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亜鶴 『SUICIDE COMPLEX』 #11 緊急小口資金申請の私的記録

タトゥー、身体改造、ボディビル、異性装……絶えざる変容の動態に生きるオイルペインター亜鶴の、数奇なるスキンヒストリー。第十一回は「緊急小口資金」申請をめぐって。新型コロナ時代をサバイブするために。

今日をサバイブするために

 朝、目が覚めると携帯をチェックする。新型コロナウイルスに関する話ばかりが目につく。皆、とにかくフラストレーションが溜まってしまっているのが分かる。

 フリーランスは不要である。夜間営業をしてる飲食店などいらないから潰してしまえ。日増しにそういった声が増えていることにも厭世感が募る。

 しかし何をどういったって肉体労働はテレワークに移行できない。接客業であっても基本的にはそうだ。流行りのUberEatsだって食事を作るスタッフ、運び人、両者とも出勤せざるをえない。例外なく必要なのだ。必要だからコロナ以前の世界に存在していた仕事なのだ。

 もはやこれは有事ではなくアップデートされた日常だと考えるべきだ、との話も聞いた。そうだとしても、マジかぁ世の中は変わってしまったのかぁなんて言っていても仕方ないわけだし、現実問題、僕を含め身のまわりのアーティスト、フリーランスの仲間たちは仕事にあぶれ総倒れになりそうになっている。

 僕は僕の身の回りの人達には不幸になって欲しくない。僕なりの言い回しをすれば皮膚1.7㎡の範囲内の仲間たちだ。仲間たちには出来ればタフに動いていてもらい、「あいつ、本当ダメなやつでさー(笑)」なんて言って酒を飲んだりしていたいのだ。

 そのためにも今日をサバイブする方法の1つとして僕がつい先日経験してきたことをシェアしたいと思う。

 

緊急小口資金の申請

 最近SNS上で爆発的にシェアされた『緊急小口資金』の話についてだ。参考にしてもらえれば何よりだと思う。ただし、この話は各市町村によりけりで対応内容やその他判断基準にズレがある場合もあるそうなので、あくまで僕の例としてではある。

 僕は普段、自営業として非常に小規模ながらも刺青屋を運営している。あくまで僕のアーティスト活動の一環としてだ。だから、日常において大口のまとまった金銭を動かす事は基本的にはない。

 結果として、どうしても月ごとに収入の増減が発生してしまうことが多い。それを補填するために大阪市内のインバウンド業を営む会社にも在籍させてもらい、主に物件の設営(家具類の搬入、インテリアコーディネートなど)を担当させてもらっていたりもする。

 元より、身体を動かすこと、制作、生活のために必要な経費を捻出するために長時間働くことも、その上で睡眠を削ることも苦ではないために、支出が増えれば増えるほど仕事を増やして、より大きく稼ぐという、止まると死ぬ鮫のような生活スタイルを何年も維持してきていた。

 その結果、刺青業と所属している会社との両方を合わせアベレージ月に40万円程を稼いでいた。そこにプラスして個展やその他作品が売れること、そしてこういったHAGAZINEなどへの寄稿、イベント登壇による収入、というのが僕の稼ぎの大枠の内容であった。

 それがこのコロナショックに伴い、仕事が激減した。結果として僕の預貯金は既にゼロに近い。とりわけインバウンド産業がダメージをモロ被りすることとなったのは想像に容易いだろう。

 そこに展示の機会の消失、イベントなどの停止。刺青においてもお客さんの生活が当然優先になるため、僕のところに来ている状況ではなくなる。

 以下に僕の直近の入金履歴を晒す(刺青は基本的には取っ払いである為に口座を通らない)。

 

 

入金履歴

1290万円

120万円

240万円

37万円

 

 1月に多少の減り幅があるのは個展に伴い仕事を停止していたためでしかないのだが、明らかに目減りしているのが分かるだろう。

 というより3月の給料7万円はコロナどうこうの前にリアルな生活の危機に瀕する収入額だ。恐らく4月に貰える給料は5万円ほどだろう。これからまた、さらなる減少がなされる見込みもある。

 このままここで散りゆくのを待つわけにもいかないのでネットでちらと見かけた、緊急小口資金を獲得すべく諸々を調べ上げ行政にお伺いを立てに行くことにした。

 

 

 SNS上でシェアされている内容ではコロナショックに伴い最大80万円まで無利子無利息借入ができる、となっているものが多い。

 その内訳としては、『緊急小口資金』、これが上限20万円(自治体により多少の差異は有り)、それと『総合支援金』、こちらが上限20万円×3カ月、合計すると80万円になるという寸法だ。

 ただしもちろんのこと、無条件で借入が出来るという話ではない。話を聞きに行くにしても、このコロナ状況下で長蛇の列になっている可能性の高い市役所にアポなし突撃するのは憚られたので電話をしてみることとした。結果として電話口で予約を取ることができ、2時間後には市役所内にある福祉協議会という場所に向かうこととなった。予想外にスムーズであった。また電話口で話を聞いてくださった係員の方は非常に優しかった。

 すでに稼ぎがほぼ完全停止しかけていること。そして自身がアーティスト業をしていること。そのために明確な収入の増減を示せるものがない場合もあるということ。

 その旨を伝えたところ、持参必須となるアイテムを教えて頂いた。

 

① 世帯全員記載の住民票(ただしこれは聞き取り後に市役所内で取りに行けば良いとのこと)

② 写真付きの身分証明書

③ 入金の際に必要となる銀行口座のキャッシュカードと認め印

 そしてここが大事なのだが、

④ 明らかに減額が証明出来る何か、もしくは仕事がキャンセルとなりここから収入減額となる事が理解できる何か。

 

 とのことだった。

 要は基本的に窓口の担当者も今回の困窮の背景にはコロナがあるという共通認識を持っているために、なぜ稼ぎが下がったのか、または下がるのかを口頭ベースで聞くという形なのであった。

 その中で客観的資料としてあった方が好ましいものと言うのが、たとえば確定申告の書類であり、もしくは公的な書類が用意出来ていない場合は口座上での減額の履歴であった。

 この段階ですでにかなり僕にとっては安心できる内容であったのだが、電話窓口の人から電話の切り際に

「この状況下で色々大変でしょうけど頑張ってください」

 だなんて声をかけていただいた。

 昨今SNSで政府批判、行政批判を頻繁に見ていて限界以上に辟易していた僕としては、とてもありがたい、心が救われる一言であった。

 

「80万円コンボ」の実状

 そして数時間後、実際に窓口を訪れ、予約していた旨を伝えると当然だが一切の待ち時間無く席に通してもらえた。

 

小口資金の対応で通された場所

 

 電話口で相談した内容を暗唱する形にはなったが再度現状の困窮を伝えると共に、身の回りにもそういった同条件の悩みを抱えた仲間が多いこと。僕の場合は口座上に分かりやすい減少が示されているが、年12回の個展で年間生活費をまかなっている仲間もいること。バンドマンなどはより一層の証明が出しにくい上にライブハウスのキャンセル費用だけが重く背負わされそうになっていること。そういった場合には何が必要なのか。確実に収入が減るが証明しにくい場合がほとんどであると説明したところ、あくまで地域によりけりなところはあるものの、仕事がキャンセルまたは延期となった旨が記されたメール、またはHP上での告知、果てはLINEでの文面でも現状は認可をおろす可能性が非常に高いという話だった。それすらも用意出来ない場合は説明をとにかくしっかりしてくれたら話を聞いて対応すると思うとのことであった。

 そして僕の場合は、仮に緊急小口資金として20万円を支援していただいたところで耐えれて延命1カ月がなされるだけであり、その1カ月の間にこのコロナの状況が終息するとも思えないために総合支援金(追加3か月分)の融資申請もしたいという話もした。

 しかし、ネット上では80万円コンボが決められると話題になっているが、それは少し間違った情報であると担当の人に言われた。実際は総合支援金については普段は「プラン」と呼ばれるシステムであり、今回コロナにより受給可能条件を拡大しているものの、あくまでも緊急資金ではなく、生活の立て直しのために使ってもらいたいものであるという旨を話された。

 そして、ここからは行政的な話ではあるが、小口資金を受け取った後でもどうしても立て直し出来そうにないという形をとってもらった方が、お役所的には受理しやすいという裏話も教えて頂いた。

 また現状。小口と総合支援の両方の申し込みというのは告知が出て以降日が浅い事もあり、僕が初めてとのことだった。

 ただし僕の場合は既に生活が困窮を極めつつある事は理解していただけたために総合支援も合わせて申請はしている状態にし、キープ。小口給付分が着金してすぐに連絡を、という形で引き継ぎをしていただくことが出来た。これは担当窓口の方のご厚意だろうと思う。

 小口給付に関しては5営業日を目途に入金予定であるとアナウンスがあるがすでに希望者が多ため、多少遅れ、10日後内を目安にしてほしいと伝えられる。さらに総合支援に関しては支援金額が高くなるために入金までのラグが小口支援よりも多少かかる可能性があるという話も同時になされた。

 ちなみにだが返済期間に関しては小口資金については給付から3年内の返済であれば保証人不要の無利子無利息。

 総合支援金については10年内返済であればこちらも保証人不要の無利子無利息であるということだった。ただし、これについても現状の話であり、東日本大震災の時と同じようにもしかしたら返済義務がなくなる可能性も今後ありえるという話も受けた。

 ここまでの話で今回の件でダメージを受けている個人事業主は大方、受け取りが出来るであろことが分かったとは思うが安心材料を追加補足として言っておくと、

 僕が実際に住んでいる住所と住民票がある住所は違う。要は実家がある市町村に納税をしている。そして僕の仕事はランニングコストが非常に掛かるため、経費を色々と落として個人事業主ではあるものの赤字申告をし今年度まで扶養に入れてもらっている。状況をまとめると、実家に住んでいないが住んでいる形になっているために世帯主ではなく、扶養に入りつつその上で赤字経営をしている個人事業主であるのだ。

 非常にややこしい状態ではあるが、住民票を提示した際にやはりそのことは聞かれる。

 実際に実家にいる母は祖父母の介護で母方の実家に出ずっぱになっているし、父は父で生家である大阪で単身生活をしている。僕は僕で納税もしている。その旨ももちろん実情として伝えたところ、ややこしい事を聞いてしまってすいません、何の問題もないですよ、とスムーズに話を聞いていただけた。

 

死ぬなよ、生き抜けよう、お前のことが好きだ

 この環境下においては誰しもがコロナゼロ年代を生きているのだ。とにかく今こそ対話が必要なのだ。それがFace to Faceでなかったとしても。

 情報を含め何においてもだが、多面的に物事を見て、自身で判断することを辞めてしまうと、本当に必要な情報すらも知ることが出来なくなるのだと痛感した。

 とにかく、サバイブすること。そのためには、想像力の欠落がイコール死亡にもつながる。果ては意図せず相手を殺してしまったみたいなあまりにつらい話だってありえる。そのことを常に胸に入れて行動していかなければならないのだ。

 死ぬなよ、生き抜けよう、まだいける。絶対に諦めないでおこう、お前のことが好きだ。

 そんな言葉を毎日言わないといけない日常になるとはさすがに僕もイメージ出来てはいなかったが、とにかくあなたはいつだって一人ではない。

 そう思うからこそ、僕は恥ずかしながらも口座内容まで開示したのだ。みんな、絶対に生き抜けよう。

 

先日、手首に追加した「The Red Pill & The Blue Pill」のタトゥー。

 

 

〈MULTIVERSE〉

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PROFILE

亜鶴 あず/1991年生まれ。美術家。タトゥーアーティスト。主に、実在しない人物のポートレートを描くことで、他者の存在を承認し、同時に自己の存在へと思慮を巡らせる作品を制作している。また、大阪の心斎橋にて刺青施術スペースを運営。自意識が皮膚を介し表出・顕在化し、内在した身体意識を拡張すること、それを欲望することを「満たされない身体性」と呼び、施術においては電子機器を一切使用しないハンドポークという原始的な手法を用いている。

【Twitter】@azu_OilOnCanvas