見て、自分にもその恐怖がうつったら怖いんですけど、大丈夫ですか」みたいな質問が出てたよね。似た環境とか状況にいる人にとっては、あの作品によって恐怖が増えてしまうということもありそうな気がしたかな。

ゴスピ そうだね。だから今回、用いるシンボルとかも結構慎重に選んだんだよね。映像作品のシンボルとして、「アスクレピオスの杖」というシンボルマークを用いてMR内に配置してるんだけど、これは医療のシンボルとして知られてるものでね。要は、どんだけ体験者が関係妄想的なアクセルを踏んでしまったとしても、これが医療目的で作られているものだということが明示されているという状況が、安全トリガーとして働くんじゃないかと思ったんだよね。

ヌケメ それこそ間主観性を構築したわけだ。このシンボルの意味って知らない人が多いと思うけど、でもこういうのってなぜか機能するんだよね。

ゴスピ そうそう。タッピングとかEMDRとかには、体の緊張をほぐす効果も実際にあるんだろうけど、別にそれがそれである必要は本当はないんじゃないかなって思う。ある人には、机を叩く動作でもいいのかもしれない。まあ、左右の運動というところで言えば、我々はダンスでもそういうことをしているわけで、たとえば週末に踊って一週間のストレスを調整するみたいなことしてる。だから、実はなんでもいいのかなって思う。

ヌケメ 俺は鬱病だから、鬱の症状が強く出ることもあるんだよね。その時に唱える呪文を自分で作ってて、その呪文を唱えると少し楽になる。ここでは言わないけどね、俺用の呪文だから(笑)。そういう自己催眠をかけていくことで自分をケアしてるんだよね。

ゴスピ 俺もさ、中学生のころに麻原彰晃の師匠のダンテス・ダイジの『ニルヴァーナのプロセスとテクニック』ってクンダリーニヨガの本を読んで、その呼吸法とかを実践してみたんだけど、そしたら一回引き戻せないトランス状態になってしまって、ハッて急に視界がブラックアウトしたんだよね。遠くの換気扇の音がすごい近くに聞こえて、世界がその音だけになってて、どんどんそれが近づいてきて、血の流れのみが世界の感覚で、その血がやがて心臓のところに近づいて、鼓動だけが聴こえるようになって、ドクン、ドクン、ド、、、クンみたいな。で、あ、これ心臓が止まるって思って、「かーーーっ」って叫んで戻ってきたんだけど。やっぱり面白かったから、それ以降、他のヨガとか、アウェアネストレーニングっていう自己啓発の黎明期にあったようなトレーニングをやってみて、でも、それとかもある種の自己暗示というか催眠で、自分をある状態に引っ張る行為なんだよね。

 

『ニルヴァーナのプロセスとテクニック』ダンテス・ダイジ

 

要するに、感情的な自分とロジカルな自分というのを俯瞰する自分というのを自分の中に形成するみたいな感じなんだけど、やっぱり俺もそういう状態に入るためのスイッチになるような曲を自分で設定してたりしてたから。だから、やっぱりトリガーはなんでもいいんだよね。たとえばVRとかも何回もかぶってるとこれが現実じゃないってなってジャックインできなくなっちゃうわけだけど、導入のテクニックだったり、中のコンテンツだったりで、トリガーになるものを用意することで没入感が強力になったりするわけで。

ヌケメ ゴスピがトリガーに使ってる曲ってなんだっけ?

ゴスピ マーズ・ヴォルタのファーストアルバムの9曲目を聴くとカチッとスイッチが入る。当時、俺は予備校に行ってて、普通、自転車で20分くらいかかる距離なんだけど、そのスイッチを入れとくと10分くらいで着くんだよ(笑)

ヌケメ ああ、北大医学部を受験してた頃ね。

ゴスピ そうそう。その頃は同時にホストもやっていたし超忙しかったから、自分をそういうコントロール下において、最高のイメージを作って、実践を細かいサイクルで回すみたいな、ある種の無敵マインドを作って日々を送っていたわけ。ただ、あれはあれで維持するのは疲れるし、モチベがないとできない部分はあるかな。

ヌケメ 受験勉強に並行してホストもやってたわけだからね。ホストの場合さ、自己啓発された自分を、いったん他者を介することで、もう一回強化するわけじゃん。他者に対してこのマインドで向かったら自分がどうなるか、相手がどうなるかを繰り返しトライしていくっていう。それは楽しそうだな。

ゴスピ 対策ノートみたいな感じのものは作ってたよね。このお客さんにはこの言葉がキーになる、みたいなことをつらつらと書き溜めて。それをおそらく悪用すればマインドコントロールみたいなことになるんだと思う。

ヌケメ でも実際にホストでやってたのはマインドコントロールでしょ。前、言ってたじゃん。ホスト時代は、その日に店にいる客やキャストの心理状況が全て俯瞰して見えてたし、なんならその日は来てない客についても見えてたって。

ゴスピ ああ、見えてたね。

ヌケメ 超俯瞰状態みたいな。

ゴスピ うまいホストっていうのは空気の流れや会話の流れとかの「波」をすごいよく感じ取ってて、それをコントロールすることがうまいんだよね。そういう人ってやっぱりたまにいてさ、たとえば角川春樹なんかもそういうタイプでしょ。だから、みんなにUFOを見せれちゃうし、今から俺は木刀を10000回振るぞって言った時点で、たとえ振ってなくても10000回振ったことになってしまうみたいな感じがある。間主観性が飛び出しちゃってる人っているんだよね。

 

魔術が成立するための条件

ヌケメ なるほど、間主観性が強いってそういうことなのか。それで言うとさ、この前、新木場のageHaでやってるO.Z.O.R.A.ってパーティーに行ったんだよ。グローバルイルミネーションっていう映像チームが参加してて、すごい面白かったんだけど……、そうそう、この人たち。

 

 

そもそもO.Z.O.R.A.はハンガリーでやってるサイケデリック・トランスのフェスなんだけど、俺が行ったのはその日本版でさ。とにかく映像がすごいの。それをやってるのがこのグローバルイルミネーションってチームで、なんかメイキング動画を見ると、木で立体物を作って、そこにプロジェクションマッピングをしてるんだよね。

 

 

ゴスピ へえ、木だからかちょっと光に温かみがあるね。

ヌケメ そうなんだよね。で、さっきの間主観性が強いって話でいうとさ、O.Z.O.R.A.で踊ってたら俺のすぐ横に、ヨガインストラクターみたいな感じのお姉さんがいて、なんか踊りながらさ、俺と一緒に空中で気を練り始めたんだよね(笑)。で、お姉さんが最後に練っていた気を俺の中にストンと入れるような動作をしたの。マジでそれがさ、生きた何かが体の中に入ってきた感じがあったんだよ。で、お姉さん何者なんすか、ヒーラーですか、みたいになって話を聞いたら、その日サブフロアで回してたDJで。調べたら有名なDJYUMIIって人だったんだけど、あれは初めての体験だったなあ。

ゴスピ 晴三さん(ゴスピが所属するPsychic VR Labの事務所ビルのオーナー)も、そういうところがあってさ、前にあの世に連れてってあげるよって言われたことがある。それで、お願いしますって言ったら、お腹に手を置かれて30分くらい横になってるだけなんだけど、実際にそれだけで意識が変容しちゃったんだよね。最初は自分から当たりにいく、その状態に向かっていくみたいな部分もあったけど、途中から明らかに感覚が変容しているのが分かってね。ちょっとした幽体離脱というかさ。

ヌケメ 分かる分かる。ある程度は自分から当たりに行く必要があるんだよね。

ゴスピ 演劇作家の篠田千明さんとかもそういう間主観性が強いよね。

 

 

あとさ、前に渋ハウスにいた頃にナンパ師の人が来たことがあったんだけど、その人が家に入ろうとした瞬間に「ちょっとここは気が多すぎて入れない」みたいに言いだしたことがあった。空間内に連鎖する一人とか二人じゃない大量の気みたいなのを感じたらしいんだよね。下駄箱に何十足も靴があるし。

ヌケメ ナンパ師もホストと一緒でうまい人は間主観性が強そうだもんね。実際、俺がたまたまそういうの感じたとかじゃなくてさ、O.Z.O.R.A.の時も、魔女の円香ちゃんが一緒にいたんだけど、YUMIIさんは円香ちゃんにも練った気を入れてて、やっぱり「お姉さんすごいっすね」みたいになってたし(笑)

ゴスピ 多分、そういう気みたいなものってVRMRと相性がいいんだよね。いまってVRでハンドトラッキングができるでしょ? それができると手の周りにある種のオーラみたいなのをまとわせたりできるわけじゃん。俺も昔は丹田に気を溜めたりみたいなことしてたことあるけど、それってある種のイメージの話なんだよね。『HUNTER×HUNTER』の「纏」みたいな。だから、 VR/MR上でハンドトラッキングした手にオーラを視覚的に出すことで、遠くにあるものを気を使ってタップするというような感覚も当たり前になってくる感じがする。「OK,Google」、「ヘイSiri」なんかも、ある種、そういうものでもあるよね。外側が受け取る体勢、環境さえあれば、魔術的なものって成立していくんだと思う。

ヌケメ プラシーボ効果を共有して物質化する、みたいな感じだよね。それって太極拳の延長とかかもしれないけど。

ゴスピ でも、そういう間主観性って人との相性においても大事だよね。前にさ、HIKARIクリニック()でアイソレーションタンクに初めて入った時に、その日はHIKARIフェスの日だったから、もうフリータイムでみんなでアイソレーションタンクに入ろう、みたいな感じだったじゃん。で、俺が入った時に先にいた女性がさ、めちゃくちゃ主観が大きい人で、なんか同じタンクに入ってるとすごい圧迫感があってこちらの事を考えずに凄いタンクの中で動くの。この人、何にも俺のこと考えてないな、みたいに(笑)。

精神科医・遠迫憲英が運営する岡山県にある精神医療クリニック。

で、そのあとにヌケちゃんが入ってきたじゃん。当時はヌケちゃんとはまだ知り合いって感じでしかなかったんだけど、ヌケちゃんが入った瞬間にタンクの中が調和したんだよね。で、これは友達になれると思った。マイメンになれる、と。

ヌケメ わかる。俺もゴスピとタンクに入った時に嫌なことが一つもなかった。相性の良さが凄まじいって思って(笑)。なんか対流でぐるぐる流されながら浮かんでるんだけど、コンテンポラリーダンスを踊ってる気分になった。あるよね、隣にいてなんか嫌な感じの人と、違う人と。

ゴスピ そうそう、それって気を入れてもらうとかとも近いと思う。たとえばさ、ピナ・バウシュとかは、タッチや仕草とかで観客全員を共感覚的な状態に運んでいくわけだよね。空間全体にいいグルーヴを作っていく。その対極と言えるようなバッドなグルーヴを描いてたのがギャスパー・ノエの『クライマックス』だよね。あの作品では登場人物それぞれの個の主観が出すぎてて、相互作用的にみんながバッドに入っていく感じになってた。

 

 

ヌケメ 『クライマックス』は面白かったね。雪⼭にあるロッジで強化合宿中のダンサー22⼈が、合宿最終日に打ち上げしてるんだけど、誰かがサングリアに大量のLSDを混ぜたことで、それを飲んだ全員がトリップしていく、ほぼほぼ全員がバッドに⼊ってくっていうそれだけの映画なんだけど。でも、気持ち良さそうに踊ってるやつらもいるんだよね。バッドな奴らにカメラが向かってるからそこがフォーカスされてるけど。おしっこビシャーって気持ち良さそうに放尿してる奴もいたし(笑)。でもギャスパー・ノエにしては話の筋が追いやすいんだよね。

ゴスピ そうね、今までの作品に比べると一番みんなが見てて面白いと思えると思う。

ヌケメ 密室サスペンスだからね、登場人物も限られてるし。台本もあんまなかったらしい。大事なきっかけは書かれてるけど、その途中の流れは特に決まってなかったとかで。出てるのもダンサーで、俳優じゃないんだよね。面白かったのは俺とゴスピの感想が全然違ったところ。俺は今まで見た映画の中で一番怖い体験だったんだけど、ゴスピはゲラゲラ笑って観てたという。

ゴスピ だって面白かったから。狂気は近くで見ると狂気で怖いんだけど、引きで見ると滑稽っていうかさ。不安障害とかもそうだよね。本人にとっては、恐怖を感じることも、他の人から見たら特に何も感じないというかさ。ヌケちゃんが「藪を暴く」展の『KILL MY SON』を見て何も思わないのと一緒。

 

ブレードランナー的想像力のアイロニー

ゴスピ こういう共感覚をもたらすような魔術的な作家で言えば、俺はチェン・ティンジオ(Tianzhuo Chen)っていう中国のアーティストが好きで。この映像は34年前のものなんだけど。

 

 

作ってる作品は演劇なんだけど、本人がブディズムを信仰してるから、ブディズムを現代的に再構築してリチュアルなショーケースをやってる。アシッドグラフィックスというか、こういう魔術、呪術的なことと、ポップカルチャー的なものと織り交ぜて、サイファイ的なカラーを重ねてモダンにしていくみたいなものの中では群を抜いてカッコいいと思う。MyuちゃんのNYOTAIMORI TOKYOもそういうところあるけど。チェン・ティンジオはグッチとかともコラボしてるんだよね。本人がセントラル・セント・マーチンズを出ててモロにファッションの人でもあるし。

ヌケメ ヘぇ~、確かにNYOTAIMORI TOKYO感あるね。

 

 

ゴスピ この人の奥さんもルー・ヤン(Lu Yang)っていうアーティストで、東京のSPIRALとかでも展示をやってたんだけど、本当にかっこいいし、センスがいい。

 

 

そう言えばシャネルもさ、前に魔術っぽいショーをやってたよね。多分、3年くらい前に魔術ブームがファッションの世界できてて、チェンとかもその文脈にいるよね。

 

 

ヌケメ バレンシアガとかも面白いよね。ヴィジュアル・アーティストのジョン・ラフマンが演出をやっててさ。

 

 

ゴスピ 面白いよね。内壁がねバコバコ変わっていく感じ。

ヌケメ それこそラフマンはさ、元々はネットのゴミみたいな素材を使って作品を作ったりとか、アングラな感じのある人だから、こういうところに出てくるのが不思議な感じがするよね。フェティッシュ系の人でもあるし。

ゴスピ 近いところだと、俺はサム・ロルフェスとかも面白いかな。

 

 

ヌケメ インターネットフラッシュの人だよね。

ゴスピ そうそう、そこそこリッチでグロテスクなサイファイ感あるみたいなものがずっと流行ってる気がするね。すでにブレードランナーの年になったわけだけど、実際の世界がブレードランナーを超えるどころか、いまだにブレードランナー的なぐちゃぐちゃしたサイファイ感が虚構的に求められてるっていうアイロニー。それこそ『ブレードランナー2049』もやっぱりブレードランナーの世界だったし。

ヌケメ でも、なんでまたこういうのが流行ってるんだろうね。ハッピーなものってあんまりなくってダークなものばっかりが流行ってる気がする。それは俺たちがダークなものが好きだからそう感じるだけかな?

ゴスピ それもあるんじゃない? やっぱり嵐が最高って流れも一方ではあるわけだし。

ヌケメ そっかそっか。恐怖の話に戻すわけじゃないけど、やっぱりどっか見てて恐怖を感じるようなものにしか惹かれないからな、俺は。

ゴスピ ジョージ・エインズリーの『誘惑される意志』にも書いてあったけどさ、下等脊椎動物から人類まで、あまり変わってない部分で中脳の脳核の近傍を電気刺激した時、満足してる動物には欲求が生じ、渇望している動物には飢餓が生じるらしくそれらのプロセスが単純に反対じゃないってことが分かる。実は快苦は表裏一体という。

 

『誘惑される意志』(ジョージ・エインズリー著、山形浩生訳)

 

ヌケメ 辛(から)さと痛みも一緒っていうよね。その絶妙なツボを突いてくるあたりでいうと、やっぱり俺はジョン・ラフマンの「DREAM JOURNAL」が好きなんだよね。

ゴスピ どんなやつだっけ?

ヌケメ 2016年くらいからラフマンがやってるシリーズなんだけど、ようはラフマンの夢日記なんだよね。それがCGで描かれてるっていう。

 

 

ゴスピ へー。

ヌケメ どれもすごい変な悪夢なんだよね。

 

 

ゴスピ あ、今出てきた口をパクパクさせてるワーム(00:18〜)、ジェス・ジョンソンの作品にも出てきてたよね。このワーム、くる人にはくるシンボルなのかな。

 

 

ヌケメ なんだろうね。でも、共通の体験って結構見られるよね。ジェス・ジョンソンのもジョン・ラフマンのも丸呑み系だしね。ラフマンは3年くらいインスタで「#dreamjournal」ってタグつけてこのシリーズを投稿してたんだけど、最近、その3年分をまとめて展示したんだよ。ちなみに音作ったのがワンオートリックス・ポイント・ネヴァーで。

ゴスピ あ、OPNなんだ(笑)。好き者が集まった感じだ。

 

 

ヌケメ  3Dのクオリティも昔に比べると上がってる。

ゴスピ Unityで作ってるのかな、質感はそうっぽいけど。

ヌケメ Cool 3D WorldとかDavid O’Reillyの感じに近い。3Dであることを隠す気がないっていう。これ系、結構好きなんだよね。

 

 

 

ゴスピ でも、この「DREAM JOURNAL」は割とストーリーがある感じだね。

ヌケメ そうだね、映像化するってときにどうしても整合性が付いてきちゃってる感じはあるね。夢って実際はもっとめちゃくちゃだよね。

ゴスピ PSゲームの『LSD』とも近いところある。

 

 

ヌケメ そうだね。すごい似てる。

 

ヌケメとゴスピの『Digital Scavenging 2020/SS』後編>>

 

 

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ヌケメ ぬけめ/1986年、岡山県生まれ。デザイナー、アーティスト。ミシンの作動データにグリッチを発生させる『グリッチ刺繍』など洋服を支持体とした作品を主に制作する。現在は彫刻作品を制作中。https://nukeme.nu/

 

God Scorpion ごっどすこーぴおん/1990年生まれ。Psychic VR Lab所属。メディアアーティスト。魔術、テクノロジー、時間軸、空間軸のフレームの変化をテーマに、ラボラトリー、チームと共に作品を製作。http://godscorpion.com/

 

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