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PlasticBoys 『夢には従わなければならない それは正夢だからだ』 #03 私は「副作用の無いHIGH」を好むのだ。黄金のフルムーンビームを眉間に浴び…

伝説のゲイクラブ、『PlasticBoys』の入り口の扉の、三角形の絵の下には、こう書かれていた。“夢には従わなければならない それは正夢だからだ”

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 伝説のゲイクラブ、『PlasticBoys』の入り口の扉の、三角形の絵の下には、こう書かれていた。

 

夢には従わなければならない それは正夢だからだ

 

 

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 木々に囲まれた農場、アグロツーリズモ・ホテルの内部に居を構えるPlasticBoysは、特別なアプローチを備えている。飛行機に乗り込むボーディングブリッジと同じ型の通路は、長さは100メートルに及び、緩い登り勾配となっている。

 その中に足を踏み込むと、小型スピーカーから心臓の音が聞こえてくる。

 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、

 そこへ、10CCの「I’m not in Love」のバスドラのビートだけのループがシンクする。宇宙船地球号のフライトインフォメーションが、カタルーニャ語、スペイン語、フランス語、英語、イタリア語、ドイツ語、日本語、ポルトガル語、ロシア語、中国語、アラブ語などのマルチリンガルで流れてくる。

 

 

 セキュリティゲートをくぐり抜けると、そこには、10センチ以上はある分厚い無垢のフィンランドバーチのドアがある。そのドアに描かれた三角形の絵の下には、こう書かれている。

「夢には従わなければならない それは正夢だからだ」

 ドア上部に設置されたカメラにより、入場者は顔認識される。入場者は事前登録されており、一般のクラブのようなゲストリストや入場にあたってのネゴシエーションは存在しない。顔認識後は、ドアが自動的に開かれる。ほんのりと青森ヒバの香りに包まれる。

 

 

 「All for your Brain Function」の赤いアナログ・ネオンライトが輝くエントランスホールのレセプションで、スマートフォンやスマートウォッチの類を預けたあと、ラウンジのカウンターで脳機能ドリンクをオーダーする。脳をドライブするには良質のブドウ糖と油が必要だ。つまり、米麹の甘酒に、ヘンプオイル、天然の北海道日高産昆布の濃縮エキス、ジンジャー、セイロンシナモン、ターメリック、ビタミンB12カイワレが統合されたものだ。

 最高のブドウ糖である甘酒は急激な血糖値の上昇を引き起こす副作用があるのだが、昆布とジンジャー、セイロンシナモン、ターメリックが、それを抑制する。昆布のグルタミンは脳から発信される電気信号を高速化する。ヘンプオイルはオメガ3を含み、ビタミンB12カイワレは鬱とメンタルに効き、甘酒の乳酸菌は腸に効く。脳と腸はシンクしている。

 私は、サスティナブルな「副作用の無いHIGH」を好むのだ。ガラス貼りの天井から黄金のフルムーンビームを眉間に浴び、私の脳はドライブする。

 

 

 ステージ横のバックステージから地下へのスロープを下り、ダンスフロア下の地下通路を通り、またスロープを登りDJブースへと入る。テスラパワーウォール2からのバッテリー電源からピュアな電気が通電された機材たちは、もう充分にあったまっている。

 

 

 

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 iPhoneの世界的普及は人々の耳を進化させた。耳の内部空間は小さく、イヤフォンに使用されるスピーカーユニットは極小だ。ユニットの重さは微量で、音のレスポンスは鋭い。耳の中で完成された音をそのまま聴くことになる。それは、レイテンシーの無い音、とも言える。

 一般のクラブのウーハーのスピーカーユニットは巨大で重く、それをドライブするのに時間がかかってしまう。ツイーターからの高域が一番速く音が出て、中域のスピーカーユニットがそれに続き、最後に低域のウーハーが続くので、素のままだと出音がバラバラだ。だから、ネットワークを使用して、高域と中域を低域の出音に合わせるために待たせている。そこには、レイテンシーが生まれるし、人工的で不自然な音となる。

 

 

 iPhoneによってゼロレイテンシーに慣れ、進化した我々の耳と脳は、レイテンシーの大きな音に違和感を感じるようになったのだ。大きなスピーカーユニットは、大きな音を出すのには適しているが、ディテイルを表現するには不適格だ。ディテイルを表現するには、レイテンシーの無い小型スピーカーユニットを数多く設置することだ。レイテンシーゼロの小型スピーカーを大量に導入することにより、超高速でディテイル溢れる大きな音となる。

 

 

 音が良いということは、どういうことか? それは響きが良いということだ。人は良い響きに反応する。

 そして、音のクオリティーは低域で決まる。料理のダシと低域は同じ働きをする。ダシはトッピングされる甘味、酸味、塩味、辛味、苦味、渋味を拡げる。同じように、低域は、高域と中域をより響かせるのだ。

 

 

 DJプレイする音源にはある問題がある。アナログレコードの音は完全にハマれるのだが、DTM、PCとソフトで作られたデジタルファイル音源は、ブループリントというか、設計図というか、デモトラックのように感じられるのだ。空気感と熱量とディテイルがアナログレコードと比べると足りないのだ。

 昨今のミュージックシーンでは、新曲はデジタルファイルだけのリリースのケースが多い。新曲はニュース性が高い。一方、アナログレコードは音質は良いのだが、ニュース性に欠ける。アナログレコードの音をリファレンスにして、音の残像のイルージョン(幻想)を利用し、デジタルファイルの音をアナログレコードに近づける。ここでは、真空管を使って、空気感と熱量とディテイルをライブマスタリングする。そして、デジタルファイルのニュース性の残像を利用し、アナログレコードをかける。こうして、ニュース性に欠けるがハマれる音質のレコードと、空気感と熱量とディテイルに欠けるがニュース性があるデジタルファイルを相互補完してプレイする 。これを「デジタルファイルとアナログレコードの二刀流」と呼ぶ。

 

 

 アナログレコードは1950年代末までに普及した。それ以前は、人々がダンスするにはバンドの演奏しか方法はなかった。レコードが普及すると、下手なバンドの仕事はなくなった。バンドが生き残るために求められたものは、高い演奏力と正確なリズムキープだった。

 1970年代中盤になるとダンスシーンからディスコミュージックが生まれる。その後、1980年代に入るとシンセサイザーとドラムマシーンが普及する。そこから生まれたのがニューウェーブだ。ニューウェーブディスコなるシーンも生まれた。正確なリズムをキープするドラムマシーンと幻想的な音のシンセサイザーの普及により、超プロフェッショナルなスキルとフィールを持つバンドだけが生き残ることになった。

 1986年になるとダンスに特化したハウスミュージックがシカゴから生まれ、イギリスでナショナルチャートの1位を獲得し、世界中へ伝染して行く。シカゴのアーティストたちがイギリスのニューウェーブの影響を受けてクリエイトしたものがハウスミュージックである。ハウスミュージックはドラムマシーン、シンセサイザーなどのハードから作られた。それらのハードには独特のフィールが存在したし、出音はアナログだった。

 しかし、2000年代中盤頃になると、高性能PC、音楽制作ソフト、ソフト音源、ソフトエフェクターなどのソフトが次々に開発され、音楽の制作が合理化していく。同時にそれはコストダウンをもたらし、アプリでコピペしただけの、組み合わせの音楽が大量生産され、市場に出るようになった。

 

 

 音楽制作の合理化の果ては、音楽の空気感と熱量とディテイルと感動の喪失であった。そして、再びバンドが求められるのである。ただし、それは、コンピュターと人間の融合、つまり1979年にワールドツアーをやった時のメンバー構成(コンピューター、ギター、ドラム、ベース、シンセx2)のYMOのようなバンドだ。

 ダンスミュージックがバンド演奏に始まり、合理化とデジタル化の果てにバンド演奏へと高次的に回帰する話は、労働を巡る人間とAIとの緊張した関係を彷彿させる。

 未来を知りたければミュージックシーンを見ればいい。

 

 

 

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 ここで話はアメリカ・イエローストーン国立公園の狼に飛ぶ。

 1926年、イエローストーンの狼は家畜を襲う害獣とみなされ、人間の手によって絶滅された。その後、狼に捕食されることのない鹿が大量に繁殖し、森の草木を食べ尽くし、森と山の生態系のバランスは崩れ、環境破壊を起こした。しかし1995年に狼を再導入すると、イエローストーンは生態系のバランスが正常化し、環境は元の姿を取り戻した。

 鹿が悪いのではない。鹿の繁殖しすぎた原因は「もっと利益を」という人間の欲なのである。こうした事例は枚挙にいとまがない。たとえば資本主義の極みであるグローバリズムによって、社会のエコシステムのバランスもまた崩れている。

 人間が持つカルチュラルインテリジェンス Cultural Intelligence (以下CI)を駆使して、人間社会のエコシステムを正常なバランスにすること、それが「The Committee of 300」のミッションだ。

 PlasticBoysのメンバーシップは、この「The Committee of 300」(以下 COM300=300人委員会)という名のコアメンバーから成る。この名は、著書「1984」や「Animal Farm 動物農場」の作者としても知られるジョージ・オーウェルがメンバーであったとも言われる、英国ロンドンのタヴィストック人間関係研究所から、サンプリングしたものである。

 COM300は狼の群れのリーダーの役割を果たすアルファである。狼は群れを形成する動物である。群れには明確な順位付けがあり、最上位から順にアルファ、ベータと呼ばれる。

 COM300が連れてくるゲストたちは、PlasticBoysで脳と肉体をピュアリファイド(初期化)される。それはあたかも生まれたての赤ん坊のような状態だ。そして、狼の群れのオメガの役割となる。

 

 

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PlasticBoys 〈夢には従わなければならない それは正夢だからだ〉 2018 acrylic on paper. 150×112cm

 

 

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〈MULTIVERSE〉

「リアルポリアモリーとはなにか?」幌村菜生と考える“21世紀的な共同体”の可能性

「REVOLUCION OF DANCE」DJ MARBOインタビュー| Spectator 2001 winter issue

「僕たちは多文化主義から多自然主義へと向かわなければならない」奥野克巳に訊く“人類学の静かなる革命”

 

PROFILE

PlasticBoys プラスティックボーイズ/幌村菜生・村山悟郎・有賀慎吾・DJ Marboによるダンスバンド

お問い合わせ:plasticboysibiza@gmail.com