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吉山森花 『だけど私はカフカのような人間です』 第二回《写真》について

沖縄県恩納村に生きるアーティスト・吉山森花のフォト・エッセイ。第二回は《写真》について。石川真生から学んだ“かっこいい”写真の神髄。

 私は石川真生さんという世界的にも有名な写真家に可愛がってもらっていて、そのせいか、よく写真に詳しいものだと勘違いされるのだけど、実を言えば、私は写真というものについて、まったくと言っていいくらい何も知らない。素人以下だという自覚もある。そもそも、私は写真を誰かに教わったことなど一度もなく、いつも感覚だけを頼りに写真を撮っている。

 

 私が写真を撮るようになったのは真生さんが私に写真という新しい表現方法の存在を気づかせてくれたからだ(私にとっては新しい表現方法だった)。

 

 2014年に真生さんと写真集を作ってから、私は自分のカメラを買うために県立芸術大学でヌードモデルのバイトを始めた。ヌードモデルは時給がとても良く、私は人前で裸になることにもとから抵抗が全くなかったので、私にとっては素晴らしいバイトだった。その後、私はバイトで得たお金を全部使ってNIKONのカメラを購入した。どのカメラを買っていいかもまるで分からなかったので、その頃に知り合ったカメラに詳しい友人に相談して、その人がオススメしてくれたものをそのまま購入したのだ。

 

一眼レフを買って初めて撮った写真

 

 真生さんは私に一度も写真の撮り方やカメラの操作について教えてくれたことがない。それには真生さんらしい理由があり、いわく、写真は下手でもなんでもカッコイイ写真が撮れていればそれでイイのよ! なのだそうだ。つまり技術はあるに越したことがないけど、たとえ技術がなかったとしても、撮れた写真がめちゃくちゃかっこよかったらそれでいい、ということだ。

 

 真生さんの言葉に、私は、なるほど! と思い、以来、自ら特に学ぶこともせず、誰かから教わることもせず、カメラの操作もなんとなくで、自分が見て素敵だと思った場面を感覚で撮っている。だから、私は個展もやったりしているけど、実際のところはエセ写真家なのだ。

 

 しかし、そんな適当すぎる私の写真を真生さんに見せると、なぜかとても褒めてくれる。感覚だけで撮っている割には良い写真が撮れているらしい。

 

 私はよく泥になる。泥になった時にセルフポートレートを撮ると、私は泥を撮れているなと感じて満足する。私は人間という生き物だが、泥の時は泥であるし、花の時は花なのだ。私が泥になってる時は、泥の冷たさとかネトっとした質感とか重さとかを、完全にではないけど写真に写せていると思う。写真のことも絵のこともよくわからないけど、良い写真を撮れる人というのは、泥や砂や花や虫になっている、普段は目に見えないモノを切り取り、封じ込めることができる人なのではないかな、と思ったりもする。

 

(Photo by MORIKA)

 これまでの名だたる写真家達が撮ってきたモノも、実は目に見えないモノなんじゃないかと思う。“それ”は一瞬しか見えないかもしれないし長時間見えるものかもしれない。でも“それ”は全部の人間に見えているものではなく、ごく一部の人間だけが感じ取り見ることができるものなのだ。“それ”を写真に封じ込めることができたら、その時、良い写真が生まれるんじゃないだろうか。きっと技術や知識も必要なんだとは思うけど、写真において一番大切なのは、“それ”を切り取ることができる力なのだろうと私は思う。

 

 まだまだクソアマチュアの私が言うのもなんだけど、本当に素晴らしい写真を撮れる人間は稀にしかいない。もしかすると、そういう人間は前よりも減っていってるのかもしれない。技術の進歩とともに人間の感覚がどんどんと奪われていってるように私は感じる。今では誰でも簡単に綺麗で上手な写真を撮れるけど、誰もが撮れない良い写真を撮ることはとてつもなく難しい。

 

 だから真生さんは私に、とにかくかっこよかったらそれでいいのよ! と教えてくれたのだと思う。今になってみれば真生さんの言ってたことの意味が私にも少しは分かるし、心から賛同できる。

 

 私は写真のことも絵のこともまったく知らない人間だけど、写真を撮って写真を売って、絵を描いて絵を売って生きていきたい。ちなみに、私の写真作品の最後は私の死に顔で締めくくられる予定なので、どうか楽しみにしていてほしい。

 

(Photo by MORIKA)

 

 

〈MULTIVERSE〉

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PROFILE

吉山森花 よしやま・もりか/沖縄県出身、沖縄県在住。Instagram @morikarma。