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HAGAZINE

ケロッピー前田 『クレイジーカルチャー最前線』 #05「文様のはじまりは土器か、タトゥーか?」一万年前から一万年後へ、人間の身体を通じて文様を伝える縄文時代のタトゥー復興プロジェクト

驚異のカウンターカルチャー=身体改造の最前線を追い続ける男・ケロッピー前田が案内する未来ヴィジョン。現実を凝視し、その向こう側まで覗き込め。未来はあなたの心の中にある。

身体改造とは人間の身体を通じて過去と未来をつなぐカルチャーである

 「未来を見てみたい」という気持ちが、ぼくが身体改造を取材するばかりでなく、自らも実践するようになった理由であった。そう考えると、マイクロチップやマグネットの埋め込みといった「ボディハッキング」と呼ばれる新しい身体改造のジャンルにぼくが強い関心を示すのは当然のことだろう。

 一方で、ぼくは、最も原始的な身体改造やタトゥー、民族や部族に残る改造行為についてのリサーチも続けている。ぼくにとっては、身体改造とは人間の身体を通じて、過去と未来をつなぐカルチャーであるという意識が強い。実際、身体改造という行為は、それ自体が「情報」であり、何らかを象徴している場合が多いのである。

 たとえば、子供から大人になる通過儀礼としての身体改造においては、改造をしていることが大人の証となる。さらにいえば、それがタトゥーであるなら、そこに含み込める情報量はもっと膨大なものになっていくだろう。もちろん、現代ではそれらは人それぞれのファッションとして享受されているものでもあるが、一方では個人のアイデンティティの拠り所としても現代においてなお重要な役割を担っていると思う。

果たして太古の日本にタトゥーはあったのか?

 ぼくが現場を写真でドキュメントするばかりでなく、写真作品として新しいカルチャーを発信していくという意味で、ここ数年力を入れているのが、タトゥーアーティストの大島托とのアートプロジェクト「JOMON TRIBE」である。日本語では「縄文族(じょうもんぞく)」と呼んでいる。

 

 

 大島托については、Hagazineの読者には説明不要だろう。黒一色で身体をデザインする「ブラックワーク」のスペシャリストで、世界中を旅して学んだ文様の知識やタトゥー技術は国際的にも高く評価されている。

 「JOMON TRIBE」は、縄文の文様を抽出し現代的なタトゥーデザインとして身体に彫り込むことで、実践的に縄文時代のタトゥーを復興しようというものである。そして、その根底にあるのは「縄文時代にタトゥーはあったのか?」という問いである。

 

 

 縄文時代は縄目による文様を特徴とする土器から生まれた時代区分で、今から1万5千年以上前から約2300年前(紀元前3世紀)まで続いたとされているが、果たして太古の日本にタトゥーはあったのかということについては、以前からもたびたび議論されてきた。

 たとえば、1969年に考古学者の高山純は『縄文人の入墨』を著し、縄文時代の土偶にみられる文様がタトゥーを意味するのではないかと指摘して話題となった。また縄文時代とタトゥーが関連づけられたもともとの根拠は、『魏志倭人伝』に日本人が文身(タトゥー)をしていた記述があることによっている。それでも確かな物証となるミイラなどが発見されていないことから、縄文タトゥーは学術的には結論が出ないものとされてきた。

 

 

太古に失われた日本のタトゥー文化を復興してほしいという世界的な要望

 近年、世界的にはアカデミックな領域でタトゥーを通して人類史を読み解こうという動きが顕著に現れ始めている。2014年から2015年にかけての1年半に渡り、フランス・パリのケ・ブランリ美術館で、人類史上最大規模といわれる巨大タトゥー展『TATOUEURS, TATOUES(彫師たちと彫られたもの)』が開催され大きな反響を呼んだ。その模様は拙著『クレイジートリップ』でもレポートしているが、この展示はのちにヨーロッパのみならず、カナダやアメリカにも巡回している。日本では信じられないことかもしれないが、欧米ではタトゥーは人類に共通する歴史のあるカルチャーとして認識されている。

 そのことには、1991年にアルプスで発見された世界最古のミイラ「アイスマン」が身体にタトゥーを施していたことも大きく影響している。アイスマンは約5300年前のミイラといわれているが、その発見によって、タトゥーはそれ以前のもっとずっと古い時代から人類とともにあったと考えられるようになったのである。

 

 

 そうであれば日本においても、豊かな文様文化を残す縄文時代にもしタトゥーを彫る技術があったなら、それらの縄文文様は人の身体に彫られたことであろう――そんなアイディアが、今回の縄文タトゥー復興プロジェクトにおける多彩なタトゥー作品を生み出す原動力になっている。あるいは、素晴らしい伝統刺青を残す日本において、太古に失われたタトゥー文化があったなら、ぜひともそれを復興して欲しいという世界的な要望が高まっている事実も、このプロジェクトを大いに励ますこととなった。

 

 

「JOMON TRIBE」は日本における「モダン・プリミティブズ」の実践である

 1970~80年代にアメリカ西海岸を中心に急成長したタトゥーやピアスのカルチャーを総覧的にまとめた『モダン・プリミティブズ』(1989年刊)という本がある。その本は、それらの身体改造行為を現代におけるプリミティブ(原始的)な行為の復興であるとアピールしたことで、幅広い関心をひき、その世界的な流行のきっかけとなった。

 前述のタトゥーを施したミイラ「アイスマン」発見の衝撃もそこに相まった。この時代、タトゥーなどの身体改造行為は人類の本来的な願望として太古の昔からずっと行われてきたのではないかと考えられるようになったのだ。そればかりではない。当時、身体改造こそが、“最も人間的な行為”として来たるべきコンピューター時代に蘇り、全人類に共通するカルチャーとして発展していくのではないか、ともされたのである。

 

 

 ぼくらは「JOMON TRIBE」を日本における「モダン・プリミティブズ(現代の原始人)」の実践として、21世紀を生きる身体のアップデートを縄文文様のパワーを借りて試みている。「JOMON TRIBE」は、過去の縄文文化の復興であるばかりではなく、同時に、未来に開かれたボディアートの可能性を追求していこうというものでもあるのだ。

 

 

 約一万年前の文様から創造する縄文タトゥーの世界。そこに映し出されるビジョンは単に過去を再現するということにとどまらず、現代人の身体を用いて、縄文文様をさらに未来の一万年後にまで届けようという野心的な挑戦なのである。

文様のはじまりは土器か、タトゥーか?

 さて、ここまで筆者も関わるアートプロジェクト「JOMON TRIBE」について説明してきたが、2014年に立ち上がったこのプロジェクトも、2016年には阿佐ヶ谷TAV GALLERYで個展を開催し、2017年にはドイツ・フランクフルトの美術大学HfGでも展覧会を開催してきた。

 

 

 それぞれに大きな反響もいただき、プロジェクトとしても新たな一歩を踏み出す段階にまできている。「縄文時代にタトゥーはあったのか?」の次のフェイズである。

「文様のはじまりは土器か、タトゥーか?」

 もしタトゥーが人類最古のカルチャーのひとつとして、ホモ・サピエンスがアフリカから世界に拡散する過程で生まれてきたとするなら、日本列島にたどり着いた人類になんらかの文様のタトゥーが彫られていたとは考えられないだろうか?

 このことは、縄文時代のタトゥーを考えるに当たっても最重要問題である。つまり、土器の文様をタトゥーとして身体に彫ったのではなく、もともとタトゥーとして身体に彫られていた文様を土器に写し取ったのではないか、とぼくらは考えたのだ。

 

 

 すると、縄文時代のタトゥーの文様が、縄文土器という形を通じて、現代に伝えられている、という解釈ができることになる。そして、過去の文様を未来に伝えていくためには、現代人の身体にタトゥーとして彫り込むことで、ふたたび蘇生する必要があるというのが、ぼくらの解釈なのだ。

 ここから始まる新しい旅、「JOMON TRIBE」のさらなる躍進にご期待いただきたい。

 

『クレイジーカルチャー紀行』
(著・ケロッピー前田/角川書店)

 

特報:「沖縄のハジチ、台湾原住民族のタトゥー 歴史と今」展が、10月に那覇の沖縄県立博物館・美術館で開催。現在、クラウドファンディング募集中。

 

〈MULTIVERSE〉

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PROFILE

ケロッピー前田 1965年、東京都生まれ。千葉大学工学部卒、白夜書房(のちにコアマガジン)を経てフリーに。世界のカウンターカルチャーを現場レポート、若者向けカルチャー誌『BURST』(白夜書房/コアマガジン)などで活躍し、海外の身体改造の最前線を日本に紹介してきた。その活動はTBS人気番組「クレイジージャーニー」で取り上げられ話題となる。著書に『CRAZY TRIP 今を生き抜くための”最果て”世界の旅』(三才ブックス)や、本名の前田亮一名義による『今を生き抜くための70年代オカルト』(光文社新書)など。新著の自叙伝的世界紀行『クレイジーカルチャー紀行』(KADOKAWA)が2019年2月22日発売! https://amzn.to/2t1lpxU