logoimage

石丸元章 『危ない平成史』 #06 「お前こそが全ての元凶だ!!」──ゴンゾな親父とヒップな息子の平成ドグラマグラ|GUEST|MCハピネス

GONZO作家・石丸元章が異形の客人と共に平成の「危ない」歴史を語り合う。今回のテーマは平成の“父子”。ゲストは弱冠13歳、若きラップスターにして石丸元章のひとり息子であるMCハピネス。


 

石丸 まず最初にあなたに言っておきたい。今日は、どんな嘘もついていいから。というか、子供は親に嘘をつく自由があるんだね。よく「ママだけには嘘をつかないで」とか言う親もいるんだけど、自分は、まったくそう思わないから。親ってさ、知ってると思うけど一番嘘をついていい相手なわけ。どんな嘘でも赦す、それが親だから。他の人は赦してくれないよ。それにさ、誰でも人は、他ならぬ自分の幼少時代について、好きに虚構を作り出して話していい権利があるんだよ。仮にすごく恵まれた環境に育ったとしても、「俺はスラムで育ったんだ」と言いたければ言っていいし、そう思い込んでもいい。その逆でもいい。自由なんだ。幼少時代の物語は、親の物でも家族の物でもなくて、実際の出来事の奴隷でもなくて、自分自身の物だから。さらに言うと……

ハピネス いや、話が長いから。またずっと一人で喋ってる。

 

 

石丸 ………ああ、ごめん。

 


 

平成前期のアンダーグラウンドに異形の花を咲かせたバッドテイスト・カルチャー。その立役者のひとりであるGONZO作家・石丸元章が、毎回、ひと癖もふた癖もある客人を招いて、過ぎ去りし平成の「危ない歴史」を振り返る当シリーズ。

今回のゲストはレベゼン千葉市、「豚のあぶらブシャー」をはじめ唯一無比の言語感覚からなる強烈なパンチラインを量産している弱冠13歳の次世代ラッパー・MCハピネスだ。実はハピネス、当コーナーのホスト・石丸元章の愛息でもある。かつては石丸と共に父子二人で暮らしていたものの、危険ドラッグのODにより石丸が強制入院したことを機に別離。以来、祖父、祖母と暮らしながらラップとカードゲームと少しのお勉強に明け暮れる日々を過ごしている。

平成においては後半の十数年しか生きていないとはいえ、そのフレッシュなまなざしがいかに「平成」という時代を切り取るのか、気になるってもんじゃないか。公立中学校がお休みのとある日曜日、定番デートスポットである錦糸町の立ち飲み屋「丸源」で会合中の二人のもとを訪ねた。

 


 

『豚のあぶら』MCハピネス(2017)

 

13歳のための天皇論

石丸 まあさ、今日は君が私のインタビューシリーズのゲストなわけだ。編集長の要望です。ギャラも出ます。よろしくお願いします。で、このシリーズは「平成って、どんな時代だったんだろう」てことをゲストと考えるという企画なんだけど……、そもそも、君、平成何年生まれだっけ?

ハピネス 平成……何年だろ。

石丸 そこがもう出てこないのか。わたくしなんかは昭和何年生まれってすぐに出てくる。子供の頃はむしろ西暦なんて出てこなかった、使わないから。

ハピネス うーん、わかんないや。

石丸 じゃあ西暦だと?

ハピネス 2006年。

石丸 即答。やっぱり元号って概念が希薄なんだねえ。自分も君の生まれを元号ではわからないもの。役所の書類くらいでしか生活の中では使わない。でも、平成がこの前に終わったってのはニュースとかで見てたでしょ。

ハピネス まあ。

石丸 平成とか令和とか、元号ってものはどういうものだっていう感覚になってるの、君の中で。

ハピネス ただの名前って感じ。それが変わったから何かが変わるってわけじゃないし。別に天皇が変わったからって、何かが変わったって感じしないし。

石丸 そんなもんか。

ハピネス そんなもん。

石丸 俺くらいの年齢の人間にとっては、やっぱり元号が変わるのは大きいんだよ。君はさ、5歳くらいの時に天皇って存在を知ったわけ。保育園から帰ってきて、「パパ、天皇陛下ってエラいの?」って聞いてきた。え! と思ってね。エラいっていうかエラくないっていうか、そういうんじゃなくて、そもそも天皇は人じゃなくて“存在”だから、みたいなことを戸山公園で自電車乗りながら話したんだけど……、覚えてる?

ハピネス いや、分かりにくいし。もう少し小さい子に対して分かりやすい言い方があるじゃん、普通。

石丸 だって、誰々さんという人というよりも、本当に象徴なんだもん。安倍総理とどっちが偉い? と聞かれて、そういうベクトルじゃないんだ、とも説明した。

ハピネス いや、そうだけどさ、天皇を理解してない子供に対して「象徴」って言ったって分かるわけないじゃん。

石丸 で、今は中2になったわけだけど、今上天皇の印象はどうよ。今の天皇のことを“きんじょう天皇”とか“いまうえ”とか言うんだけど。

ハピネス へえ、そうなんだ。印象……、うーん、いや、まぁ、別に……なんでもいいと思うよ。

石丸 うむ、それでいい。前にもアドバイスしたけど、天皇陛下については軽々しくその評価を口にするもんじゃない。天皇天皇と軽々しく口にしていると、馬鹿だと思われたり、逮捕されたり、殺されたりするかもしれない。それが天皇だ。

ハピネス なんとな~く、そんなこと言われてたの覚えてる。

石丸 ま、そんなわけで平成について話しましょう。とはいえ、君は昭和を知らないわけだ。平成しか生きてないから他の時代と比較しようもない。

ハピネス まあ、そうだね。

石丸 ほんのちょっと前までは、君はわたくしのチンポの汁、いわゆる精子だったんだから。

ハピネス ゲラゲラゲラ!

石丸 最近さ、君、うちに遊びにきて、ゴミ箱の丸めたティッシュを見つけて「汚いなあ」と文句をつけてくるけれど、あれ君の弟なんだよ……こういうノリ、ダメ?

ハピネス いや、いいと思うよ、まぁ。

石丸 なんかこんな会話を記事にしたらバッシングを受ける気がしてきた。

ハピネス そうかな、普通だよ。

 

父と貧困

石丸 まあ、今までハピネスは13年間、平成という時代を生きてきたわけだ。その中で、自分はどんな時代を生きてきた──という感じがする?

ハピネス ん~、時代かぁ……。かなり日本が、経済がいい感じの時に生まれてきて、日本のことを誇りに思っていたりもしてて、いい感じの時代だなと思うよ。

石丸 え、誰が、日本に誇りを持ってんの?

ハピネス 日本の国民が。

石丸 へぇ、なるほど。日本をいいと思うんだ?

ハピネス いいと思う。

石丸 そもそも経済がいいって言うけどさ、今は日本の経済は君にはよく見えるの?

ハピネス うん、いいと思うけど。

石丸 まあ……、俺と暮らしてないからなあ。俺と暮らしてたら「経済がいい」なんて言葉は間違っても出てこない。

ハピネス ゲラゲラゲラ!

石丸 ハピネスは、おじいちゃんの家で、おじいちゃんの年金で暮らしてんだから。おじいちゃんの年金は厚生年金といって多いんだよ。会社に勤めてた人は、辞めた後もお金を得られてね、ようは経済が良かった昭和の時代の余韻で、生きてるだけで黒字経営なの。株も土地も持ってる。でも、実はパパが仕事を始めた80年代に比べると、日本の今の経済なんてドン底くらいに悪いんだよ。格差といってね、貧乏人と金持ちの差がすんごい開いた。

ハピネス へぇ……。パパはどっちなの?

石丸 貧乏に決まってるでしょ!

ハピネス ゲラゲラゲラ!

石丸 でも、自分のこととしては実感ないんだ?

ハピネス あんまりない。物も服も買ってもらってるし、卓球のラケットも買ってもらったし。

石丸 それはよかったね。俺と暮らしてたら無理だから、それ。

ハピネス 絶対に暮らしたくない。それに昔は骨付きカルビを食べに行ってたのに、今はもつ焼きばっかだし。牛肉じゃなく豚肉だし。

石丸 豚には豚のおいしさがあるんだよ。上野の大統領のもつ煮うまいだろう。

ハピネス おいしいね。

石丸 あれなんか馬の腸だぞ。馬糞の匂いが食をそそるんだね。草しか食わせないから、馬糞は干し草のいい匂いがする。

ハピネス いちいち説明が長いんだよ。

石丸 ごめん。でも君さ、パパが丸亀製麺とかマクドナルドのアプリをスマホに入れてると、昔のパパはそんなんじゃなかったのにな、とかシラケた顔で言って馬鹿にするけどさ、アプリを駆使してクーポンを手に入れた方が、はるかにお得なんだよ。

ハピネス なんか昔と変わったよね。せこいな~って思う。

石丸 ちっがう。これこそ令和において「頭がいい」ってことなんだよ。アプリとかクーポンとかポイントをうまく使っている方が、若い女の子にモテるんだから。

ハピネス だって、昔はクーポンとかもらっても「しょーもね」とか言って捨ててたじゃん。そういうイメージが強い。

石丸 その頃はお金あったから。それ以前に、世間を知らなかったし。貧乏ってのは、人を変えるんだね。よく見とくといいよ。

 

平成を象徴する大事件

石丸 平成に話を戻そう── ハピネスの13年の中で一番印象に残ってるニュースは? 社会で起こったこと全般、なんでもいいよ。

ハピネス う~ん……ニュース? 難しいなぁ……。

石丸 あ、オウム事件とかどうだ?

ハピネス それ古いよ。僕、生まれてないし。

石丸 でも「パパ、オウム真理教って知ってる?」と小学校の時尋ねてきて、オウムの歌を教えてあげたじゃない。覚えてる?

ハピネス 覚えてるよ。その時、不謹慎って言葉も知らなかったからさ。だから学校とかで歌いまくってて、「しょーこーしょーこー」って。そしたらみんなも真似して一緒に歌い出して……

石丸 怒られた?

ハピネス その歌はやめろ! みたいに注意はされた、先生に。

石丸 そりゃそうだよ。だから「学校では歌うんじゃない」って教えたじゃん。「♪わたしはやってない~潔白だ~」も、あれはやってる人の歌だから、歌っちゃだめだよ。まあ、オウムの話はいいとしてさ、自分が生まれてからのニュースでなんかインパクトが強かったのってないの? それが君にとっての平成なんだから。

ハピネス 色々あった気はするけど、あんま覚えてないなぁ。

石丸 殺人事件とかさ、色々あるじゃないの。

ハピネス 殺人事件はあんまし……あ、SMAP解散とか。

石丸 うはははは。SMAP解散してどう思ったのよ?

ハピネス CD買ったところで別にどうなるってわけじゃないのにファンの人たちがCD大量に買ったりしてて、変なのって思ってた。

石丸 でも君から見たらSMAPておじさんでしょ? なんか思うの、解散したところで。

ハピネス まあ、でも生きてる中でテレビ見てきて、大御所っていうか、そういう感じはしてたから、驚きはあったかな。

石丸 一つの時代の終わり、みたいな?

ハピネス 別にそんなでもないけど。

石丸 そんなでもないのね。

 

祖父と洗剤

石丸 最近、おじいちゃんとはどうよ、仲良くやってんですか。

ハピネス いやぁ~、今日の朝も寝てたんだけどすごい早い時間からテレビつけてて、おじいちゃんが。50とかの最大音量で。うるせえ~って思って。

石丸 まあ虐待の一種だな。

ハピネス そしたらおじいちゃんが今度は「起きろ起きろ」みたいに呪文みたいに言い始めて。怖いなこの人って思った。

石丸 ふふふふふ。よ~くわかるよ、なんたって俺の父親だから。昭和から平成を経て令和になっても、ずっーと同じことやってんだなって感じ。昭和の子育ての感覚って、今とは違ったんだよ。親が子供を脅したり、支配したり、今では許されない関係を平気で強いてたから。おじいちゃんはもう80歳でしょ? もはや虐待とかネグレクトとか概念として分からないし、ついでにセクハラやパワハラも感覚的につかめない。でも、悪気はないんだよ。頑張れよ、俺も耐えたんだから。

ハピネス えぇ〜……

石丸 まあ、優しくしてあげてよ。もうすぐ死ぬし。たまに飲み水に洗剤を混ぜたりしてさ。

ハピネス それはダメだよ! ゲラゲラゲラゲラゲラ!

石丸 言うなよ。パパは3歳か4歳の時、台所のたらいの洗剤の水をコップに入れて渡したことがある。

ハピネス ええ、それでもし死んじゃったらどうなっちゃうの?

石丸 おいしいと言って飲んでたよ。

ハピネス バレたら大変だよ。バレたら遺産とかもらえない。

石丸 何言ってるんだよ、バレたら少年院だよ。でも台所の洗剤じゃ死なないね。農薬はダメだけど。

※洗剤も農薬もダメです。

ハピネス ひどいなあ。

石丸 まあ、俺たち二人は、おじいちゃんという共通の敵を持ってるってのが、グッドな親子関係なんだよ。今って、友達みたいな親子って多いんでしょ。母親と娘が名前で呼び合ってたり。別にそれがいいって思ったこともないんだけど、自分もなんかそうなっちゃうんだよね。なんでこうなっちゃうんだろ。君もわたしのこと親って感じしないでしょ?

ハピネス お父さんって感じはしないなあ。

石丸 あ、こういうところとかはどんな嘘ついてもいいから。インタビューてそういうもんだし。自分も適当についてるから。

ハピネス ん~、なんだろうなぁ。

石丸 ユーはあれか、アイ・ラブ・パパか。

ハピネス いや、それではない。

石丸 なんかあるでしょ、尊敬とか、好きとか、ありがとうとか。

ハピネス 尊敬はない。まったくない。

石丸 ラッパーてよく言ってるじゃん、「親に感謝」とか。

 

 

ハピネス 僕しないし、感謝系ラップ。

石丸 ま、俺みたいになるなよ。

ハピネス うん、なりたくない。

石丸 あれだな、友情みたいな感じだな。

ハピネス いや、友情もない。

石丸 自分の感覚だとさ、Kちゃんママがいなくなった時がしんどかったわけだ。3歳の君もしんどかったはずなんだ。だからわたくしと君とは共につらい戦いを生き抜いた戦友って感じだな。

ハピネス いや、その戦いってパパが勝手に引き起こしただけだし。戦友とか都合いいよ。だから……元凶かな。全ての元凶。

石丸 ごめんねぇ。

ハピネス 自分で戦友とかうまいこと言ってるけど、全て引き起こしたのはパパだからね。

石丸 ごめんねぇ。ママがいなくなって何日かして3歳の君に「ママどこ行ったの?」って、保育園の帰りに聞かれたんだよ。その時、「ママは星になったんだ。ほら見上げてごらん、あの星がママだよ」って夜空を指さしたらーー「でも、それって、それって、それって、死んだってことじゃない~っ!!」って大号泣してたからね、君。

ハピネス そりゃそうでしょ。

石丸 ごめんね。ツイッターで見るかぎりママはコミケでてたり、スナックやってたり大人気みたいよ。

ハピネス 僕は避けられてるから。

石丸 うーん…。ママもメンヘラなとこあるからなあ。どう思いますか。

ハピネス 悲しいよ。パパはメンヘラが好きすぎなんだよ。

石丸 でもこの話はとっても小説向きかもよ。キミにプレゼントするから書きなよ。

ハピネス なにを?

石丸 小説を。

ハピネス ああ。でも、そんなことになったのも元凶はパパだからね。

石丸 ごめんねぇ~。ほんとに申し訳ない。ママは君のことが大好きだったわけ。優しくて、かわいくて。それをパパが無理やり追い出しちゃった。ごめんねぇ~。あれか……いま君は不幸ですか、日々を生きるのがつらいですか。

ハピネス まあ、別に、楽しいけどさ。

 

父なのに「お前」

石丸 そうだ、ちゃんと13年間という、君が生きてきた平成という時代の話しないと。それが仕事だよ。世間話してるわけにはいかないんだよ。今日のギャラは折半だから。で、君は今13でしょ?  13の少年の視点から見た日本の問題って何よ。世界でもいいけど。

ハピネス ん〜……まあ、あれだよね、問題点とかは、あんま知らないけど、新しいことに対しての対応? というか接し方? というかが混乱してんじゃないかな。新しく生まれてくるテクノロジーとかとの関係性とかが、いま、世界では探されてるんじゃないのかな。

石丸 ほぉ、テクノロジーって何よ?

ハピネス スマホとか、それをどう私生活で使っていくか、みたいなのの良い方法をいま探してるんじゃないかなって。

石丸 現状は使いこなせてないんだ?

ハピネス ん~、スマホとかはできてるかもしれないけど、でももう少し色々あんじゃん。それに対する、なんか知識とか。どんなすごいテクノロジーも使えなかったらゴミだから。

石丸 よくわからないけど……、で、君にとって世界ってのは時間が経つにつれて、よくなってってんの? それとも悪くなってってんの?

ハピネス よくなってってると思う。

石丸 未来が明るくてよいねぇ。テレビとかでさ、昔の時代はこんなだったみたいな番組とかやってるじゃない? 80年代はバブルで凄かった、みたいなの。ああいう昔の時代より、今の方がいいと思うわけ?

ハピネス うん。

石丸 どういう点でそう思えるの?

ハピネス ん~、僕は今の暮らしに満足してるから。

石丸 ブッハ~!

ハピネス なんか昔の、いちいち物を買うにもどっか行かなきゃいけなくて、スマホもなくて、パソコンもないって時代はちょっと考えられない。

 

 

石丸 君、ゲームはするんだっけ?

ハピネス するよ。

石丸 どんな?

ハピネス カードゲームだったり、スマホのゲームだったり。

石丸 あ、テレビゲームじゃないんだ?

ハピネス 違う。マインクラフトをパソコンでやったりはするけど。テレビのゲームは欲しいけど、カードゲームにお金使いすぎちゃったから。一週間とか二週間で20万円くらい使っちゃったから。

石丸 2週間で20万円て、どうしたのよ、そのお金!

ハピネス おじいちゃんの財布から取った。なんかおじいちゃんが不動産かなんかで使うためのお金だったみたいなんだけど、気づいたら20万円くらい使ってた。

石丸 だめじゃん、それ。でも、俺が勝ったな。俺が高校の時はおじいちゃんの財布から30万パクって、それでバイク買った。

ハピネス だめじゃん、それ!

石丸 そうだよ。パパはダメパパなんだよ。だから次から俺にも取り分を回してくださいね、ちょっと。

ハピネス ちがうよ。本来、お前が金持ってたら、俺がお前から取るんだよ!

石丸 ほんの冗談だよ……それにしても、ねぇ、なんで俺って、いっつも「お前」って呼ばれちゃうんだろ、子供に。キミのママからも、その前の奥さんからも、妹からも「お前」って呼ばれちゃうの。なんかわたくしの中に「お前」と呼ばせる軽薄さがあるのかな。

ハピネス 呼ばれるとどうなの?

石丸 んとね、しっくりくる。

ハピネス なんか「お前」だなぁ~って感じがするもん。

 

ルールは大事

石丸 学校はどうなのよ。楽しい?

ハピネス うん。

石丸 先生は?  校則とかあんじゃん。どうなの。この校則は納得いかねーな、とかないの?

ハピネス 校則は必要だと思うよ。

石丸 あらそう。なんで?

ハピネス ルールの範囲内で生きていけた方が楽だし。

石丸 へー。ルールがないと大変なのかな。

ハピネス うん。ルールがないとめんどくさいでしょ。変な人に絡まれたり。

石丸 そんなもんかね。

ハピネス うん、守る手段、自分を。相手が破ったら、自分も破るけど。

石丸 なるほどね。じゃあ、先生とかの話はちゃんと聞いてるんだ?

ハピネス いや……自分が有利になる時だけ聞いてる。

石丸 合理的だねぇ。

ハピネス 自分に関係ないような話はいちいち聞いてても仕方ないじゃん。誰かが何か問題を起こしました、とか。そういうの興味ない。

石丸 まあ、その都度うまくやってけばいいよ。わかんないけど。それと自分の心の中は別だから。愉快にやって。先生にもいろんな先生いると思うけど、味方もいるから。

ハピネス ああ。

石丸 じつはね、君の学校の先生からツイッターにDMきたりすんんだよ。「〇〇くんの味方です!」って。

ハピネス え、だれ?

石丸 わかんない、ツイッターだから。でも、パパのことが教員室で話題になったりしてるんだってね。やだなあ。でもしょうがないよね。先生ラブ。

ハピネス 違うし。なんか自分が売れてて有名みたいな言い方してるけど、そうじゃないから。おじいちゃんがわざわざ学校に行って、うちの息子はこういう本を出してるんですとかやってるんだよ。で、覚せい剤とかなんとかの変な本ばっかだから有名になっただけで、別にお前が有名なわけじゃないから。

石丸 はい、わかりました。

 

覚せい剤とかなんとかの変な本

 

ハピネス すぐ自分の都合のいいように話を変換するよね。

石丸 でも、おじいちゃんて、なんでそんなことしてるんだろう。

ハピネス よく分かんない。パパのこと嫌いなのか好きなのか。

石丸 人格障害だとは思うんだよね。戦前生まれの戦争体験者だから、一生涯心に傷が残るとんでもない体験をしてると思うんだよね。子供時代に戦争を経験するつらさは、俺たちにはわからない。だから、優しくしてあげてね。

 

中学生のセックス

石丸 まあでも、最近はセックスとか恋愛ばっかだろ、君の関心は。ニュースで不倫騒動とかを見てて何を思うのよ? 大人の恋愛。平成の初期は、恋愛もセックスももっと自由にできたんだよ。不倫で社会的に葬られることもなかった。今はでも、大変でしょう。

ハピネス 難しいなぁ。どうなんだろう。たとえば、僕が大人になって、結婚したりするとして、浮気とか不倫とかしたくなると思う。だから仕方ないっていうか。

石丸 理解があるねぇ。ちんぽの毛は生えてきてるんですか?

ハピネス ちょっとだけね。今はまだ1cmだけ。僕は下の方が成長遅くて。やっぱりパパが覚せい剤やってたから、そのせいでこうなってんじゃないかって思ってる。

石丸 違う違う違う違う!

ハピネス だから、ちょと毛が生えてきて安心した。友達にいじられるんだよね、チンコ小さいから。

石丸 大丈夫、そのうち大きくなるから、パパも大きいから。

ハピネス 小さいだろ!

石丸 君はピアスとかタトゥーとかはどうなの。興味はないの?

ハピネス ピアスとかタトゥーはね、あんまかっこよさが分からない。

石丸 でも、ラップやってるじゃん。ラップやってる人はタトゥー多いじゃん。漢さんとかD.Oさんとか。そうだ、ハピネスは漢さんのPVとかにも出てるでしょ。

 

 

ハピネス うん、漢さんはすごいよね。

石丸 でも自分は入れたくならないんだ?

ハピネス どうなのかなぁ。

石丸 言うこと聞かないと、寝ている間に刺青いれてやるからな。

ハピネス それだけはやめてよ。それに、まだ僕はドラッグも経験ないし、パパみたいに。

石丸 まだって。

ハピネス 色んなことしてみたい感じはあるけど。

石丸 ドラッグやると捕まっちゃうよ~。そのことは、また違うときに詳しく教えるよ。でもそれよか、県庁とか区役所に勤務して自己実現する方がクールかもしれませんよ。

ハピネス ん~。

石丸 友達とは何して遊ぶのよ。

ハピネス さっき言ったカードゲームとか。

石丸 話すことと言えば、やっぱりセックスの話か。

ハピネス そりゃするよ。この前も、いつくらいにセックスしたいか、みたいな議論になって。「今すぐやりたい」ってやつもいれば、「もう少し時間が経ってからがいい」ってやつもいて、僕は前まで「今すぐやりたい」派だったんだけど。

石丸 毛も生えてないのに。

ハピネス でも、考えてみると今ヤルとなると怖いなって思って。たとえば小学生のうちにヤルとなると、もう子供の遊びにしかならないでしょ。で、高校生でヤルとなると、それはちゃんとしたセックスでしょ。でも中学生ってその辺、一番中途半端だなって。小学生と違って生々しいけど、高校生みたいに一般的じゃない。だから中学生でヤルって難しいなって思って。

石丸 いや、ヤッた方がいいよ。それも年上のお姉さんと。なぜなら、相手にとっては犯罪。秘密めいたうしろめたい関係なんだから。

ハピネス いや、年上あんま好きじゃないし。できれば同い年がいい。

石丸 へぇ、タレントだったら誰がいいの?

ハピネス 僕と同じくらいのタレントってあんまいないし。

石丸 広瀬すずとか。

ハピネス それもう大人だし。

石丸 芦田愛菜は?

ハピネス ええ、なんかなぁ。小さい頃から歌って踊ってるのを見てきたから。誘われたらOKだけど。

石丸 そうなんだ。広瀬すずは?

ハピネス それしつこい。顔は好きだけど。

石丸 俺が好きなんだよ。男の子は?

ハピネス 男の子?

石丸 LGBTQとか色々あるでしょ。ユー、自由よ。

ハピネス ああ、友達にはバイセクシャルの子がいて、あいつならイケるよね、みたいな話してた。

石丸 へ~、いいね。お父さんはね、飲尿が好きなんだよ。

ハピネス うは~、最悪。変態じゃないのそれ。何がいいの?

石丸 あったかいじゃん。

ハピネス あったかいのがいいならお茶飲めばいいじゃん。

石丸 心の体温が伝わってくるんだよ。

 

胎児は虹色の夢を見る

石丸 今の大人に言いたいことはありますか。レペゼン子供として。

ハピネス う~ん、質問が広いよ。言いたいことねぇ……その、固定概念じゃないけどさ、色々と囚われすぎだと思う。たとえば、さっき話した浮気とか不倫とか、そういうのも、一夫多妻制みたいなのが受け入れられてる国もあるわけだし、なんか囚われすぎな気がする。

石丸 ポリアモリーだねぇ。

ハピネス うん。

石丸 パパなんかは、頭では今までの常識にこだわる必要ないって思ってても、感覚が昭和=平成の常識から抜けきらない。でも、君にとってルールは大事なんでしょう?

ハピネス そうだね。

石丸 なんかわたくしに対してはないですか、言いたいこと。

ハピネス えぇ~……、お金をください。

石丸 ごめんねぇ。

ハピネス いや、でもさ、一緒に住んでた頃に、僕におじいちゃんがくれてたお年玉とかさ、全部盗んでるでしょ、パパが。

石丸 そんなもの、子供時代のお年玉なんてねぇ。

ハピネス じゃあせめてさ、来年からお年玉だけでもくれない? 5000円とかでいいから。

石丸 仕事アレンジするからさ。で、ちゃんと売れてくれば、ギャラも上がるから。俺もラップ手伝うから。

ハピネス パパのラップは念仏じゃん。棒読みだし。

石丸 君はでも本気でラッパーとしてやっていきたいと考えてるの?

 

 

ハピネス まあ、うん。

石丸 ちょー大変よ。ライターも変わらないけど。そもそも君は何をラップしたいのよ?

ハピネス まあ、その、不満だったり。色んなものを。

石丸 今、一番ラップしたいことはなんなのよ。

ハピネス 今だと……、まだあまり活動とかできてないから、始めてからも短いし。だから「俺はこれからやっていく」みたいなことを……。

石丸 なんもないじゃん。君、本当はエピソードいっぱいあんだよ? ママは、臨月でⅬ××食ってだったんだから。こんなカッコいい話ないと思うんだよね。それラップすればいい、臨月で×S×。「九ヶ月と2週間のあの日、俺は羊水に溺れながら虹色の夢を見た」って。そんなの歌えるやつ、そうはいないよ。

ハピネス うふふふふ、なにそれ。

石丸 ラブ&ピースなんだから、あれは。

 

3分30秒過ぎからハピネス登場

 

ハピネス でも、本当さ、今でもパパがヤバくなってた時のことは覚えてるよ。

石丸 ああ、危険ドラッグの時の。

ハピネス 学校から帰ってきてさ、部屋に戻ったら、なんも話しかけてもないのにすごい謝ってくるんだもん。「ごめんよ、本当にごめんよ~」ってずっと! しかも燃えかけの千円札が部屋中に丸まってて。

石丸 炙ってたからねぇ。

ハピネス これはそろそろやばいなって思って、ご近所さんとこに行って、パパが大変だから救急車呼んでって言ってさ。

石丸 で、入院したんだよ。

ハピネス 目が血走ってて、もうギンギンになっててさ。

石丸 ごめんねぇ。わかるだろう、本当にドラッグは危ないんだよ。……ていうか、もうこんな感じで終わりにしたいんですけれど。

ハピネス こんなんで大丈夫?

石丸 完璧よ。ユー、ザ・パーフェクト。

 

 

✴︎✴︎✴︎

 

MCハピネス えむしーはぴねす/2006年生まれ。ラッパー。現在、中学二年生。代表作に「豚のあぶらブシャー」。各種フリースタイル大会にて活躍中。

twitterhttps://twitter.com/happiness_rap

bandcamphappiness-rapper.bandcamp.com/track/-

 

✴︎✴︎✴︎

 

(Text by Yosuke Tsuji)

 

特報:「沖縄のハジチ、台湾原住民族のタトゥー 歴史と今」展が、10月に那覇の沖縄県立博物館・美術館で開催。現在、クラウドファンディング募集中。

 

〈MULTIVERSE〉

「そこに悪意はあるのか?」いまアートに求められる戦略と狡知|小鷹拓郎インタビュー

「暮らしに浸り、暮らしから制作する」嗅覚アートが引き起こす境界革命|オルファクトリーアーティスト・MAKI UEDAインタビュー

「Floating away」精神科医・遠迫憲英と現代魔術実践家のBangi vanz Abdulのに西海岸紀行

「リアルポリアモリーとはなにか?」幌村菜生と考える“21世紀的な共同体”の可能性

「REVOLUCION OF DANCE」DJ MARBOインタビュー| Spectator 2001 winter issue

「僕たちは多文化主義から多自然主義へと向かわなければならない」奥野克巳に訊く“人類学の静かなる革命”

「私の子だからって私だけが面倒を見る必要ないよね?」 エチオピアの農村を支える基盤的コミュニズムと自治の精神|松村圭一郎インタビュー

「子どもではなく類縁関係をつくろう」サイボーグ、伴侶種、堆肥体、クトゥルー新世|ダナ・ハラウェイが次なる千年紀に向けて語る

「バッドテイスト生存戦略会議」ヌケメ×HOUXO QUE×村山悟郎

「世界ではなぜいま伝統的タトゥーが復興しようとしているのか」台湾、琉球、アイヌの文身をめぐって|大島托×山本芳美

PROFILE

石丸元章 いしまる・げんしょう/GONZO作家。80年代からライターとして活躍。96年、自身のドラッグ体験をもとに執筆した私小説的ノンフィクション『SPEED』を出版、ベストセラーに。その他の著書として、『アフター・スピード』、『平壌ハイ』、『DEEPS』、 『KAMIKAZE神風』、『fiction!フィクション』、『覚醒剤と妄想』など。訳書にハンターS.トンプソン著『ヘルズエンジェルズ』。