ケロッピー前田 『クレイジーカルチャー最前線』 #07 「サイボーグになりたい」改造人間ラス・フォックスが目論むボディハッキングの新展開
驚異のカウンターカルチャー=身体改造の最前線を追い続ける男・ケロッピー前田が案内する未来ヴィジョン。現実を凝視し、その向こう側まで覗き込め。未来はあなたの心の中にある。
改造人間ラス・フォックス二度目の来日
まず最初に嬉しいニュースをお伝えしておこう。2019年11月、「サイボーグになりたい」改造人間にして、ボディハッキングの第一人者であるラス・フォックスが再び来日することが決定した。
ラスの来日はこれで2度目となる。今年1月、日本における身体改造カルチャーへの関心がますます高まってきた頃に、彼はさっそうと東京・新宿の街に襲来した。彼とは、2018年2月、アメリカ、テキサス州オースティンで開催されたボディハッキングの国際会議「ボディハックス」を取材した際にも会っていた。その詳しいレポートは、拙著『クレイジーカルチャー紀行』(KADOKAWA)で読める。
ここでいうボディハッキングとは、マイクロチップやマグネット、さらに小型の電子機器などを体内に埋め込む身体改造のこと。そして、その第一人者であるラス・フォックスは、「サイボーグになりたい」をコンセプトに全身改造している(コンセプトトランスフォーメーション )改造人間である。さらに、彼は他人に身体改造を施すアーティストであり、彼そのものが最新の身体改造のショーケースになっている。
思えば、90年代末からゼロ年代にかけて、身体改造カルチャーを日本に積極的に紹介し始めたときも、海外で取材した改造人間たちがまるで日本に引き寄せられるように、次々に来日するという現象を引き起こした。そして、そのレポートの発表の場となっていたのが悪名高き雑誌『BURST』(白夜書房/コアマガジン、2005年休刊)であった。奇しくも、その伝説の雑誌は、昨年12月、私、ケロッピー前田が責任編集を務めて、『バースト・ジェネレーション』(東京キララ社)として復刊している。そればかりか、今年9月には『バースト・ジェネレーション Vol.2』を刊行している。そんなニュースが世界の改造人間たちを活気づけているのは事実だろう。
昨年10月、身体改造世界一のロルフさんが来日を果たし、その模様がゴールデンタイムでテレビ放送されたこともあって、世界の改造人間たちが次々に来日する状況が続いている。そのことは世界トップレベルの改造人間を日本の地で実際に見ることができる貴重なチャンスである。実際、ラスの初来日の際、彼と直接面することができた人たちは、そのことから何かを感じ、身体改造カルチャーをより身近なものとして体験し、よりよく理解することができるようになったことだろう。
ボディハッキングの現在進行形
ラス・フォックスの初来日において、そのクライマックスとなったのがテレビでも放送された来日記念イベントである。集まった観客たちがまず興味を持つのが、頭のツノやスプリットタンだ。「ツノ、触りたい~」と、初めてラスを見た人たちは誰しも皮膚の下に本当に素材が埋め込んであるのかを触って確かめたいと思うのだ。
だが、なんと言っても重要なのはボディハッキングである。身体改造とテクノロジーを融合するこのジャンルはまだ歴史も浅く、これまでも日本にちゃんとした形で紹介されるチャンスは少なかった。
「ボディハッキングに本格的に興味を持ったのは2013年、ティム・キャノンが『サーカディア』という電子機器を体内に埋め込んだときだね。ぼくもそのとき現場にいたから」
そう、ラスは説明した。ちなみに、2013年、ドイツのエッセンで開催された身体改造の国際会議BMXnetにラスも参加していた。そこで彼は、Bluetooth によって体温などの身体情報を外部に配信する「サーカディア」というスマホくらいの機器を腕に実際に埋め込んだティム・キャノンと会っている。
「ちょうど、同じ頃、ボディハッキング推進者アマル・グラフストラがデータの書き換え可能なNFC対応のマイクロチップを製造供給し始めたんだ。もちろん、自分もすぐに埋め込んだよ」
ラスはマイクロチップを埋め込んだ手をかざすだけで、自宅のドアの鍵を開閉したり、愛用のバイクのエンジンをかけたりできる。
脳に電極を差し込むブレインスティミュレーター
現在、主流となっているマイクロチップには2種類ある。データ書き換え不能で個体認証に用いる「RFID(ラジオフリクエンシーアイデンティフィケーション)」と、データ書き換えが可能な「NFC(ニアフィールドコミュニケーション:近距離無線通信技術)」である。ともに非接触での通信ができ、バッテリーなしでチップ本体のID情報などの読み取りが可能だ。特に、NFCは容易にデータ書き換えができることから、ここ数年で爆発的にユーザーが増えており、すでに電子マネーの支払いなどに利用されている。
「いま最も注目されている新しいマイクロチップが『vivokey(ビーボーキー)』と呼ばれるものなんだ。NFC技術をベースに暗号機能を搭載し、専用アプリで運用することからセキュリティも万全で、ビットコインなどにも使用可能なんだ」
キャッシュレス化にも立ち遅れている日本では、マイクロチップの利便性がなかなか理解されにくいが海外での普及は凄まじい。
もう一つ、広く受け入れられているボディハッキングにマグネットの埋め込みがある。
「ぼくは眉間のあたりにマグネットを埋め込んでいたことがあるんだよ。脳にクルかなって思ってさ。でも、4年くらいしたら急に頭痛を伴うようになって取り出しちゃったんだ。マグネットの影響についてははまだまだ謎だらけだからね」
そんなラスの体験談は大変参考になる。ちなみに、マグネットの埋め込みが人気を得た理由は、指先や手の側面などに施すことで、電磁界に敏感に反応して埋め込んだマグネットがブルブルと小刻みに震えることにある。そのような効果が「磁界を感じる」と認識されたことから実践者が急増した。
また、最新のボディハッキング技術としては、脳に電極を差し込むブレインスティミュレーターがある。アメリカ政府直属の軍事研究機関DARPAが長年研究しているのが、まさに脳とコンピューターを直結するこのような技術である。
「ぼくらがチャレンジできるのは皮膚表面まで、脳に直接電極を刺すなんて危険なことは専門研究機関に頑張ってもらうしかないね」
そう、ラスは総括した。だが、彼は日本滞在中に専門家にも会ってみたいと、大学等の専門研究機関を訪ねている。果たして日本から新たなボディハッキングが生まれる可能性はあるのだろうか。
その全貌を知るためには、次なる来日を待たねばならない。2019年11月、ラス・フォックスが再来日する。日本に再び、世界最先端のカルチャーの現場が出現する。ぜひとも、ボディハッキングの未来を垣間見れる絶好のチャンスを見逃さないで欲しい。
【緊急イベント情報!】
ラス・フォクス来日イベント決定!
11/17(日)@阿佐ヶ谷ロフトA
11/23(土)@六本木ハッカーズバー
〈MULTIVERSE〉
「そこに悪意はあるのか?」いまアートに求められる戦略と狡知|小鷹拓郎インタビュー
「暮らしに浸り、暮らしから制作する」嗅覚アートが引き起こす境界革命|オルファクトリーアーティスト・MAKI UEDAインタビュー
「Floating away」精神科医・遠迫憲英と現代魔術実践家のBangi vanz Abdulのに西海岸紀行
「リアルポリアモリーとはなにか?」幌村菜生と考える“21世紀的な共同体”の可能性
「REVOLUCION OF DANCE」DJ MARBOインタビュー| Spectator 2001 winter issue
「僕たちは多文化主義から多自然主義へと向かわなければならない」奥野克巳に訊く“人類学の静かなる革命”
「私の子だからって私だけが面倒を見る必要ないよね?」 エチオピアの農村を支える基盤的コミュニズムと自治の精神|松村圭一郎インタビュー
「子どもではなく類縁関係をつくろう」サイボーグ、伴侶種、堆肥体、クトゥルー新世|ダナ・ハラウェイが次なる千年紀に向けて語る
「バッドテイスト生存戦略会議」ヌケメ×HOUXO QUE×村山悟郎