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芳賀英紀 『対談|百年の分岐点』 #06 「企業向けのITをやってると、成功を追うよりも失敗を恐れる人間の方が重宝される。でも、それだけじゃ物足りない」GUEST:齋藤和政(株式会社ソノリテ社長)

芳賀書店三代目がいまもっとも会いたい人に話を聞きにいく対談シリーズ。今回のゲストはBtoBをベースとするIT企業ソノリテの社長・齋藤和政さん。「ちょっと」だけカウンターを自認する齋藤氏の「ちょっと」のさじ加減をめぐって。


 

「破天荒で風変わりな社長」。そう書いてしまうと月並みだ。思い浮かぶ顔だって少なくない。これまでもメディアではしばしば、各界の剛腕社長たちの型破りな人生哲学や、常識離れした奇行が面白おかしく取り上げられてきた。

その点、BtoBをベースとするIT企業ソノリテの社長・齋藤和政はどうだろうか。社長自らyoutuberとなり、企業内レーベル「ガーター出版」を立ち上げ、時にメディアの取材も受け、先日は芸人のハチミツ二郎がプロデュースした「エロ本」のクラウドファンドに突如として出資を表明した。

なるほど、確かに「風変わり」ではある。しかし、それらはいずれも、こう言ってはなんだが、「許容の範囲内」なのだ。大きな逸脱というのではなく、ささやかな脱線。実際に、千代田区は神田のオフィスビル内にあるソノリテにお邪魔してみても、そのオフィスは実に今日のIT企業らしいオープンスペースを中心とした洒脱な空間となっていて、決して突飛さは感じられない。たとえるなら、ガチのSMマニアではなく、ソフトSMの愛好家といった感。麻縄や低温蝋燭くらいは使ってみるけれど、鞭打ちやピアッシングには至らない、あの感じ。

しかし、そこにソノリテの色がある、と齋藤社長は言う。ガチの不良ではなく進学校で不良をしているような、「せこい感じ」。それが「僕」なのだ、と。積極的にオルタナティブを追求するとかではまるでないけど、だからといって、そこに情熱がないわけではない。おそらく、それは37.3度くらいの微熱で、しかし、その微熱が齋藤社長とソノリテに「遊び」をもたらしている。

齋藤和政と芳賀英紀、共に会社の経営再建を使命に社長就任したという背景をもつ二人が、それぞれの社窓からの風景を語った。

 


 

 

齋藤和政氏

 

僕は永遠にお前たちにストレスを与える

芳賀 齋藤さんのソノリテ(http://sonorite.co.jp/)とうちの芳賀書店では企業として全く毛色が違います。これまで絡みもなかった。そんな中、齋藤さんを知ることになったのは、ハチミツ二郎さんが手掛けた「エロ本」がきっかけでして。

齋藤 実はね、この後も二郎さんと飲むことになってるんですよ(笑)

芳賀 あ、そうなんですね齋藤さんは二郎さんが東京キララ社と作ったエロ本プロジェクトのクラウドファンディングに大口で投資してくださった唯一の人物で(笑)。実は僕もそのプロジェクトに関わっていて、状況は逐一伺ってたんです。実際、齋藤さんの投資があったおかげで目標額を達成できたみたいで。それを聞いて、いきなりエロ本に出資する社長さんって一体どんな方なんだろうって思ったんです。

齋藤 そうだったんですね(笑)

芳賀 そう、純粋な興味なんです。ああいう、言ってしまえばちょっと下世話なカルチャーに関心を持って投資してくださる一般企業の社長さんとくれば、気になるじゃないですか。

齋藤 まあ、それほどね、「これはすごいプロジェクトだ!」とか、そういう感じで投資したわけじゃないんですよ。なんというか、このプロジェクト自体が、ある意味で二郎さんの悪ノリみたいな感じで始まってるっぽいところあるじゃないですか。別にすごい強い主張があるとかじゃなく薄~い感じ。だから、僕も薄~い感じで投資させてもらおうかな、と思ったくらいなんです。

 

 

芳賀 なるほど(笑) そもそも、どうしてこのプロジェクトを知ったんです?

齋藤 ツイッターで二郎さんがるなしゅんさんというモデルのグラビア撮影をしている様子が流れてきて、それで知ったんです。クラファンのサイトを見たら、もう期日迫ってるのに30万くらいしか集まってなくて。それで、社内で「俺、これに出資したいんだけど」みたいに話を出してみたんです。

芳賀 あ、一応、社内で揉んだんですね。

齋藤 揉んだってほどでもないんですけどね。社内SNSみたいなものがあって、そこで相談してみた感じです。ただ、その話に「いけいけ!」みたいな反応してくれたのは、おじさん社員ばっかで、若い社員の反応は全然でしたね。あれ、あなたはいくつだっけ?(同席していたソノリテ広報社員の方を指して)

広報 私は32歳です。

齋藤 そうそう、この子より下くらいの社員は「そういうのはいかがかと思います」みたいな反応でしたね。若い子は真面目なんですよ。

芳賀 今の若い子は真面目ですよね、僕も感じます。この対談前に、以前、VICEで齋藤さんがインタビューされている記事を読んだんですが、齋藤さんはこの会社の立ち上げ社長じゃなくて、途中から会社を再生させるという目的で引き継がれてると書いてあって。実は僕もにたような感じで芳賀書店を引き継いだんです。ただ、そういう形で引き継ぐと、悪ノリしたいけど、いまいちしきれないところもあって。だから、齋藤さんの場合、そこらへんがラフになるスピードが速いというか、すでにちゃんと悪ふざけしててすごいな、と(笑)。でも、それって組織運営の上ではすごく大事なことだと思うんですよ。だから、どういう考えで、そういう悪ノリをされてるのかな、というのが気になるんです。

 

 

齋藤 自分の場合、この会社を引き継ぐまではサラリーマンやってたんですよ。日立グループとか東京電力グループとか、まあ割と封建的で硬い会社にいて、きちんと20年くらい社畜をやってたんです。で、震災があった時にこの会社の社長になれたんです。だから、それまでのような硬い感じではやりたくなかった、まったく違うことがやりたかった、というのがそもそもあったんです。

要は、まあIT企業なんでね、アメリカのシリコンバレーみたいな、社員みんなラフな格好して、だけどすごい給料もらってて、仕事のスタイルも自由で、みたいなことを当初は漠然と思ってたんですよ。ただ、なんかね、どうにもそうはならない(笑)。カウンターなことやりたいなっていうのは自分の中にあるんだけど、自分の中にある思いが軟弱だから、そこまで思い切った感じにもならないんです。だから、せいぜいエロ本に出資するくらいが精一杯で。まあ、周囲からすれば、それすらも大胆に見えるのかもしれないけど、実際はおっかなびっくりやってますよ。

芳賀 あ、おっかなびっくりなんですね。雰囲気的にもっといけいけどんどんなのかなと思ってましたけど(笑)

齋藤 まあ、クライアントは真面目な会社が多いので、エロ本に投資してるってのがどっかで目に触れることで、仕事のいくつかが消し飛んじゃうかもしれないわけで。でも、そういうふうにドキドキしたとき、どっかで「え~い、やったれ」みたいな感じもあって(笑)

芳賀 その時にしかできない選択というのがありますからね。

齋藤 そう言うとかっこいいですね(笑)。エロ本にお金を出す時に「これは今しかできない選択だ」なんてまるで思ってなかったですけど。ただ、社員の人たちも、なんだかんだ最近は僕のこういうところに慣れてきてて、許してくれてるから、ま、いいのかなって感じです。

芳賀 逆に普段から社長の近くにいらっしゃる社員さんからみて、齋藤社長はどういうキャラクターとして映ってるんです?

齋藤 初めて聞くかも。

広報 どういうキャラクター……、そうですね、キャラクター作りをつねにしているキャラクターですかね。

齋藤 嫌なこと言うねえ。

芳賀 ちゃんと見られてるんですね(笑)

広報 なんか社長がキャラクター作りをしようとなさってると感じるんで、社員としてはそのキャラクターをいつも掴もうとするじゃないですか。で、こういう感じなのかなみたいに掴みかけると、もう方向転換してて、その繰り返しですね。自覚的にされてるのかは分からないんですけど。

芳賀 今回のエロ本出資以外でも、「え、社長」みたいな話は割とあるんです?

広報 具体的なエピソードはすぐには出てこないんですが、企画とかのプレゼンを社長にする時に、その以前に社長が「いい」って言っていた路線でまとめて持っていったりすると、「いやぁ~」みたいな感じで跳ねられたりして。あれ、この前と言ってることが全然違うなってなったりはあります(笑)

齋藤 そうだね。でも、社長ってそんなもんじゃないかな? 普通だと思うよ。

芳賀 うちの場合は男臭い会社なんで、吐いた唾は飲まないみたいなところが結構あるんですよ。だからソノリテさんは会議が割と女性的に行われているのかな、と感じましたね。

齋藤 ああ、そういう意味では女性的なのかもしれない。

広報 武士に二言はない、みたいな感じの人はいないですよね。

齋藤 まあ、わざとそうしてるところはあるかもしれないですね。

芳賀 そう感じました。前に読んだインタビューでもすごく飄々としてて、ただ、こういう方こそこだわりがすごく強いんだろうなと感じて。表に出さないだけで。だから、そのこだわりをこの対談では知りたいんです。一応、僕個人がこの対談シリーズを通して伝えたいこととしては、人は誰しもが職人になるべきだってことなんです。要はプロであれっていうこと。たとえ、それが主婦だとしても。人として優れているることと公的にプロであること、その両方を意識して生きた方が楽しいんじゃないかって思ってて。

齋藤 へえ、かっこいい。

芳賀 いや、そんなかっこいいもんじゃないです(笑)ただ、そういう意識でいた方が、出会えるものの質も上がって、豊かになれるような気がするので。SNSなどを見てると、自分が何のチャレンジもしないことを、時代や環境のせいにしてる人が多いなという印象もあって、それはすごくもったいないと感じてもいて。

齋藤 職人ということでいうと、職人さんって答えや正解がないものを、ひたすら自問自答を繰り返して、苦労して追求してるわけですよね。さっき、言ってることがコロコロ変わるって話があったけど、それはそこを意識してるところもあって。安易に「これが正解でしょ」みたいなことを出されるとイラっとするんですよね。この前、これが欲しいって言ってたからそれを持ってきました、みたいな。いやいや、そのさらに先を持ってこいよ、みたいになる。でも、多分、社員からはただの老害が前に言ったことを忘れて違うことを言い出してやがるくらいに解釈されてるんだろうけど(笑)

でも、芳賀さんはそのお姿だから、殿様みたいなことを言っても受け入れられやすい気がしますね。私なんかは、そうはならないから、男っぽい感じにはしないようにしてます。ただ、「これがゴール」というのは言わない感じにしていきたいですね。お前たちが決めるんだよ、と。で、僕は永遠にお前たちにストレスを与えるからね、みたいな。そして、だんだんと嫌われていく(笑)

芳賀 でも実際に嫌われてはないですよね。

広報 多分、社長のことを100パーセント好きな人はこの会社にはいないと思います。でも反対に100パーセント嫌いな人もいないと思うんですよ。この部分はどうかと思うんだけど、この部分はすごい好きみたいな社員が集まってると思ってますね。

芳賀 それってすごい理想的じゃないですか。愚痴を言いたくなる社長くらいがいいんですよ。愚痴ってパーキングロットみたいなものですし。仕事はどうしてもストレスがたまりますから。愚痴を言うなかで、自分自身のダメなところも見えてくるし、色々と消化されてバランスが取れてく。100パーセント社長に心酔してる人が集まってる企業って、ある意味ではガスの逃げ場がないわけで、危ないと思いますしね。

齋藤 とはいえね、IT業界は人手不足だから、ちょっとでもプログラムかけたりすると余所からの引き抜きがすごいんですよ。なので、もうちょっと社員に対して太鼓持ちして、払えるものは払って、きちんと繋ぎ止めなきゃいけないって気持ちもあります。まあ、バランスですよね(笑)

 

うちには明らかに変な人まではいない。よく見たらモヒカン、よく見たら金髪くらいまで

芳賀 僕はIT業界に明るくないんですけど、IT企業におけるいい人材というのはどういう人なんでしょう。齋藤さんとしては、やっぱり職人的な人材が好ましいんですか?

齋藤 技術的に職人のレベルまで達しているという話と、ビジネスとして儲けられるみたいな話とが、うちの企業がやっているレイヤーくらいだと、ちょっとズレてくるんです。本格的に職人じゃなくても、ビジネスモデルさえ作っちゃえば食えちゃう。逆にいうと、職人になっちゃうことで食えなくなっちゃうみたいな話もあり、そうなると複雑だったりしますよね。

だから、僕としては若い人の職人を目指している熱い感じに乗っかったり理解したりしているフリをしつつ、ある程度、平凡な仕事を投げていくことで食わせてあげている感じ。そういうのが複雑に存在する気がしますね。ただ、芳賀さんが言うように、根本的にはみんながプロ意識を持った方が幸せになれるようには思いますけどね。

芳賀 そう思われてらっしゃる、と。

齋藤 企業向けのITをやってると、ある程度、心配性な人間の方が重宝されるんですよ。成功するより失敗を恐れるタイプの方が。企業のシステムをめったやたらにはいじれないですし。そっちの方がビジネスにはなりやすい。まあ、そんな感じだけでやってくと特徴のない会社になっていっちゃうんですが、ある意味、特徴のない会社というのが、求められている企業の姿であったりもするから。

だから、そうした地味なことをしつつ、一方で社長がエロ本に出資したりしてるよね、みたいなことでバランスをとってる感じです。できれば多様な感じにしていきたいんだけど、まあどっちの視点からも中途半端な感じですよ(笑)

芳賀 さっき20年以上、真面目なサラリーマンをやられてたと話されてましたよね。その時代に日本企業に対する問題意識などを感じられてたんです?

齋藤 感じてたんだと思います。だからカウンターなことをしたかったわけですけど、今はどちらかというと、真面目な中でちょっととんがってるくらいがいいのかなと思ってますね。サラリーマン時代もそうだったんですよ。真面目にやってて、大きな文句を言えたりはしないんだけど、ちょっとだけとんがってる。ソノリテも基本的には真面目なBtoBのビジネスモデルの中で、ちょっと変わったことをしている。若い頃は、保守的な日本の作法みたいなものをどう壊すか、みたいな意識はあったけど、今はその中でどういいものを作って、買っていただくか、と考えているくらいですね。根本的に何かを変えてやるとか、そういうのはないです。だから、ズルいっちゃズルい。真面目な進学校の中で不良をやってる感じ。本気で戦いにはいってない。そんな小さい感じ。

芳賀 インタビューで半生を語られてましたが、でも、生き方としてはずっとそういうスタンスを取られてきた感じありますよね。重要なのは、どうやってそこを生き抜いていくか、というか、どう知恵を使って、その場でポジションを取っていくか、というか。

 

 

齋藤 そうかもしれない。

芳賀 生き抜くために、常に少し異物でい続けている感じですよね。

齋藤 まあ、小器用なところはあると思うんで、ちょっとふざけていたい、みたいな感じですね。それに「変わってる」と言われたいみたいなところも多少はあるんで。でも本当には踏ん切れないですけど。

芳賀 あ、そういう願望はあるんですね? それはマーケティングとしてではなく個人的な願望としてです?

齋藤 願望が先ですね。そういう願望があるから、マーケティングもそっちに寄せてった方がいいかなってくらいです。まあ、でも「ちょっと」なんです。たとえば働き方改革みたいなことに関して、どこの企業からも大体同じようなソリューションが出てくるわけです。ただ、うちはちょっとだけ変わったことをする(http://sonorite.co.jp/workstyle/)。それが、それを面白いと思ってくれるイノベーターに刺さったりする。こういう風な連鎖の中で、徐々にカラーができていってる感じです。

芳賀 その「ちょっと」のさじ加減が大事なんでしょうね。完全に「変わってる」と逆に既存の企業とは繋がりづらくなってしまうし。

齋藤 そうですね。たとえばうちには本当にこういう長いヒゲを生やした人はいないんです(同席していた編集の辻を指して)。いろんな人はいるけど、こういう明らかに変な人まではいない。よく見たらモヒカン、よく見たら金髪くらいまで。本当の意味では変わってない。ちょっとくらい。それがうちの色じゃないですかね。

 

ドラクエのHPとかMPみたいに上限値があるという発想をやめたほうがいい

芳賀 そう言えばスタッフは何名くらいいるんです?

齋藤 50名くらいですね。

芳賀 僕も50人ほどの大所帯を昔、九州で会社をやっていた時に一度経験してるんですけど、人数がバンと増えていくと、のしかかっていくものも大きいじゃないですか。その人の人生というか家族さんの人生というか、重たいものを背負うことになり、ただそこに楽しさがあったりもするじゃないですか。僕の場合はその楽しさがあって生きてこれたところがあるけど、齋藤さんはどうなのかなと。

齋藤 ああ、僕も多分、その楽しさが好きなんだと思いますね。

芳賀 やっぱ責任があるからこそ「ちゃんとしなきゃ」となれる、みたいな。

齋藤 自分の勉強にもなりますしね。会社の社長になって3年目くらいに社員が一人自殺したんですよ。あれが一番大きかったかな。背負うということを考えさせられた。その社員の親は、やっぱり会社のせいだって思うんですよね。僕も、その時は、ああ、これはダメだと思って。あの時の経験は大きかった。結果として、遺書があって、遺書には会社のせいとは書いていなくて、でも書いてなくても会社のせいかもしれないじゃないですか。死ぬ一週間前くらいにそいつと飲んでて、その時は全然そんな感じじゃなかったんですけど…。あの時、自分の気持ちもとてもつらくて、でも、その時に僕を支えてくれた人たちがいて。あれ以上のことはもうないと思うんでね、やってられる。ただ、そんなことがあっても、自分の人生は好きですけどね。それは代表をやってたからだろうし、背負えば背負うほど、そう思えるような気もしますけど。

 

 

芳賀 僕の場合、21歳で社長に就任したんですけど、その直後に父が鬱を発症したんです。それは完全に会社プラス僕のせいだなって感じました。まあ、家に帰っても父が震えながら「死ぬしかない」って言ってて、そういう状況で。まあ今も生きてて一緒に暮らしてるんですけど、やっぱり法人の狂気っていうんですか。それは人を殺しうるものだし。いわゆる上に立つものの選択一つで何人も生かせるし殺すこともできる。それが日々続いていく。それはとても重いことで、最初のうちはしんどかったんです。齋藤さんはスタートラインからそういうプレッシャーをパワーに変えれましたか?

齋藤 ああ、どうなんだろうな。うーん、僕の場合はスタートラインからだった気がする。何かがあって考え方が変わったっていう自覚はないんです。僕、六星占星術とかで占っても大将気質らしいし、男三兄弟の長男だったりもするし、元からそういう、なんていうかお山の大将になりたいタイプでもあるから、自分の中では連続性がある。ある意味では単純にまっすぐ育っていっただけなのかもしれないけど。

芳賀 無理してる感じしないですもんね。とてもナチュラルというか。

齋藤 それはね、意識してるんです。30代後半くらいの頃までは、理想の自分みたいなのがあって、ちょっとした完璧主義みたいな、自分は何歳でこうして、こういう役職について、みたいな、そういう呪縛に絡め取られていたんで。あと、これはいまだにそうだけど僕には男がみんな敵に見えるんで、横で成功してるやつがいたら、「あいつより俺の方が」みたいになるみたいな、30代後半くらいまではそんな感じで。それでちょっとストレスがあって、身体症状に現れて、一時は声が出なくなったりして、それでちょっと変われましたね。そこからはいかに自分を許していくのか、みたいな感じになりました。結果として、そこから多少、コミュニケーションのスタイルも変わっていったんです。ちゃんと寝るようになったし。

芳賀 なるほど。齋藤さんにとって男性は敵なんですね(笑)

齋藤 そうですね。僕は親友はいないって思ってます。ていうか、作れないんですけど。

芳賀 基本的には知り合い、みたいな。

齋藤 そう、話の合う知り合い、みたいな感じでしかない。悩みを打ち明けるみたいなのはないですね。

芳賀 それは僕もないですね。

齋藤  そういうことを望んでない感じがしますね。

芳賀 インタビュー読んだ印象として、そうは言いつつ根底で齋藤さんは人が好きなんだなって思ってますけどね。もちろん、僕にも根底では人を信用してないというところがあるんですけど。小さい頃から会社を見てて、経営者である親の前ではいい顔するけど、親がいなくなった瞬間に親を侮蔑する従業員とかも見てきましたし。大人って汚いなみたいな思いはあったにはあったんですが。

齋藤 そうですね、人間が好きっちゃ好きなんだけど、ただ、労働法とかさ、限界を感じません? ある意味、好きだからこそ、本当はものすごい説教とかしたいんだけど、それ今やったらダメですよね。なんだったら殴りたいくらいの思いはあるけど、そんなことしちゃダメってことになってる。なんでそれがダメなのか、基本的にはよく分からないんですけどね。あとで訴えられるなら、それならそれでいいよとも思っちゃうんだけど。

芳賀 齋藤さんが一番、社員に対して憤るのはどのへんなんです?

齋藤 こんなんでいいでしょ、みたいな感じですよね。結果と狙いは違うと思ってて、たとえば大きく狙っていった先で、結果として大衆に迎合した薄いものを作るのはいいと思うけど、それを狙ってやるのは違うと思うというかさ。そういうのっていかがかなと思いますよね。

広報 みんな情熱の配分をしちゃうんじゃないですかね。

齋藤 そういうの……クソですよね。

芳賀 情熱は常に100%でありたいとこですね。

齋藤 ドラクエのHPとかMPの上限値みたいに、みんなすぐにもうエネルギーがなくなっちゃったとか言うでしょ。そもそも、そんな上限があるっていう発想をやめたほうがいい気がする。一日だって24時間で計算する必要ないし。実際、24時間以上あるでしょ。そう思ってきましたけどね。

芳賀 ありますよね(笑)

齋藤 8時間寝れなかったから疲れるとかさ、自分で決めてるだけじゃん、みたいな。「寝なきゃ」みたいな思い込みがあって、その「寝なきゃ」で頭がおかしくなっちゃうみたいな。

芳賀 体は勝手に寝ますから、寝なくても。

齋藤 寝ますよね。それなのに、すぐ配分を考える。自分でセーブしちゃう。まあ、本当に頭がよろしいんですねって思っちゃいますよ。

芳賀 ああ、今みたいな言い方されると下としてはうわーってなるね(笑)

広報 (苦笑)

齋藤 そう、そういうことをすぐ言っちゃう(笑)

芳賀 でも、トップと部下の熱ってやっぱり違うじゃないですか。トップはその仕事に対する当事者意識がもちろん高いわけだけど、どうしても下になるほどその当事者意識を持ちづらい。やっぱり当事者意識がないと、そこそこのものしか作れない。その点、社内での士気の高め方とか、当事者意識を持ってもらうための盛り上げ方とかって意識されたりしてます?

齋藤 うーん、僕、逆のことも思ってはいて、結局、最終的にプロダクトにしなきゃいけないわけだから、どこかで仕事だと割り切ってやってもらえる人達に脇を固めてもらう必要もあって、そういう面倒臭いことをやってくれる人たちがいるから、仕事が回っていくところも実際あるんですよね。でも、やっぱりそっちが強くなっちゃうと、全体的に何の魅力もないものになってしまう。納期までに納めました、それだけ、みたいな。うちは大企業からの受注仕事が多いから、発注者も上司に言われて作れって言われてるだけだったりもして、お互いに怒られない程度に流していけば、お金は発生するんです。

だから、その一方で、自分たちが本当にいいと思うようなソフトウェアを作って、そういうのを出していこうという流れも作ってはいて。ただ、そうは言っても、自分ちは怒られないようなものを作ることに慣れてる。だから、自分の作ったものの質に自ら責任を引き受けていくような仕事ができるよう、育てていきたいですよね。まあ、全員が一気にそのモチベーションになることはないと思うし、組織としてもそれは変だろうし、まあ志が近い人間を何人かピックアップして、別格の扱いをして、そこから花開いてくれればいいなと思いますね。そんな感じです。

芳賀 ガーター出版というプロジェクトも動かされてますよね。漫画の『コブラ』のカードゲームを出されたりしてる。

 

 

齋藤 あれはね、元出版社にいた社員が動かしてるプロジェクトで、まあ好きにやってるなって感じです。でも、そういうのがあった方が絶対に面白いじゃないですか。

 

「この会社は皆さんのための会社です」みたいな気持ちは一切ない

芳賀 ちなみに齋藤さんは芳賀書店にいらしたことは?

齋藤 芳賀書店さんはないんですよ。ただ、神保町に住んでたことはあって。なんかね、怖いんですよね。僕の購入ログが残ってたりしちゃうことが。さかのぼられて性癖を知られたりしちゃったりしたらまずいな、と。

芳賀 そんな知られたらまずい性癖なんですか(笑)

齋藤 いや、そんなこともないんですけど。

芳賀 まあ、ただ確かにどんな性癖であれバレるって怖いことですよね。買いに来てくれるお客様はみんなそうです。たとえばその性癖が緊縛とかだったりしたら、今はかなりプレイとしても認知されてて、それが好きってバレても問題ない感じある。でも覗きだったりが好きとかになってくるとそうはいかない。そもそも被害者のいるイリーガルな行為ですしね。

齋藤 ですよね。

芳賀 でもその欲望があることそれ自体はしょうがないところがある。僕はセクシャリティに関するカウンセリングもやってるんですが、話を聞いてみると、人の性癖は10歳から15歳くらいまでの間に形成されやすい。覗き趣味とかもかなり早い段階で形成されてる。田代まさしさんもそうですよね。だから、簡単には変えることができない。

齋藤 へえ、子供の頃の経験によって決まるんですね。

芳賀 そういうケースが多いと思います。すると、その欲望をどこで発散するか、どこで合意を得るか、被害者を作らずにいかにその欲望を実現するか、という話になる。これは難しい部分なんですけど。

齋藤 たとえば小児性愛とかは一発アウトですよね。アウトなのは当然だししょうがない。ただ、そういう欲望を持った人をそれだけでみんなでリンチするのは違うと思うんです。あまりに不寛容というかね。一応、エロ本に出資したのも、ある意味ではそういう不寛容さに抗いたいところもあったりしたんです。普通、こういう会社の社長はエロ本に出資しないじゃないですか。でも、別に社長がエロ本に出資するくらいいいじゃん、みたいな。まあ僕はそれくらいのことしかできないんだけど、やっぱり不寛容すぎるとつまらない気がするから。人間そんな簡単なものじゃないじゃないですか。もっと複雑だし。いちいち良いとか悪いとか決めんなよ、みたいな思いもあり。そういう思いをできる範囲でやろうと思うと、エロ本に出資するくらいになっちゃうわけなんだけど。ていうか、こんな話ばっかでいいんですかね(笑)

芳賀 いやいや、非常に勉強になりますよ(笑)

齋藤 勉強なんてそんないいもんじゃないですよ、適当です。

芳賀 必ず自虐されますよね。

齋藤 あ、そうかもしれない。

芳賀 それもなんか戦略なんですけね。

齋藤 戦略かもしれないです。あれ嫌なんですよ。自分の会社を自信満々に紹介している社長みたいな人。ああいうの見ると照れません?

芳賀 最先端やってます、みたいな感じですよね。そういう人を見ると、いつかM&Aするんだろうなって思っちゃいます(笑)

齋藤 そう振舞うことで会社の市場価値を高めるのが社長の仕事なのかもしれないし、それができないというのが自分の垢抜けなさでもあるのかもしれないけど。

芳賀 インタビューでもあえて意識高い系にならないようにしているというか。その手のスタートアップ系の人たちのように見られないようにしてる感じがしたんです。ただ一方でナチュラルさも感じていて、あれ、これは計算というわけでもないのかな、とも思ったり。

齋藤 多分、ナチュラルでいた方いいんじゃないかという計算があるんだと思います。さっきも話した通り、30歳後半くらいまでは、非常に意識が高い、スーパーエリートみたいな方向で自分を考えてましたから。でも、ある種の意識の高さ、思い込みの激しさというのは、無理やり感があるんです。なりたい自分が先にあり、それに自分を合わせていこうというのが見て取れる人っているじゃないですか。それって可哀想だなって思います。お前、それじゃなきゃだめ? みたいな。その憧れ、ちょっと大きすぎない? みたいな。

だからこの会社を再生するために社長になったときは会社を立て直すってことを目的に設定したんですよ。自分がどうこうじゃなくって。そうすると、色々と外せるものって多い気がします。

芳賀 余計なものを外していくことって大事ですよね。

齋藤 無駄な力みとかね。とはいえ、逆に最初から外しているというのも違う気がしていて。僕はかつてギューって力んでいて、そこで得たものが大きい気がするんですよ。で、そこから外すことに意味がある気がする。そうじゃない、最初から何にもストレスがない、みたいな人にはね、もうちょっと病んでから来いよ、みたいな気持ちもあって。そういう人を見るとイライラして与えなくていいストレスを与えちゃう。やっぱり一旦、ギューってなっておかないと、味がしないじゃないですか。そういうのを通り越してきて、今ようやく丸みを帯びてきているみたいな。

芳賀 君、ぼーっと歩いてるだけじゃん、みたいな(笑)。ちゃんと走ろうよ、みたいな。僕自身が頭でっかちな人間だったので、自分で動かずに頭でっかちになってる人を見ると、うーん、みたいな感じにはなりますね。動いて、失敗して、痛い目を見ないと、ただただ自分が是であり続けちゃいますから。

では最後の質問になるんですが、この先、齋藤さんとしては、この企業をどうしていきたいですか?

齋藤 僕には「この会社は皆さんのための会社です」みたいな気持ちは一切ないんですよ。個人的な快楽として、「あ、なんかやられたなー」、「あそこの会社って変わってるなー」みたいな、そういう風に思われたいというのがありますね。変わってるってというか、あれですね、理想としては「頭いいなー」みたいに思われたい。大喜利でうまいこと言ってる奴、みたいな、ああいう感じの個性というか、そういう色の会社になっていったらいいなと思ってます。そういうのが好きな集団というか、まあ僕がだんだん頭が動かなくなっていっても勝手にそんな感じで動いていく会社になっていけばいいな、と思いますね。

あと、いい感じに綺麗なまとめを思いついたんで言いますけど、うちの社名である「ソノリテ」はフランス語で「共鳴」という意味なんですね。そういう「してやったり」感が好きな人たちがうちに集まって、その人たちが共鳴しあって、また新しい「してやったり」を生み出していけるような、そういう会社になればいいなって思う。僕がこの会社の社長になって9年くらいは、そんな感じで成長してるんでね、今後もそうあり続けられるように妥協せず、みんなにストレスを与えていきたいですね(笑)

 

 

 

 

〈MULTIVERSE〉

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PROFILE

芳賀英紀 はが・ひでのり/1981年生まれ、東京都出身。神保町の老舗書店「芳賀書店」の三代目として21歳の時に社長に就任。エロスの求道者としてSEXアドバイザー、SEXコンシェルジュとしての活動も行う。