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代沢五郎 from O.L.H. 『Fetish Guitar Ethic Committee』 #03 Valco——素朴なナショナリストたち

X-RATEDノワールファンクバンド〈Only Love Hurts a.k.a. 面影ラッキーホール〉の主催者・代沢五郎(sinner-yang)がナビゲートする“フェティッシュギター”の銀河系。第三回は唯我独尊のプラスティックボディ「Valco」のナショナリズムについて。

独善の末に辿りついた“MapShape”

 エレクトリック・ギターが世に出てから約10年。FenderやGibsonといったリーディングカンパニーが順調にこの新ジャンルのスタンダードとして確立しつつある中、果敢に新設計を世に問うたのがValcoでした。

 Valcoも1950年代のかなり早い段階からエレクトリックの製造を初めていた事、1930年代には音量増幅を狙ったレゾネーター・ギターでリーディング・カンパニーだった事も考え併せると、もともと進取の気風に富んだメーカーだったと想像されます。

 天より高い志と、気の弱い常識人を戸惑わせる唯我独尊。後にビザール・ギターの雄となる資質充分です。

 

1964 National Glenwood 95 / Red (#1-25037)

 

 Valcoの新提案は、木製ボディは古臭いとばかりに、当時の最先端の素材・FRP(強化プラスチック)を用いるものでした。金属製ボディを持ったレゾネーター・ギターの製造経験が、異素材をギターに使用する積極性に繋がったのだと想像します。電気ギターもアンドロイドの夢を見るのか?

 オール・プラスティックの一体成型ボディ。ストローも紙製・木製になろうとしている現代なら、意識高い系の方に叱られそうな設計です。ええと、地球の未来を考えるなら、原点に立ち返って避妊具も魚の浮き袋を再利用して欲しいものです

 Valcoの素晴らしい独善性はこれに留まりません。70年代中期にNCルーターが一般化する以前は、木製ボディは一台一台を人力で切り出し、整形する必要がありました。金型に流し込んで固めるプラスチック・ボディは大量生産に適しているだけでなく、職人技を必要とせずに複雑な形状を可能にします。

 そして、その利点を最大限に利用するための複雑なデザインとは――――アメリカの地図(笑)! このギターが通称”Map Shape”と言われるゆえんです。

 

 

 新素材に、新製法。斬新な提案の行き着いた先が、素朴なナショナリズムというところが、このギターの空振り感というか、ビザール感の出所になっています。

 性質の悪い冗談みたいですが、”National”は元からあったValcoの自社ブランド名(Valcoの前社名)です。

 関係ありませんが、ナショナルといえば、パナソニックのお客様相談室で勤務する友人から聞いた話では、関西方面から掛かってくるクレーム電話には「草葉の陰で松下はんが泣いてはるでぇ~」と恫喝するものがたまにあるんだそうです。

 

 

 最上位機種のGlenwood 99は「シルバーサウンド」と銘打ったピックアップ(恐らく最初期の圧電式ピエゾ)に、ビクスビ―付き、ホワイトが標準仕様。63年頃に99がグリーンに色変更され、ピエゾなしでビグスビー付きの98がホワイト、ピエゾもビグスビーもなしの95がレッドになります。このギターはGlenwood 95なのですが、ビグスビーは後付けしたんでしょうか? 不明です。

 続いてRes-o-Glassシリーズの弟分Newport 84です。兄貴分のGlenwoodと比べて簡略化されてますが、これもアメリカ地図をモチーフにしています。戯画化されたぶんだけ、こちらの方がデザインの完成度は上かも知れません。

 

1964 National Newport 84 / Green (#G-31799)

 

 この”Map Shape”シリーズはバーミヤンの石仏ほど世界的に知名度がないので今のところ助かっていますが、イスラム原理主義者に見つかったら間違いなくテロの対象になる親米的ボディ・シェイプです。

 

破壊前 破壊後

 

 強化プラスティックの一体成型ボディは、トップとバックが別々に作られ、バックにはメイプル材のセンターブロックが接着された上で、トップとネジ留めされています。「ペシャペシャでサスティーンがないじゃん」というのがRes-o-Glassギターの定評です。経験上、中を開けてみるとバックとセンターブロックのいい加減な接着が経年変化で外れているケースが多いです。これをしっかり再接着してやると少しマシになります。しかし、多くを期待してはいけません。最新の行動遺伝学では、遺伝の寄与率は知能は70%以上、音楽、数学、スポーツは80%以上とされています。

 

 

 一般的な60’sヴィンテージ・ギターは有機塗料であるニトロセルロースを用いた塗装が施されており、これが経年変化して味わいが出ますが、このRes-o-Glassは顔料とプラスティックを混ぜて素材自体に着色されています。「塗られた」質感とはまた異なる、暖かいような冷たいような独特の質感です。ネック部分(木材+ラッカー)とボディ部(顔料+強化プラスティック)の色味の変化の違いも面白いです。ネックの部分の色味が微妙に違うのは小池百合子都知事もそうですね。

 

 

 最上位機種のNewport88は2ピックアップ+シルバーサウンド(ピエゾ)、ブラックという仕様ですが、このNewport84は1ピックアップ+シルバーサウンド、グリーンです。さらに下位機種のNewport82は1ピックアップのシルバーサウンドなし、レッドが標準仕様です。

 

 

 アクリル製のブリッジ台座の中にピエゾが仕込まれていて、そこから黒いリード線でコントロールに繋がっています。これを活かすとペシャペシャがさらにペシャペシャします。兄貴分のGlenwoodはビクスビ―製のビブラート・アームでしたが、これはValcoのオリジナル・アーム。ペシャペシャに一役買っています。

 イスラム原理主義者からはテロの標的、反米運動家からは天誅の標的。こわくてウッカリ外に持ち出せないギターです。

 

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PROFILE

代沢五郎 from O.L.H. だいざわ・ごろう/X-RATEDノワールファンクバンド「Only Love Hurts a.k.a. 面影ラッキーホール」通称「O.L.H.」の主催者でありベーシスト。心理学者/ライター。旧名:sinner-yang。著書に『けだものだもの ~O.L.H.のピロウトーク倫理委員会』(ele-king books)がある。