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Floating Away ──精神科医と現代魔術師の西海岸紀行|SCENE 1「ビバリーヒルズのディスペンサリー・MEDMEN」

精神科医・遠迫憲英と現代魔術実践家のBangi vanz Abdulの、大麻、魔女文化、VR技術を巡る、アメリカ西海岸紀行。2019年、西海岸の「いま」に迫る。

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20年越しのLAの風景

2019年4月下旬、LA着。気候は既に夏を予感させる。日中の気温は30度を超え、Tシャツ一枚で昼間は過ごせそうだ。10時間のフライトを終え、空港のスタンドで一息入れる。空港にはあらゆる人種の人々が溢れかえんばかりだ。東洋人、黒人、ヒスパニック、イスラム、カテゴライズすることが意味なく感じるほどの多様性が満ち溢れている。空港のスタンドでもドリンクにはプロテイン20gのプロテインドリンク。ウェルネスに対する意識が日本と桁違いであることを実感する。アメリカのこういうプラグマティックなところが好きだ。早速レンタカー屋が空港に迎えに来たので向かう。

LAに来たのはかれこれ20数年ぶりだ。大学生の頃にマリア・サビーナのマジックマシュルームを求めてメキシコに行った際に1週間ほどダウンタウンに滞在したのが最後だ。その時はバブル真っ盛りの90年代前半であり、アメリカ人の装いも日本人より貧しく見え、町並みも古びて見えたものだが、この20年の年月の移り変わりのなかで様変わりしたように見える。街の風景はリッチだ。ロスアンゼルスの人々の装いも日本人以上にリッチで、ブランド品を身につける人も多く見かける。いつの時代もアメリカの生活水準が物差しになる。我々は貧しくなっているのだろう。

昔LAに来たときは、どこまでも地平線に広がる郊外の風景に途方にくれたものだった。LAでは車なしでは話にならない。レンタカーはカマロのオープン。LAとサンフランシスコの往復2千キロをV8エンジンのオープンカーで走破するのだ。アメリカを楽しむにはこれくらいしないと楽しめないだろう。

朝の明るい日差しのなか、早速カマロのオープンにする。FMからHIP HOPが流れている。いい感じだ。Bangiと合流するために、コリアンタウンに向かう。

テクノロジーの進化、特にスマホの般化によって生活様式は様変わりしている。特に旅はその変化を如実に感じさせてくれる。ナビゲーションはGoogleマップに行き先の住所を入力するだけ、宿泊はAirbnbでスマホ上で予約するだけ。車がなければUberで呼ぶだけで、現金なしで決済され、ストレスフリーで旅行上のインフラが整ってしまう。地球の歩き方は単なる観光マップになってしまった。

コリアンタウンに到着する。向かったのは魔女のMadokaのシェアハウスだ。シェアハウスといっても、そこは10階建ての巨大アパートで、ルーフトップにチルアウトバーやBBQラウンジ、プールがある。この4LDKのフラットに4人の日本人留学生と暮らしているMadokaと合流後、妻と俺は近くのコリアンバーベキューのレストランに向かう。途中ホームレスを何人か目にする。1週間前には近所で殺人があったそうだ。先程まで見ていた高級アパートの様子とストリートの治安とのギャップが今一つしっくりこない。ガンジャの匂いが街中に漂っている。到着して早々、市民の生活にweedが密着しているのを実感する。

コリアンレストランでランチを食べる。サラダとカルビやロースのセットで18ドル程度。外食は結構金がかかる。10%程度のチップを置いて出る。味はそこそこだがボリュームはある。旅で疲れた体には丁度いい。

ミレニアル・ウィッチの牧歌的な儀式

今日はリクレイミングというLAを代表する魔女カヴンの儀式があるので参加することにする。MadokaはLAに到着次第、リクレイミングにアクセスし、メンバーとして儀式に参加している。アパートにはリクレイミングに参加する魔女が数名待っていた。インド出身の20代前半の魔女と、ブラジル出身の魔女だ。祖国を離れ、アメリカに留学しながら魔女カヴンに出入りしている彼女達は、本国でもかなり文化水準が高いエリートと言えるだろう。旧西側陣営以外の国から西海岸の魔女文化にアクセスすることは、ジェンダーやイデオロギーの右や左を超えた次元にある、ポストモダンかつオカルティックな直接性を希求するオルタナティブな指向性だ。これを現代ではミレニアル・ウィッチと呼ぶのだ。

 

 

グリフィスパークに車を走らせる。半分はUberで向かっているので、その後を追う。LAの町並みを眺めながら進む。ブロックごとに貧富の差が如実に風景として現れる。さっきまでゲットーだった地域から、ブロックを一つ超えれば、手の入った緑を湛えた庭を有する高級な住宅が続く。その露骨な変貌とシームレスな変化に、人ごとながら心配になる。生活水準の差は犯罪を惹起しやすいのではないか。金持ちの家はひと目で分かる。高級車が無造作に家の前に置かれている。ロスアンゼルスの人々のオープンさの表れであり、一方、自分の身は自分で守らなければならない自立自存のリアリティがそこにはある。

公園は家族連れや、若者のグループで溢れている。しかしLAの郊外といっても中心部の公園にしては、人の密度は適度に離れている。日本の休日の公園の密集度に比べれば空いているという程度の人の密度である。思い思いにBBQをしたり、ボール遊びをしたり、フリスビーをしたりしている。いたってのどかな光景。しかし世界の最先端の実験上であり、ハリウッドを要するLAの公園での光景と考えれば、非常に贅沢な光景ともいえる。男2人と魔女3人で公園を儀式の場所をもとめて、20分ほどウロウロと彷徨う。汗だくになりながら広大な公園の奥に進むと、20数名の魔女たちがピクニックよろしく集っていた。あまりに魔女儀式のイメージとは異なった牧歌的な風景である。すでにそこには儀式的な閉鎖性や前時代的なシンボリズムも消え去っているようだ。むしろヒッピーのノリに近い。現代の生活の日常性の延長にある魔女としての生活様式。それは多分にポストモダン的かつ生活に密着したライフスタイルのようだ。

しかし儀式内容は秘密に伏される。映像の公開も許されていない。

本当の情報はその場に参加しないと得られないことは、インターネットの時代だからこそ重要性を持つ。

Bangi、そして妻を伴いこの日の宿に向かう。Airbnbを初めて利用する。アプリでGoogleマップに示された場所に、V8のオープンで向かう。夕方の風が心地良い。家の裏の駐車場に、狭い家脇に通り道を抜けて車を停める。オープンカーには3人分の荷物は少し持て余すが、なんとか積み込んだものを下ろす。家の玄関は4桁の暗証番号のキーロックだ。宿泊前日にオーナーからアプリ経由で暗証番号が送られてくる。それを入力して中に入る。

部屋は非常に快適で洒落ている。10畳ほどのリビングが2つ。大きな冷蔵庫を有した十分な広さのキッチン。食器や簡単な調味料、フルーツなどの軽食が揃えられている。ベッドルームは2つで、ベッドはキングサイズだ。リビングにはソファが一つと、シングルのソファが2つあって、5人は泊まれそうだ。これが一泊200ドル程度なので、一人あたり65ドルと考えるとかなりリーズナブルと言えよう。3泊したが、自炊もできるし、快適以外なにものでもなかった。こういった個人の資産を生かした副業がどんどん世界中で当たり前になってゆくのだろうか。個人が経営者として自分の食い扶持を稼ぐのが当たり前の時代になってゆく。金や労働への意識も変化していることを感じる。

インテリアのセンスもなかなかのもので、築20年以上にはなろうかという木造の、4世帯が一つになったアパートメントだと思われるが、LAの住宅地ながらリゾート風の落ち着きのある内装で、それなりのクラスのホテルに満足度では引けをとらない。これにはAirbnbの評価システムが大きく貢献していて、宿泊者とオーナーが互いに評価しあうことで、アプリ内での物件の評価も上がるシステムになっている。オーナーがつねに顧客のニーズに応えようとしていることが良い循環につながっているようだ。宿泊者も評価されるので、無礼な振る舞いもできにくくなっている。アプリのみで互いに顔を合わせないからこそ、オーナーからの細かい心遣いが伝わるような工夫が、満足度を高めてくれる。

一番奥の寝室で眠る。午後10時ごろだろうか。窓の外からV8エンジンのアメリカらしい咆哮とともに、weedの香りが流れ込んでくる。隣人もこの時間にはweedを嗜んでいるのだろうか。

 

全米に40店舗近く展開する大麻薬局・MEDMEN

滞在二日目は、早速LAのディスペンサリー(大麻薬局)に行き、LAの大麻販売の現状を見学に行くことにする。”Where’s weed”というアプリを使うと位置情報から最寄りのディスペンサリーが表示され、商品のライナップや、扱っている品種、お客の評価が見ることができる。LAだけでも500以上のディスペンサリーがあるのが驚きだ。コンビニの数よりも多いのではないか。

 

 

1996年のLAでの医療大麻の合法化以降、医師による処方箋があれば、医療用大麻という名目で大麻を合法的に入手できるようになった。それに伴い数多くの大麻薬局がLAに出現することになった。入り口にはセキュリティが処方箋をチェックし、処方箋がないものは買えないシステムであったようだ。それが2018年に住民投票によって、嗜好用大麻が合法化されたことで、処方箋も必要がなくなった。今では誰もが入り口でIDチェックのみで大麻の購入が可能になった。これは外国人も同じだ。LAでは成人であれば、誰もが合法的に大麻を購入することができる。

俺たちはビバリーヒルズにある、MEDMENというディスペンサリーに向かった。ここは事前のリサーチで、最も今のアメリカの大麻事情を象徴するようなディスペンサリーということで注目されているショップである。既に全米に40店舗近くを揃え、LAだけでもビバリーヒルズ、ハリウッド、ダウンタウン他10店舗を擁している。まるでアップルストアのようなミニマルに洗練されたディスプレイと、厳選された品質の高い大麻製品のラインナップで、ヒッピーカルチャーの匂いを感じさせないミレニアル世代のためのデザインが徹底されている。俺たちは早速ビバリーヒルズの高級ブティック街に車を停め、街を散策しながらMEDMENに向かう。

過去にハリウッド映画で見たようなオープンカフェなレストランでは、昼間からパーティで賑わっている。ベントレーなどの高級車が横付けされた通りを歩くと、ハイブランドのブティックが軒を連ねている。交差点にはスターバックスのハリウッド店が見える。MEDMENはその数件となりに位置している。店構えも周囲のブティックと全く引けを取らない大きさで、ハリウッドのど真ん中に堂々と存在を主張している。スイスの国旗を彷彿とさせるような赤色の外観は、医療施設のシンボルとしての赤なのだろうか。しかしポップな意匠が目を引く。

 

 

入り口で黒人のセキュリティがIDチェックを行う。パスポートの番号をスキャンされるだけだ。内部での写真撮影は従業員の顔を撮らなければOKのようだ。

店内に入るとマホガニーのシンプルなテーブルが碁盤の目のように、ミニマルに置かれ、その上に大麻製品が整然並べられ、一つ一つの商品にタッチパッドが添えられており、商品の説明がタッチパッドで閲覧できるようになっている。銘柄(ブランド)、成分分析、THCが何%、CBD何%、インディカかサティバか、用途などが事細かに参照することができる。バッズはルーペのついた透明のケースに入れられ、穴からは手にとって匂いを嗅ぐこともできる。ブランド銘柄は20〜30種はあるだろうか。把握できないほどの多彩さだ。大麻オタクは狂喜乱舞だろう。それだけ銘柄による変化を楽しむことができるようになっている。これはアムステルダムに比べるとパッケージングも手に取りやすく、アムスが随分原始的に感じられるほどだ。アムスのコーヒーショップとアメリカのディスペンサリーの一番の違いは、その場で吸うことができないことだ。LA での大麻合法化の中で、法的には公衆の門前での大麻の吸引は禁止されているらしい。自宅など第三者の目のないところでのみ喫煙が認められているという。

 

 

整然と並べられているのは、バッズだけではない。むしろ大麻草以外の大麻製剤のほうが多いようだ。まずはヴェポライザーのカートリッジ、濃縮されたTHC製剤のワックス、すでに巻いてあるジョイント、カートリッジすらない使い捨てのヴェポライザー、そして様々なエディブル(経口摂取ようの大麻)。今回の視察で特徴的に感じたのはエディブルの多様さと流行だ。クッキーやチョコレート、グミに、大麻入りドリンク。様々なエディブルが各ブランドから発売されていた。インド旅行中に、バナラシでバングラッシーや大麻入りクッキーを試したことがあったので、経口摂取も伝統的にある摂取方法のひとつであることは理解していたが、ここまで多様な製品が、まるで子供のお菓子のように展開していたことに驚かされた。

 

 

 

 

ショップの片側にはTHC含有の商品が主体で、ショップの反対側にはCBD製品が並んでいるようだ。大麻のハイを目的としない、ウェルネス目的でCBDを利用する人たちもいるようだ。用途に合わせて大麻の性質を理解して利用することができるのも魅力だ。店員に質問をすると、頻繁にインディカが好きか、サティバが好きかを聞かれる。ストーンしやすいインディカはリラクゼーションや睡眠用に、ハイの要素が強いサティバは音楽や映画を楽しんだり、パーティに行ったりするのに適するようだ。またCBD含有のマッサージクリームなどは運動後や痛みがある部分への痛み止めの効果があるようで、大麻の持つ薬効が利用者によって選択できるほど多くの商品が並べられている。客も人種は様々、オタクっぽい人からヒッピー然とした人もいるし、こころなしか女性の比率のほうが多ようだ。大麻は女性によく似合う。

 

 

バッズから、WAX、ヴェポライザーからエディブルまで、一通りの商品をサンプルとして買い込み、宿に向かう。大きめの紙袋にいっぱいの大麻グッズ。価格もそれほど高くはない。大麻のバッズで3g、30ドル程度か。非常に高いクオリティであることを考えると、決して高くはない。またヴェポライザーのカートリッジになると更にリーズナブルだ。100回程度吸引できるTHC 1g入りのカートリッジが40ドル程度か。これは計算だと1本で1ヶ月程度もつのではないか。

またエディブルも非常に安い。エディブルは1回量がTHC5mgというのが一つの単位で、10mgの摂取で有効量と言われている。自分の望む効果に合わせて量を調節できるようにデザインされているのだが、それはチョコでも、ブミでもクッキーでも一緒だ。一つのパッケージが20ドル程度。そこに10個以上のエディブルが入っているのだから、1回2ドル程度で楽しめる計算になる。200ドル程度買い込んだ俺たちだったが、帰国まで使い尽くせないほどの量を購入することになってしまった。

翌日はLAで医療大麻と医療観光を提供するCGS-California社の協力のもと、LAの大麻産業の現状についてリサーチ、LAの様々なディスペンサリーを訪問する予定だ。

 

(文/遠迫憲英)

 

 

 

 

〈Floating Away ──精神科医と現代魔術師の西海岸紀行〉

PROLOGUE 1 「エデンの西 LA大麻ツアー2019」by Norihide Ensako

PROLOGUE 2 「トランスする現代の魔女たち」by Bangi Vanz Abdul

SCENE1「ビバリーヒルズのディスペンサリー・MEDMEN」by Norihide Ensako

SCENE2「魔女とVRのジェントリフィケーション」by Bangi Vanz Abdul

SCENE3「グリーンラッシュはいずこへ向かうか」by Norihide Ensako

SCENE4「ビッグ・サー/沈黙の源泉」by Bangi Vanz Abdul

 

 

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遠迫憲英 えんさこ・のりひで/精神科医。大学時代は音楽活動、格闘技に熱中。またバックパッカーとしてインド、東南アジア、中米、地中海沿岸など各地を放浪する。幼少期から人間の意識についての興味が深く、古代の啓明とテクノロジーの融合を治療に活かすべく精神科医を志す。平成21年にHIKARI CLINIC(http://hikariclinic.jp/)を開院。

 

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〈MULTIVERSE〉

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「Floating away」精神科医・遠迫憲英と現代魔術実践家のBangi vanz Abdulのに西海岸紀行

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