芳賀英紀 『対談|百年の分岐点』 #05「渡米5年目でジャスティン・ティンバーレイクのバックダンサーを務めた異才ポッパーが語る愛と宇宙の話」GUEST : Sumi Oshima
芳賀書店三代目がいまもっとも会いたい人に話を聞きにいく対談シリーズ。今回のゲストはLAを拠点に活躍する異才ポッパー・Sumi Oshima。大きな目標などなくただ「今に生きる」のみと語る彼女に与えられた宇宙からのミッションとは。
様々なジャンルを持つダンスシーンにおいて、とりわけPOP、POPPINと呼ばれるダンスは男性比率がとても高いジャンルだと言われている。そもそも、この「POP」とは筋肉を弾くという意味であり、体の柔らかい女性よりも、体の筋肉質な男性に、より向いているとされてきたのだ。
実際、ポッパー関連のYoutube動画の再生回数においても、上位に並んでいるのはPOPPIN JOHNをはじめ男性ダンサーが多い。あるいは、ACKY、Co-thkooら世界で活躍する日本人ポッパーも、そのほとんどが男性である。
そんな中、日本人女性ポッパーとして単身LAに渡り、ショービズの中心地において異例ともいうべき成功をおさめているのが、Sumi Oshimaだ。2014年、22歳の時に渡米して以来、Tribe Called Questのバックダンサー、Big Seanとの共演、さらにはジャスティン・ティンバーレイクのMVに出演するなど、順調にキャリアを積み重ね、2017年にはDance Deligjtのファイナルに選出、現在はダンサーのみならずモデルとしても活動するなど、LAを舞台に八面六臂の活躍を示している。
動画を見れば分かる。世界に数いる一流の女性ポッパーたちと比較しても、Sumiのダンスには圧倒的と言ってもいいフィールがある。その差異の秘密は、振り付けと振り付けの隙間に込めているもの、そして「目」にある、とSumiは言う。
10月末、日本へと帰国中だったSumiに、そのライフストーリー、ダンサーとしての美意識、そして、彼女の行動の指針となっているスピリチュアリズムをめぐって、芳賀英紀が話を訊いた。
LAのダンサーには基礎がないけど自由さがある
芳賀 今日はLAから日本に帰国中のSUMIちゃんと対談させてもらうわけだけど、このコーナーにSUMIちゃんをお招きした理由はいくつかあって、まず一つは、SUMIちゃんがとても魅力的な、実力、キャリアともに秀でた一流のダンサーであるということ。
実を言うと、僕は若い頃にダンス業界に少し関わっていたことがあるんです。ダンサーとしてではなく、裏方としてだけど、ショーケースを作ったり、あるいはダンサーの子たちと企業とをつなぐプロデューサー的なことをやろうとしていたことがあった。自分もシンガーとしてだけど音楽をやっていて、ダンスはとても好きなカルチャーの一つ。一人のダンス好きとして、SUMIちゃんのダンスを動画で初めて見たときには、正直、衝撃を受けました。だから、もっとみんなにSUMIちゃんのダンスを見て欲しくて、この対談がその一助になればなと思ったんです。
もう一つの理由は、実はSUMIちゃんは僕の妻であるユイの、小学校以来の友人であるということ。それはある種の偶然でしかないんだけど、きっとそういう偶然には意味があると思うんです。前から妻にSUMIちゃんの話は聞いていて、ずっと会ってお話してみたいなと思ってました。だから、この場を作らせてもらった背景には、そんな僕の私情も入っています(笑)
というわけで、早速、SUMIちゃんの話を聞いていきたい。今、SUMIちゃんの活動の拠点はLAなんだよね。なんで生まれ育った日本ではなくLAを拠点にすることになったのか、聞いてもいいかな?
SUMI ん~と、LAの前に、まず最初に私が行った海外はカナダだったんですよ。それは19歳の時で、約1年くらいの滞在だったんだけど、カナダのスタジオでダンスを教えたりしてたの。ただ、カナダにはティーチング以外のダンスの仕事ってあまり多くはなくて、せいぜいメディア系の仕事や、バトルのジャッジくらいで。もちろん、ショーケースの仕事もしてはいたんだけど、あまり多くはなかったかな。
私がやってるポッピンっていうジャンルについてもカナダは決して層が厚くなくて、変な話、日本からきた女の子でポッピンが上手に踊れるってだけで、かなり珍重されるというか、それだけで位置がぐ~んって上がっちゃうんだよね。正直、その感じがあまり好きじゃなかった。自分はプレイヤーとしてもっと突き進んでいきたいのに、すぐにトップの位置まで上がることができちゃって、この国はちょっと自分のいる場所ではないかなって思い、20歳の時に日本にいったん戻ったんです。
芳賀 そもそもなんでポッピンが強い国ではなかったのにカナダに行くことになったの?
SUMI カナダ行きはお母さんの意思だったんだよね。ちょうど3.11があった年で、放射能問題もあったから、「あんただけでもどっかに行きなさい」って言われた感じ。私はお姉ちゃんが3人いて、うち2人は当時カナダに住んでたから、それでカナダに行くことになった。語学も学びたかったから、ちょうど良かったといえば良かったんだけどね。
芳賀 なるほどね。で、その後に日本に戻ってきてからしばらくは国内で活動してたんだよね?
SUMI そう。2年間くらい、YULIっていうパートナーと一緒に魁極龍っていうチームで活動してた。もちろん、日本もすごく楽しくて、ショーに出たりバトルに出たり、色々と動いてたんだけど、ただ、帰国した時に、私は「自分の実現したいことリスト」みたいなのを勝手に作ってて。それは、これこれこういうコマーシャルなお仕事をしたい、とか、ゲストとしてショーに出る場合はこれくらいのギャラはもらえるようになりたい、とか、そういうものだったんだけど、2年でそのリストの全部にチェックがついちゃったんだよね。
ちょうど、その頃、私はすごい忙しくもなってて、三日くらい寝れないとかも当たり前で、なんていうか、煮詰まってた時期でもあって。ティーチングの仕事をしてても、「これ以上、何を教えればいいんだろう」みたいな気持ちもあったし、自分が学んでないのに。もうこれ以上出てくるものないよなとも思ってた。もともと私は自分の上の先輩たちを見て、そのキラキラした姿に憧れてダンスをしていたから、自分もそうじゃなきゃダメだよなって気持ちもあり、一回、全部を捨ててLAに飛ぶことにしたんです。それが2014年かな。
芳賀 もう日本でできることは全部やりきったって感じだったんだ?
SUMI とりあえずはね。JUSTE DEBOUTっていう世界的なストリートダンスの大会があって、その2013年の日本予選に私は魁極龍で出場したんだけど、ファイナルまでいったの。そのファイナルで当たったのがフォーマーアクションっていうダンスチームで、そのフォーマーアクションのKITEさんとマドカさんは私たち魁極龍の師匠だった。ようやく師匠と肩を並べることができたっていうのも大きかったかな。
芳賀 実際にLAに行ってみてどうだった? やっぱり日本のダンスシーンとは違った?
SUMI 最初は下見として一ヶ月だけLAに行ったんだけど、やっぱり全然違いったかな。日本人のダンサーって、みんなすごく基礎がしっかりしてるんです。ベーシックな部分はちゃんと整ってるんだけど、一方でみんな似たような踊りをするところもあるなっていうのもあって。その点、LAのダンサーは基礎とかない人がほぼ。だけど、フリースタイルってなった時にオリジナルがすごく強くて。どっちがいいとは言わないけど、私は自由にダンスをしたい方だったから、「あ、私の居場所はここだな」って思ったんだよね。
芳賀 2014年だから5年前か。でも、それこそジャスティン・ティンバーレイクのMVに出演したり、エンターテイメントの第一線で活躍するまでになってるんだから、すごいなって思うよ。
SUMI ありがと~(笑)。ジャスティンのMVに出ることになったのは、私も結構、驚きだったんだけどね。オーディションも急遽エージェントに言われて向かった感じで。みんな指定の黒いタイトな服にハイヒール履いてるなか、一人だけTシャツ、スウェット、スニーカー、みたいな感じで行って。しかも、求められてるダンスも私の専門とは全然違くて、これ受からないだろって思ったら「You book」って言われたからビックリした。なんか後で聞いたら、プロデューサーの人が私の顔を見て「この子がいい、この子じゃなきゃダメだ」ってすごい推してたらしいです(笑)
更生施設に入るか、ダンスの高校に入るか
芳賀 そもそもなんだけど、SUMIちゃんがダンスを始めたのはいつ頃?
SUMI 本格的に始めたのは高校からかな。小さい頃にお遊戯のダンスはしてたけど。私のお母さんはモデルだったんだけど、お母さんのすすめがあってダンスの高校に入った感じ。
芳賀 お母さんはなんでダンスをそんなにすすめたんだろう?
SUMI 中学校の頃、私、めちゃくちゃグレてたんですよ(笑)。みんなが行けるような普通の高校には行けないって言われてて。私としては卒業したらとび職をやるつもりだったんだけど、お母さんが「こういう高校もあるよ、ここなら偏差値は関係ないよ、あんたここ行かないと本当にやばいよ」って。まあ、更生してくださいっていう(笑)
芳賀 僕もまったく同じような状況だった(笑)。でも、僕は危機感とかまるで感じでなくて、高校なんて行けなくてもいいでしょって思ってたかな。SUMIちゃんはその時に危機感は感じた?
SUMI ん~、お母さんに言われてからはちょっとまずいなとは思ったよ(笑)。私が家の2階にいた時に、下の階でお姉ちゃんとお母さんが深刻なトーンで「スミは施設とかに入れるしかないかもしれない」とか話してるのも聞いちゃってたし。お、これはガチなやつだって思って。
芳賀 更生施設行きを検討されるのは相当だね(笑)
SUMI そうそう。自分ではそんなすごいことしてる気はなかったんだけど、周りから見たら結構やばいんだなって思って。まあ、だったらダンスの高校に行ってみるか、と思い、体験授業を受けに行ったんです。行ってみたらなぜか上級者コースに名前があって、ていうのも、私が小さい時にお遊戯のダンスをやってたからか、お母さんは勝手に上級者コースに申し込んでたんだよね、本当は初級者なのに。もちろん、体験授業では一人だけ全然踊れなくて。ヒップホップダンスを踊らされたんだけど、なんせ初めてだったから。
ただ、その時に生まれて初めて「悔しい」って感情が私の中に芽生えたんだよね。それまで感じたことなかった感情で、これをなんとしてでもマスターしたいって思った。もう、これしかないって。それで打ち込むようになった感じです。
芳賀 そこからは一直線なんだね。今日に至るまで、ダンサーとは違う別の道を考えたことはなかったの?
SUMI いや、マジで何度も諦めようとは思いましたよ。みんながうますぎるから。一方、自分はダンスのジャンルすらも分からない状態で入学したわけで。ハウスもロッキンもポッピンも、なんも分からない。だから、毎日、初めて見る踊りに衝撃を受けながらレッスンを受けてた。本当に、何度も「もう無理、地元帰りたい」とか思いながら(笑)
芳賀 いい話だ(笑)。結局、SUMIちゃんはポッピンのダンサーになったわけだけど、自分はポッピンでいこうって決めたのはどのタイミングだった?
SUMI 高二の夏くらいに付き合ってた人がポッパーだったんだよね。その頃、まだどのジャンルをメインでやっていけばいいか、自分では分からないって状態だったんだけど、彼氏がポッパーだから、学校が終わった後に、公民館みたいなところでよく教えてもらってたの。その彼が結構なスパルタで、自分がアルバイトに行ってる間も、「帰ってくるまでにこのボディウェーブをマスターしてるように」みたいに言われてて、実際、私は下手だったから、とにかく練習して。
そんな感じで、しっかりポッピンに打ち込んでみて分かったのが、ポッピンって他のジャンルと比較した時に、練習量がそのまま身体に結果として現れるジャンルだってことだったんだよね。もちろん、どのジャンルも練習すればうまくなるんだけど、ポッピンって細かい関節の動き一つ一つを地味に練習していかないと、踊ることすらできなくて、ただ、そういう細かい練習をきっちりすることで、目に見えて上手くなってく。努力がそのまま結果に現れて、それが誇らしく思えたんだよね。で、私はポッピンでいこうって思った感じかな。
芳賀 SUMIちゃんの身体にポッピンが合ってたんだろうね。
SUMI そうかもね。実際、ポッピンをしっかりやり始めて、バトルとかに出るようになったら、2回目のバトルとかでジャッジにピックされたり、すぐにベスト8やベスト4までいけるようになったから。もうそこからは本気で練習しまくりましたよね。
芳賀 当時は一日何時間くらい練習してた?
SUMI 学校とは別に最低でも一日6時間くらいはしてたかな。学校が5時とか6時に終わって、そのあとにご飯を食べに行って、で、夜の11時くらいから新宿の安田ビルで朝の5時まで練習して、そのまま寝ずに学校に行って、学校の普通の授業の時に爆睡みたいな(笑)
芳賀 僕も高校時代は似たような感じだったかな。歌をやってたから。当時、ダンスは楽しかった?
SUMI ん~、楽しかったよ。ポッピンに決めてからも学校では全ジャンル習わなきゃいけなかったんだけど、できないのは本当にできなくて、それはすごい悔しかったんだけど、それを練習してできるようになったときは嬉しいって思ったし、先生に「上手くなったね」って言われた時の感動とかもあったかな。当時は誰かに認めてもらいたいって気持ちがすごくあった時期で、そのキラキラした一生懸命な気持ちはやっぱり楽しかったよね。
振り付けと振り付けのあいだを埋めるもの
芳賀 ところで、SUMIちゃんは自分の生き方に関してポリシーとかはある?
SUMI 今に生きる、それだけ。過去にも未来にも生きるつもりはないから。一瞬一瞬をワクワクした気持ちでいるってこと。外に意識を向けるんじゃなく、いつも自分に意識を向けること。
芳賀 なるほどね。でも、バトルなりショーケースなりでオーディエンスのことは意識しないの? 僕は歌をやってた頃、オーディエンスの思いを背負っている感覚が結構好きだったんだよね。
SUMI もちろんオーディエンスのために踊るときもあるよ。ただ、オーディエンスのためだけに踊ってると自分が疲れちゃうから、自分を浄化するためのダンスもある。でも結局、どれだけ自分のために踊ってても、その楽しさは必ずオーディエンスにも感染するから、特に外を意識しなくても、私の目を見ててくれれば全部伝わると思うんだよね。
私は自分に愛を与える行為としてダンスをやってるって思ってて、だから、それ以外のことはあんまり重要じゃない。それに自分のことをしっかり意識した上で、自分のことをきちんとわかってない人には、ダンスで何かを表現したり、人に何かを伝えることは難しいとも思う。
芳賀 じゃあSUMIちゃんにとって、一番最高な瞬間ってどういうタイミングなの? ショーの時なのか、あるいはバトルの時なのか。
SUMI どうだろう。もちろんバトルとかで会場を沸かせられた時とかってすごい嬉しいけど、ただ、沸けばいいってものでもないんだよね。自分自身にそこまでパッションがなかったのにみんなが湧いてる場合と、自分自身が「いま最高のムーブができた」と感じてる時にみんなが湧いている場合では、全然感情が違う。私が「かましたぜ」って思って、なおかつ会場が沸いて、優勝とかできた時は、「はい、やりきりました!」って感じがあるけど、そうでもない時に優勝したりしても、やっぱり自分自身は納得してなくて、腑に落ちない気持ちになるから。パフォーマンスも同じで、自分自身がやりきったときにスタンディングオベーションで返ってきたりすると毎回ウルウルしちゃいますよね(笑)
芳賀 バトルの場合は相手がいるよね。SUMIちゃんの感動には相手の技巧も関係してるのかな。
SUMI もちろん。バトルは基本的にレシーヴするものだからね。相手のエネルギーを感じながらバトルしてる以上、相手のうまさはもちろん関係してくる。ただ、たまにバトル中にこっちのダンスをまったく見ない人とかもいるんですよ。「ふざけんな、ちゃんと見ろよ」とか思っちゃう。気持ちが伝わんないでしょって。
芳賀 実際、SUMIちゃんのダンスは動画越しに見てもすごくエモーショナルだよね。
SUMI 私はダンスにおいてムーブメンとよりフィーリングが大事だと思ってるから。そこがなければお客さんに何も伝わらないし、踊ってても楽しくない。ワークショップとかで教えていることも、実はほとんどその部分だったりするんだよね。もちろん、振り付けも教えるんだけど、ただ振り付けと振り付けのあいだの空間がダンスにはあって、その空間をどうやって埋めるのかが実はすごい大事だったりするんです。それができてない人が多い気がするかな。だから、そこをどう埋めるか、どう埋めたいかってことに意識を向けてもらってる。振り付けが完璧に踊れてても、そういうところにフィーリングを乗せることができてないと感動は作れないから。
だから、私が踊ってるときは何十人もの人が泣いてくれるよ。私はすごいテクニカルな動きをしてるとかじゃないんだけど、ただ目で「いまからいくよ」っていうのを伝えてるし、それは伝わるんだよね。うまいとかすごいとかで終わらせて欲しくないし、満足して欲しくない。それで十分ならバックダンサーだけしていればいいけど、みんなそうなりたいわけじゃないでしょ?
芳賀 せっかくダンスやってるんだから、自分のダンスそのものでしっかり魅せたいよね。
SUMI うん。もちろん、バックダンサーってすごく大事な役割で、いかにメインの人を引き立てるかっていうことを考えることもすごいクリエイティブなんだけどね。ただ、アメリカのアーティストのツアーを回ってるようなバックダンサーはアーティストになんか目がいかないくらいすごいダンサーがいっぱいるから。実際、そういう人たちは普段は自分メインでやってるんだよね。
でも日本はそこがね、どうしてもアーティスト中心になりすぎちゃってる気がする。それはダンサーだけじゃなく、映像を撮る側もそうなんだけど。日本の映像を見ると「あ、ダンサーって本当におまけなんだな」って感じちゃうから。ダンサーへのリスペクトがあまり感じられないとは思うかな。
芳賀 日本だとステージが一枚絵で見られちゃうところはあるかもね。本当はステージには何個もファクターがあって初めて一つの立体を構成するんだけど、平面的に切り取っちゃってる。バンドも同じで、特に映像においてはボーカルが中心になりがち。それがサポートミュージシャンだったりすると、なおのことでさ。
でも、バックにサポートで入る人って技術的にはトップレベルなんだよね。メインを張る人よりも技術はあったりする。それなのに、メインを張ってないのはなんでだろうって考えると、音の世界にアジャストする力の有無、いかに日常ではない自分にスイッチできるかの差かなって思う。たとえばさ、プロダンサーがLAの街の中で「いまからちょっと踊ろうよ」みたいなことって全然あるでしょ?
SUMI うん、全然あるよ。普通に音が鳴ってたら路上とかでもみんな踊り出すから。
芳賀 それが日本にはあまりなくて、ヨーイドンが必要なんだよね。撮影とかも、何日後にこれこれを撮影するからという段取りがあって、そこに向けて心構えを作っていく感じ。だから「いまやって」と言われるとなかなか動けない。そこの境目がはっきりしすぎてる気がするんだよね。
SUMI 多分、それは日本人の問題じゃなくて、環境なのかなって思う。日本人でもLAに来れば、絶対に街中で踊るから。だけど、日本にいると踊れない。不思議だよね。私、何年もどっぷりLAで暮らしてきたから感覚がボケてるところあって、昨日も友達と日本の電車に乗ってたんだけど、すごい可愛い女の子がいたから、「あ、可愛い~!」って声だしちゃってさ。でも、その子には目をそらされちゃって。その時に、「あ、ここは日本だった。急に可愛いとか言ったら気持ち悪がられるよな。そうだそうだ」って思い出して。他人との距離感が全然違う。向こうだと「あなたとても可愛いわ!」「ありがとう!あなたもよ」みたいなやりとりが毎日何回でも起きるからね。
芳賀 それでいうとオーディエンスの反応にも差があったりするのかな?
SUMI あ、違うかも。日本にいた頃は気づかなかったけどね。私がいた頃のeggmanとかすごい楽しかったから。ただ、今になってあらためて当時の動画を見ると、お客さんは冷静だな~って思う。すごいいいダンスしてるのに、反応が薄くて、「え、なんでなんで?」って。もっとエモーショナルに反応してもいいのにって。ダンサーもそうで、みんなすごくうまいんだけど、そのパッションはどこにあるの? って感じちゃうんだよね。
宇宙は全てのことに対して「YES」と言う
芳賀 SUMIちゃんは独立独歩でダンサーとしての道を突き進んでて、すごくかっこいいなって思うんだけど、やっぱり常に挑戦し続けていく上ではリスクもあると思うんだよね。SUMIちゃんには何か意識してる自分の守り方とかある?
SUMI な~い。守らなくても大丈夫。
芳賀 あ、そうなんだ?
SUMI うん、私ってちょっとスピリチュアルな人間だから。自分のことを意識して生活してるだけで、自分の周りに起こることすべてが良くなるし、良くなるって分かってるの(笑)。逆に他人を意識したり、外に意識が向かったり、なにかに執着を持ってたりすると、どんだけ頑張っても空回りする。意識って現実とコネクトしてるからね。だから、私は何かを人のせいにすることもなければ、誰かを妬むこともないよ。そうすると自己否定とかが一切なくなるんだよ。
でも、たまに日本の友達と話したりすると、自己否定が強いなってすごく思う。本当は日本にはスピリチュアルな感覚を持った人がすごくたくさんいるのに、まるで国を挙げてそれが噴き出るのを阻止してるかのように、みんなそうではない暮らしを送ってるでしょ? だから、なんていうのかなぁ、うーん、これってどこまで話していいんだろう(笑)
芳賀 どこまででも(笑)
SUMI じゃあ……、ま、いっか。あのね、宇宙っていうのはすべてのことに対して「YES」っていうんです。自分たちが考えていることのすべてに「YES」って言って、それを現実に表しちゃうんです。でも、それは「お金欲しいです」って願い続ければお金が入るってことじゃなくて、お金に執着するってことは意識の中に「お金がない自分」が存在するってことなんだよね。だから、そのイメージに対して、宇宙は「YES」って言って、お金がない現実の生活を表しちゃうんです。
本当は執着がなければないほどお金や仕事は回ってくる。でも、そこになかなか気づけない。だから、私のお仕事はいかにみんなをそういう目覚めに導くかってことでもあるんだよね(笑)
芳賀 いいものっていいんだよね。そして、いいって思うとそれが欲しくなる。じゃあ、それを手に入れるためにはどうすればいいか、それを考えることが面倒臭いから、いいものを取り入れない人が多いんだろうなって僕は思ってる。リスクヘッジから入っちゃうんだよね。でも、それはすでに悪いイメージに囚われてるってことでもあるよね。
SUMI そうそう。あと、みんな人に期待しすぎかなって思う。人に期待するというのは自分の幸せを人に委ねてるってことだから。人に期待を持つことをやめると、自分で自分を幸せにするしかないから、うまく回るようになるんだけどね。
たとえば彼氏とかに「なんでこれをやってくれなかったの?」とか「なんで私の気持ちを分かってくれなかったの?」とか、そういう言葉をよく聞くんだけど、その状況自体が自分自身が起こしてることなんだよね。相手はきっと分かってくれないだろう、気づいてくれないだろうって意識がそういう現実を作ってる。
芳賀 そういうことにもっとみんなに気づいてもらう、さっきのSUMIちゃんの表現だと「目覚めを導く」ための方法としてダンスがある感じなのかな?
SUMI 言葉を発して導くこともあれば、ダンスを通して導くこともあるって感じ。たとえばいまこうやって、こういう話ができるということ自体、私の意識が表した現実なんだよね。タイミングっていうのはいつでも完璧なものだから。今日も、あ、こういうことを喋るためにここに来てるんだなって感覚だよ。
芳賀 でも、ダンスって本質的にそういうものだなって思う。すごくスピリチュアルなものだし、さっき言ってたような個の執着を超えたもの、あるいは超えさせることができるものだなって感じる。それこそいいグルーヴが生じたときって、一緒にいる奴がみんな溶け合ってくっていうかさ。
ところで、さっき自分の守り方なんてないって言ってたけど、仲間がなんかあって倒れたりしたらSUMIちゃんはどうするの?
SUMI ん~、私は人は助けないよ。みんな「助けなきゃいけない」って思ってるかもしれないけど、私は一切、気を使ったりはしないかな。冷たいように聞こえてると思うけど、それは助けなくてもその人は大丈夫だって分かってるからなんだよね。本当は自分でなんとかできるし、その力を持ってる。だから「頑張れ~、なんとかなるよ」みたいな感じ(笑)
芳賀 人間の力を信頼してるんだね。
SUMI 自分の本来の力を信じてるから、皆さんの本来の力も信じてる。だから、助ける必要なんてないの。もともと、みんな完璧なんです。でも、みんな自分が完璧じゃないと思って生きてる。なんもできないと思ってる。本当はなんでもできるのに。
もっと説明するとね、みんながなんで地球に来たのかっていうと、元々が完璧でなんでもできちゃう存在だったからこそ、地球っていうなんにもできない星に来て「できない」っていう感情を体験しにきたんです。だから、もうみんな大成功してるわけ。だって、本当に地球に来てなんもできなくなってるんだから。でも、そろそろ元の完璧な姿に目覚めたいなって思ってる人も出てきてる。今世で目覚めない人もたくさんいるとは思うけどね。まあ、眠っていたい人はもう少し眠っててもらって、目覚めたい人は目覚めればいい。そんな感じです(笑)
芳賀 僕は悩みを相談されたときなんかによく「自分の限界を自分で決めないでね」って言うんだよね。「できない」っていう言葉を自分で発した時点で、本当にできなくなるから。だから、前提としてまずは自分を無限だって思った方がいいって。
SUMI 本当にそうだよね。
芳賀 それこそ宇宙からきて、味わいたかった劣等感を味わえてるんだから、もっとみんな喜べばいいのにね(笑)
SUMI ね~、大成功じゃんって。まあ、それで言うと、目覚めちゃうとネガティブな感情が一切なくなっちゃって楽しいとか嬉しいとかだけになっちゃうから、それが嫌な人はまだ眠ってた方がいいかもね。
芳賀 僕はなんだかんだ苦しむのが好きだから、まだこっちにいようかな(笑)
SUMI そういう苦しみがあった方が、歌とかの場合はうまくフックに使えるしね。
大きな目標はいらない
芳賀 SUMIちゃんはそういうビジョンはいつから持ってたの? 小さい頃から?
SUMI 目覚めたのは最近かな。でもビジョンは見えてた。昔から人のイメージが見えちゃうんだよね。ずっとそれは妄想だと思ってたんだけど、それがそうじゃないってことに大人になって気づいて。ていうのも、相手から見えてるイメージをその相手に話してみたら、「なんでそれ知ってるの?」みたいに驚かれることが何度かあって。あ、妄想じゃなかったんだって思った。今は疲れちゃうからあまりそこに意識を向けないようにしてるけどね。まあ、なんていうか、宇宙人ってことですよ(笑)
芳賀 でも、みんな宇宙人なんでしょ?
SUMI ううん、少ないけど地球人もいるよ。ただ、ほとんどは宇宙人かな。
芳賀 じゃあ実際はみんな記憶を持ってるんだね。
SUMI だから今世で目覚めますってなったら、めっちゃ色々と見えるようになるよ。私は実際に「これから会いに行きます」とまで言われたし。自分がどこの星の宇宙人なのかも今は分かるしね。
芳賀 僕はどこなんだろう(笑)
SUMI まあ、そのうち分かりますよ。昔の星の頃の家族が誰かとかも分かるから。
芳賀 え、でもそうなると、この地球上での家族との関係をどうすればいいんだろう。
SUMI 引きずらなきゃいいいだけだと思う。私、宇宙では男の子だけど、それをこっちに引きずっちゃうとチグハグになっちゃうし、お母さんとかのことも「ああ」みたいになっちゃうから、自分の正体を分かった上でも「今」を意識するようにしてる。そうじゃないと地球にいる意味がないからね。今に生きる、がモットーだし(笑)
芳賀 なるほどね。今が大切なのはすごくよく分かった(笑)。それとは別に、人生を通しての大きな目標とかはないのかな?
SUMI 全くな~い。よく「ゴールはありますか?」って聞かれるんだけど、本当になんにもないんだよね。
芳賀 まったく考えないんだ?
SUMI まあ、家が欲しい、くらいかな(笑)
芳賀 (笑)。そういう具体的な欲望をピュアに持っておくのは大事なことだよね。最後にダンスの話に戻ろうかな。日本のダンスシーンやダンスをめぐる状況について、もっとこうなればいいなって思うことはある?
SUMI ん~、強いていうと、メディアとかでも私みたいなフリースタイラーを雇ってくれるとこってすごい少ないなって思ってて、もっと増えたらいいのに、とは思うかな。結局、アーティストがポッピンを踊れないからポッパーは雇わないみたいになってるんだよね。逆にアーティストが踊りやすいヒップホップやジャズの方が雇われやすい、みたいな。そこも結局はアーティスト中心になってる。でも、別にアーティストがそれを踊れる必要はなくって、アーティストの周りでフリースタイラーが踊ってるみたいな形をもっとやってけばいいのになって思う。
芳賀 ダンサー個人はどう? やっぱり国内で腕を磨くだけじゃなく、もっと外に出ていった方がいいと思う?
SUMI まあ、ダンスで何をやりたいか、かな。私は単純に「自分」だったから、その場合、日本でティーチングとショーだけしてるっていうのじゃ、足りないからね。まあ、でも海外に出ることで損はないかな。ビザのこともあるから大変だけど、人生は一度だからね。
芳賀 そうだね。今日は本当にありがとう。また日本に戻ってきたとき、遊びましょう。今度はSUMIちゃんのダンスを直に見たいし。
SUMI もちろ~ん。こちらこそありがとうございました。
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Sumi Oshima すみ・おおしま/15歳でダンスを始める。2013年に魁極龍というチームでJust Deboutのファイナリストに。翌年、LAに移住。Tribe Called Questのバックダンサー、Big Seanとの共演、さらにはジャスティン・ティンバーレイクのMVに出演するなど、順調にキャリアを積み重ね、2017年にはDance Deligjtのファイナルに選出。現在はダンサーのみならずモデルとしても活動している。
Twitter : @POPPIN_KALIBER
Instagram : @sumioshima
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