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PlasticBoys 『夢には従わなければならない それは正夢だからだ』 #08 マルコム・マクラーレンのセックスピストルズは歌った 、NO FUTURE ♪ いや、それは間違っている。未来は良いに決まっている!

伝説のゲイクラブ「PlasticBoys」の入り口の扉の、三角形の絵の下には、こう書かれていた。“夢には従わなければならない それは正夢だからだ”

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伝説のゲイクラブ、

『PlasticBoys』の入り口の扉の、

三角形の絵の下には、こう書かれていた。

 

夢には従わなければならない それは正夢だからだ

 

 

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瞳孔1

 

踊女神

 

瞳孔2

 

 夏のロンドンのサンセットは21時を過ぎる。ちなみに、ロンドンの夏至のサンセット時間は21時23分である。21時はサンセット前でまだ充分に明るい。だが、お目当てのクラブのドアは、すでに満員で閉じられている。ドアの外は長蛇の大行列だ。大勢の人々がクラブの入場を求め苦情を発している。しかし、ドアの前の屈強なセキュリティー達は、それに全く動じない。みんな仕方なく、地下鉄や、バスに乗って帰宅する。いつもは夜中のナイトバスで帰宅するのに。外がまだ明るいのが残念な気持ちに拍車をかける。そして、来週は20時前にはクラブに到着するぞと、みな固く誓うのであった。

 

 こんなことが1988年夏のロンドンでは起こっていた。ザ・セカンド・サマー・オブ・ラブ・ムーブメントが、どれほど熱狂的だったのかを描写するエピソードのひとつである。ラブ・ドラッグMDMAにアシッドハウス とイビザからのバレアリックビーツがブレンドされた超高気圧熱波はイギリス中を完全に覆い尽くし、イギリス国民をスーパーハイにした。「今年の夏は、今、踊らなければならない」という使命感に燃えた人々がクラブのキャパシティーをはるかに上回る大津波となって押し寄せる。ダンスとコミュニケーションに特化した最新のドラッグに、ダンスに特化した最新のミュージック、ダンスに特化した最新のファッション。ザ・ファースト・サマー・オブ・ラブ・ムーブメントのサイケデリックな雰囲気を継承するブラックライトに反応し、青白く妖艶に光るホワイトベースのTシャツに、蛍光プリントやスローガンプリント、メッセージプリントのトップスは必需品だ。それにトラックパンツ、もしくはデニム、そしてスニーカーをコーディネートする。このドレスダウンでダンサブルなファッションが更にクラブの敷居を下げ、大量の参加者を引き込む要因となった。

 

 最新のドラッグに、最新のミュージック、そして最新のファッションはドレスダウン。最初の二つは今まで通りのセオリーとしておなじみだったが、最後のドレスダウンは今までに経験がなかったことだ。1976年のマルコムマクラーレンによるパンクロックムーブメントも、当時、社会現象となり、ドレスダウンのファッションであったと誤解されているが、実はマルコムのセディショナリーズはキングスロードの高級ブティックだったのだ。マルコムのものは、それ以前のイギリスのテーラードのカルチャーをベースとし、それらを破壊したものである。つまり、元がドレスアップでしっかりとしたものだった。とはいえ、マルコムは、そこに政治的なスローガンや時事ネタや、音楽ネタやストリートアートをブレンドしていった点で画期的だったのであり、パンクロックも、またイギリス人のストリート・ダンスミュージックであり、英国ストリートカルチャーのヘリテージである。

 

 1988年のザ・セカンド・サマー・オブ・ラブ・ムーブメントのケースは、イギリスのバブル景気の崩壊のタイミングと合い、ラブ・ドラッグMDMAにアシッドハウス 、イビザからのバレアリックビーツ、そしてドレスダウンでダンサブルなファッションの組み合わせによって、社会現象となった。金はない。あるものは、廃墟(倒産した会社、工場、倉庫)、人、時間、サウンドシステム、DJ、MDMAである。これをブレンドする。ラブ・ドラッグMDMAは、反復するダンスミュージックと親和性が非常に高く、反復運動ダンスすることでセロトニンを誘発し、ハイになる。そして、未曾有の不景気を脱したのだ。

 

 80年第後半から90年代の前半のイギリス人の口癖は、「NEVER MIND 決して気にしない」であった。何が起こっても「NEVER MIND 決して気にしない」と呪文のように言い続け、踊り続けることでコミュニティーが構築され、才能が発掘され、開花して、経済が生まれていった。その気流が政府レベルまで昇りつめて、国自体が未曾有の好景気となって、国の鬱抜けとなったのだ。

 

 ただし、グローバリズム資本主義が行き過ぎてしまった。そこで起こったのが、反グローバリズムでEU抜けのブレクジットで、それが更に好景気を生んでいるのだから、日本とは真逆である。国の景気が良いとは、国民が未来が良いに決まってると信じていることだ。不景気とは国民が未来に対して不安なことだ。

 

 先日、NMEの記事でイギリスに住む45歳以上の人々のうち370万人を超える人々が1週間に一度はクラブを訪れている可能性があるという新たな調査結果が発表されている。イギリスの人口は日本の約半分の6500万人。45歳から59歳までが1355万人、45歳から64歳までの人口が1655万人である。仮にクラブに行くのが59歳までと考えると、45歳から59歳までの四人に一人以上、64歳までと考えると、45歳から64歳までの五人に一人以上が1週間に一度はクラブを訪れている可能性があるのだ。世界一の踊る国家である。

 

 しかし、日本人が踊らないのかといえばそうでもない。当時、日本からの友人をウェアハウスパーティーに連れて行ったときのこと。彼は日本でクラブに行ったことは一度もなかった。彼はダンスしたことがなかったのだ。その彼がMDMAを服用して、リズムをとり踊り始めた。時間は23時くらいであった。30分に一度の頻度で彼の様子を見に行ってみる。彼は完全にダンスマシーンと化していた。「すごく踊ってるね」と声をかけると彼は我にかえり迷惑そうな表情を浮かべ「何言ってるんですか。踊ってませんよ」と言う。本人は自分がダンスマシーンと化しているのに全く気がついていないのである。それで、彼をそのまま放置して、また30分後くらいに彼の様子を見に行ってみる。彼は完全にダンスマシーンと化している。そこで、彼に「すごく踊ってるね」と声をかけると、彼は我にかえり迷惑そうな表情を浮かべ「何言ってるんですか。踊ってませんよ」と言う。そして、また彼を放置して、また30分後くらいに彼の様子を見に行ってみる。結果は同じである。これを朝まで繰り返した。

 

 朝の8時を過ぎた頃、彼は満面の笑顔の人々に囲まれていた。彼に「すごく踊ってるね」と声をかけると彼は我にかえり迷惑そうな表情を浮かべ「何言ってるんですか。踊ってませんよ」と言う。しかし、彼のダンスは止まらない。足元からは、チャップン、チャップン、と音がしている。彼はハイカットのスニーカーを履いていた。彼の滴り落ちる汗がスニーカーの中に溜まり、彼がステップを踏むたびにチャップン、チャップン、と鳴っているのだ。それが溢れ出て彼の周りは円状に濡れていた。それを見て、多くのイギリス人がスマイルで彼に声をかけるのだが彼は英語が全く理解できない。イギリス人たちは彼が全く英語が話せなくとも彼にずっと話しかけている。それも大勢の人々がだ。彼のダンスと汗だけでイギリス人とのコミュニケーションは完全に成立していた。彼らは友人をみて「すごくいいやつだ。信頼に値する人間だ」と言っていた。わかる人にはわかる話だが、わからない人には一生かかってもわからない。ザ・セカンド・サマー・オブ・ラブ・ムーブメントが、どれほどクレイジーだったのかを描写するエピソードのひとつである。

 

 マルコムマクラーレンのセックスピストルズは歌った、NO FUTURE ♪  いや、それは間違っている。未来は良いに決まっている!

 

 

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PlasticBoys 〈夢には従わなければならない それは正夢だからだ〉 2018 acrylic on paper. 150×112cm

 

 

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