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Floating Away ──精神科医と現代魔術師の西海岸紀行| SCENE2「スキッドロウとアーツディスクリトの界面で──魔女とVRのジェントリフィケーション」

精神科医・遠迫憲英と現代魔術実践家のBangi vanz Abdulの、大麻、魔女文化、VR技術を巡る、アメリカ西海岸紀行。2019年、西海岸の「いま」に迫る。

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スキッドロウ

LAダウンタウン地区の一角スキッドロウは、2019年時点で全米最大のホームレス人口を抱えるスラムとなっている。リトルトーキョーに隣接するLA中心部に唐突に穿たれた穴のように、この一角にだけ映画「マッドマックス」のような光景と匂いが充満している。エリアを囲む柵や壁があるわけでもなく、通り一本隔てたそこが突然ホームレスのテント村となっているので、何も知らなければうっかり足を踏み入れてしまう。

2019年現時点で、カリフォルニア全体でのホームレスの数は60,000人にものぼると言われる。うち過半数の36,000人がLAにいて、16,000人が暮らすスキッドロウの約半数8,000人ほどがホームレスであるという。ホームレスの殆どは黒人と言われているが、今回滞在時には白人のホームレスをむしろ多く目にしたように感じられる。黒人と白人ではエリアの棲み分けがなされ、我々のようなツーリストが移動するエリアでは白人が主になる、ということかも知れない。

 

 

突然はじまり、どこまでも続き、突然消える、テントのライン。Uberで移動中に通過したスキッドロウの光景と体感的な危険、異常で不穏な空気は、実際に体験しないと信じてもらえない種類の戦慄だ。スキッドロウのスラム化には、70年代以降ベトナム退役軍人と重度麻薬ユーザーが住み着いたことが影響しているという。戦争という最もヘヴィーなバッドトリップは、半世紀が経った今も治癒の目処が立たないPTSDをLA中心部に刻んでいる。

 

スキッドロウとアーツディストリクトの境界、サウスアラメダ・ストリート(photo by 梅田健太)

 

 

アーツディストリクト

スキッドロウに隣接する区画アーツディストリクトは、一転して現代アートギャラリーとカフェが集まり、ハイクオリティなグラフィティで彩られている再開発エリアだ。夜11:00頃、人影もまばらなアーツディストリクトを歩いてグラフィティを眺めながら、ボバ(タピオカ)ドリンクで話題の台湾系カフェGonchaを目指した。深夜にも関わらず学生風の若者たちが溢れ、それぞれにインスタ映えするタピオカティーを楽しんでいる。この一角だけをみれば、東京の代官山や自由が丘とさして変わらない。実際、危機感のレベルは、体感的に東京とさほど変わらないのだ。マッドマックスと自由が丘が通り一本隔てて隣接している。サウナと水風呂を往復するような強烈な意識変容を乗りこなすことが、LAに暮らすために必須のマインドフルネスなのだろう。

 

(photo by 梅田健太)

 

WISDOME LA

 

 

アーツディストリクトとスキッドロウが接するちょうど界面に2018年にオープンした「WISDOME LA」(https://wisdome.la)は、イマーシヴVR(ヘッドマウントディスプレイを使用しない、全天周映像によるVR表現)を目玉とするアートパークだ。5つのドームからなるテーマパークのような造りで、様々なメディアアート作品展示とショップ、バーを備え、週末にはサウンドバス(音楽コンサート+瞑想会)や、ピンクフロイドの演奏と全天周映像のショーなど開催されている。

ここでほぼ常設展示のような扱いでフィーチャーされているAndroid Jonesと彼の最新アートワークシリーズ「SAMSKARA」は、LAでVRを学ぶアーティストで魔女のMadoka氏が「今LAでダントツ」と太鼓判を押した展示だ。CGとホログラムプリントで描かれる、あらゆるDNAをマッシュアップした女性的アンドロイドたちの肖像は、白人、黒人、アジア人の面影を統合し、神秘的な美を湛えて妖しく輝く。遺伝子レベルの郷愁と予感で恍惚に誘うハイテク女神信仰の神殿を礼拝するような体験だった。

 

(photo by 梅田健太)

 

 

 

ドーム内は大麻の香りに包まれ、恋人たちが毛布にくるまって横たわり、視界を覆いきる360°映像で神秘的な女神の子宮へとトリップしていた。この時サウンドを担当していたのは、アーティストというよりはインストラクターというような雰囲気のスタッフ。クリスタルボウルとマントラの詠唱を控えめに繰り返していたが、途中ケーブルを挿し間違えて大きなノイズを出してしまい、ストーンドしていた観客が悲鳴をあげて飛び起きたのはご愛嬌だ。ここには確かに瞑想的な静寂と恍惚が満ちているが、それは神秘的導師への熱狂的帰依ではなく、カジュアルでインスタ映えするウェルネスとして、柔らかく共有されている。タイムテーブルを見ると、ピンクフロイドでさえ毎月のペースで出演している。観客たちの視線は勿論、ステージ上の伝説的ロックバンドではなく、全天周のデジタルドリームに吸い込まれているだろう。

 

 

検索した限りでは、WISDOME LAやAndroid Jonesに関するツーリスト向け情報は、意外なほど少ない。ヒロ・ヤマガタやクリスチャン・ラッセンに通じるポップアートビジネスのマーケティング流儀を意識しながらも、コンテクストを読み解くことでより深層にアクセスできるアンダーグラウンドな聖域の雰囲気を、さりげなく香らせている。Wisdom LAを立ち上げたクリエイティブチームは、かつてこのLAのトランステクノシーンを形成してきたネオヒッピー人脈の中枢であったとのこと。さもありなん、と強く納得すると同時に、アンダーグラウンドなネオヒッピーネットワークが、シティの命運を賭けた再開発プロジェクトにおいて中心的な役割を担っていることに驚かされる。

 

テクノとヒップホップ

サイケデリック革命とマルチメディアショーから始まった「サマーオブラブ」を継続するヒッピーズムの流れは、90年代トランステクノ – レイヴカルチャーとなり、徹底的にドラッグオリエンテッドな感覚場を形成してきた。その流れはトラヴェラーという文化部族を形成し、クリエイティビティとスピリチュアリティ、ツーリズムとフェスティヴァルによる地域経済と行政の駆動モメンタムとなった。ネヴァダのブラックロック砂漠に毎年5万人を動員し、一時的自律領域としてのアート都市を生み出すフェスティヴァル「バーニングマン」はその嫡子だ。

一方、貧民街ギャングの抗争を平定するという切実なニーズから生まれたブロックパーティとヒップホップは、スクラッチからサンプリングへとメディア技術をトランスしながら、再現なく微分化するビートとノイズにカリビアン、ヒスパニックなどあらゆるマイノリティ文化を貪欲に飲み込むことで、リズム&ブルースを常に進化させてきた。それは黒人コミュニティの聖域をザイオンとして堅持しながら、音楽、映画、ファッション、マイノリティポリティクスとSF的想像力のインスピレーションソースとなった。

白と黒、テクノとヒップホップは今、その界面であり坩堝である西海岸で、必然的に自然発生するハイブリッドの美を予感させている。互いに異なる出自とアイデンティティを保ちながら相互作用の波に揉まれてきた二つの文化部族が、さながら「ロミオとジュリエット」のように、時に衝突しつつどうしようもなく惹かれ合う運命を決する理由、それが貧困と銃とドラッグ、すなわち資本主義世界の究極相としての現代アメリカが抱える、抜き差しならない問題だ。

 

大麻と女神

大麻ディスペンサリーの最大手MedMenでは、スタッフの顔のみが撮影NGであった。急速に拡大する大麻産業は、非合法時代に大麻ビジネスに携わっていたカラードと貧困層に安定した雇用を提供する受け皿としての機能を、自覚的に担っている。大麻製品にますますクリーンで洗練されたブランディングを施し、ショップスタッフにはビバリーヒルズの高級店でキャリアアップのチャンスを与えることは、業界の安定拡大にとって必須課題だ。大麻産業の健全な成長を促すことは、階級格差とドラッグという深刻な社会問題に対する、ジェントリフィケーション施策の重要な鍵となっている。

全米最大規模のスラムであるスキッドロウと、再開発が推進されるアーツディストリクトが接する最前線には今、壮麗なVR女神神殿が建立され、その周囲には深夜にインスタ映えするタピオカティーを求めて彷徨える、グラフィティの森が広がっている。一見カオティックに街路を埋め尽くすグラフィティは、よく見ると緻密に配置・管理されていて、その殆ど全てが、女神にも魔女にも見えるような女性を描いていることに気づく。ギャングスタ的なタイポグラフィにアマゾネス的なフェミニティが、ヒップホップ的なスタイルにテクノ的宇宙モチーフが組み合わされたグラフィティには、今この場所でしか目撃することができない美意識と迫力に満ちている。ギャングスタの危険な匂いに代わって、あらゆる人種と神話を包摂する魔女と女神のパフュームが充満しつつある。

 

 

 

 

 

サイケデリックジェントリフィケーション

アーツディストリクト地区で今起きていること、試みられていることは、スピリチュアルなジェントリフィケーションといえるかも知れない。魔女と女神は、20世紀末アメリカを席捲したフェミニズム、ニューエイジ、ネオペイガン、女性的霊性を包摂するシンボルである。反核と先住民族運動の前線に立ち、シスターフッドとしての現代魔女カヴンを再編成した魔女スターホークの闘争は、トランプ時代における西海岸の文化戦略としてApple、Googleと並んで公に承認され、完全勝利を手にしたかのようだ。サイケデリック/ハイテク/ウィッチクラフトは、今やカリフォルニアの公式なテーゼであると言っても過言ではないだろう。

 

 

ジェントリフィケーションという現象には、様々な立場からの批判や抵抗も存在する。しかし強烈な日差しがくっきりと明暗を分かつここLAでは、悠長な議論は許されていない。貧困、銃、オピオイド。それが日々生死の境を意識させるLAの、待ったなしの現実である。Madokaが案内してくれたマッカーサーパークでは、我々が滞在していた間に99セントショップで発砲と立てこもり事件があり、数週間前には銃による二件の殺人事件があった。性犯罪者をマッピングするサイト『Family watch dog』によれば、この辺りには1ブロックに約5人ほど児童性的虐待の前科者が住んでいる。ホームで直立不動で大便を垂れ流すホームレスのオピオイド中毒患者をかわし地下鉄駅を出ると、すぐ眼前の元コリアンスパビルが廃墟になったまま放置されている。エイジャンフードセンターで朝食にビピンパとキムチを入手し、出所不明な下着が投げ売りされているメキシコ系露店スラムを通り抜ける。アジア系辻宣教師が世界の終末とキリスト再臨を絶叫し、コンパクトで凶暴なPAからベースとラップが乱射される。騒音規制という概念はこの街にはない。あったのかも知れないが、明らかに、もうそれどころではない。

このカオスの只中で、オラつくヒップホップと、全てを抱擁するアンドロイドの女神が、危険で官能的なサークルダンスの速度を増している。同時に、この悪魔的ですらあるエロティシズムへの無邪気な信頼は、この地に流通したサイケデリック物質の絶対量、それを体験した人の絶対数によって裏打ちされているようだ。かつてそこで確かに起きた「サマーオブラブ」の記憶が、ポジティブな確信として担保・共有されているのだろう。ここではトリップは、今も終わっていないのだ。おそらくは、永遠に。

(文/磐樹炙弦)

 

 

 

〈Floating Away ──精神科医と現代魔術師の西海岸紀行〉

PROLOGUE 1 「エデンの西 LA大麻ツアー2019」by Norihide Ensako

PROLOGUE 2 「トランスする現代の魔女たち」by Bangi Vanz Abdul

SCENE1「ビバリーヒルズのディスペンサリー・MEDMEN」by Norihide Ensako

SCENE2「魔女とVRのジェントリフィケーション」by Bangi Vanz Abdul

SCENE3「グリーンラッシュはいずこへ向かうか」by Norihide Ensako

SCENE4「ビッグ・サー/沈黙の源泉」by Bangi Vanz Abdul

 

 

 

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磐樹炙弦 ばんぎ・あぶづる Bangi Vanz Abdul/現代魔術研究・翻訳。メディア環境、身体、オカルティズムと文化潮流をスコープとし、翻訳 / 執筆 / ワークショップを展開。翻訳: レイチェル・ポラック「タロットバイブル 78枚の真の意味」 (2013)/ メアリー・K・グリーア「タロットワークブック あなたの運命を変える12の方法」(2012 ともに朝日新聞出版) / W.リデル「ジョージ・ピッキンギル資料集 英国伝統魔女宗9カヴンとガードナー、クロウリー」(東京リチュアル出版) / 心療内科・精神科HIKARI CLINIC フローティングタンク担当。

Web: bangivanzabdul.net

Twitter: https://twitter.com/bangi_bot

 

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〈MULTIVERSE〉

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「Floating away」精神科医・遠迫憲英と現代魔術実践家のBangi vanz Abdulのに西海岸紀行

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